姉として
リアが公爵邸に訪れ、翌日。
朝起きたらまだアンジェは隣で夢の中だった為、起こさないようにそっとリアはベッドから出た。
そして支度を済ませた後、ある人物のところへと向かった。
「見つけた。おはよう、リディス」
「リアさん。おはようございます」
リアの向かった先はリディスの所だった。
リディスは薬草畑で薬草たちの世話をしており、その光景は廊下の窓からよく見えた。
だからこの広い公爵邸の中を探す手間が省け、リアは少しご機嫌だった。
リアはリディスの隣へ寄ると、呟いた。
「アンジェは……助かるのよね?」
その言葉にリディスの目が大きく見開かれた。
俯きがちなリアの瞳。
その瞳は微かに潤んでいた。
リアが泣いている所なんて見た事が無かったリディスは困惑する。
けれど、その反応からリアはアンジェの余命について聞いたのだと気付く。
「……治す方法は分かってないですね」
「ミルキー先生も分からないの?」
「どうでしょう…。けど、知ってたら何か話してくれると思うし…話さないってことは知らないって事じゃないですか?」
「……そう、だよね」
リアはそう言うと、大きな溜め息を吐いた。
ミルキーと言う医者は、アンジェが治癒魔法を使えない魔法の耐性が無い子供だと分かった時、突如伯爵邸へと訪れた謎の訪問者だった。
誰もが最初、彼を怪しんだ。
しかし、薬の知識や病気の診察が出来たこと。そして魔法の腕も素晴らしいものだったので、伯爵は彼をアンジェ専属の医師として雇われないかと声を掛け、それからミルキーはアンジェの専属医師として働き始めたのだ。
「師匠もアンジェが発病した時、酷く焦ってました。そして俺に言ったんです。病気の原因を見つけてくるからって。その間はアンジェを頼むって」
「そっか。ミルキー先生……私の後ろ盾になるって言ってくれて以降、会ってないんだよね。直ぐ居なくなっちゃったから。何処にいるか知らない?」
「ココ最近連絡を取ってないのですいません。て言うか……まだ諦めてないんですか、師匠のこと」
「なっ! そ、それは…!!」
顔を真っ赤にするリアに、リディスはやっぱりかと肩を竦める。
リアがりディスの育て親であり薬師としての知識を与えてくれた師匠でもあるミルキーに想いを寄せている事は昔から知っていたが、隣国へ留学していた間もその想いを抱き続けていた事にリディスは驚くと共に呆れていた。
なにせ、リアだって気付いているはずだ。
叶わぬ恋をしている事くらい。
そして、リディスもまた……。
「そうだ、リアさん。グレジス公爵にはアンジェの病気のこと、秘密でお願いしますよ」
「……あの子、本当に黙ってるつもりなんだ」
「アンジェなりに考えがあるんでしょう……」
「ねぇ、あの二人って本当に何も無いの? 私、嫌よ。二人がこのまま夫婦っていう形だけで過ごして行くのをただ見ているなんて……。だってアンジェはずっと素敵な結婚生活を夢見てたのよ!? 」
リアはアンジェの一番の理解者だ。
だからこそ、今の二人の関係が気に食わないらしい。
しかし
「あの家からアンジェを連れ出し、この公爵邸へと居場所を与えたのはグレジス公爵です。それに……公爵自身、アンジェの事を大切に思っているのは間違いないですって。まぁ、本人が気付いているかは謎ですけどね」
リディスの言葉にリアは冷静さを取り戻したのか、「そう…」と小さく呟いた。
そしてリアは小さく息を吐いた後、続けた。
「私は、アンジェと過ごす時間を大切にしたい。だから……」
アンジェの余命まであと六年。
リアが隣国の学院を卒業するまであと三年。
その間、長期休暇は絶対に何がなんでも帰省してアンジェと一緒に沢山過ごそう。
絶対に無駄な時間は作らない。
そうリアは心に決めた。
そして
(公爵と……話をしなくちゃ)
リアはリディスと別れた後、ルーンの書斎へと向かった。




