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姉妹 ②



「アンジェったら…そう言う不吉な冗談は辞めてよ」



そう言ってリアは笑う。

どうやらアンジェが冗談を言って自分をからかっているのだと思っているらしい。

けれど、アンジェがこんな不吉な冗談を言うような子では無い事はリアが一番よく知っている。


だからだろう。

直ぐにリアは現実だと受け取った。



「……ほんと、なの?」



リアはベッドから起き上がって震えた声でリアが尋ねる。

アンジェはその問いに答えるため、体を起こして小さく頷いて見せた。



アンジェは指輪を外し、ゆっくりとワンピースを脱いだ。

そうすれば、雪のように白い肌に浮き上がる禍々しい文様にリアは言葉を失った。


左腕から伸びるように文様はアンジェの首へ、そして胴体へと侵食していた。

リアはその文様をゆっくりと撫でながら、リアは静かに涙をこぼした。


初めて見た姉の涙に、アンジェは驚いた。その涙を救おうとアンジェが手を伸ばせば、それよりも先にリアがアンジェを強く抱きしめた。



「どうして…早く言ってくれなかったの!?」



酷く震えた声でリアが言う。

リアにつられてアンジェも目尻が熱くなり、涙が溢れ出そうになる。けれど、自分が泣いてしまったらリアの心を更に追い詰めてしまうかもしれない。


アンジェは涙をグッと堪え、何とか言葉を紡いで行く。



「お姉ちゃんに心配を掛けたくなかったの。それにお父様達にも口止めされてたから…。けどね…! やっぱりお姉ちゃんに嘘をつくのは嫌だったよ。だから本当のことを話そうって決めたの。ねぇ、お姉ちゃん。私はあと六年で死んじゃうけど…絶対に死なないからっ! だからお姉ちゃんはお姉ちゃんの未来の為に頑張って欲しい。私を気遣う必要は無いから…」



「そう言われても無理よ…! だって貴方は私の大切な妹なのよ!? 気遣わない事なんて出来ないわよ!!」



「そうだよね。だからね、お姉ちゃん。私は私なりにこの病気と戦う。だからお姉ちゃんには応援していて欲しいの。私が病気に打ち勝てる様に。魔文の呪いはだんだん私の体を蝕んでいって、最終的に私の体はもう動かなくなってしまう。けどその前に私は絶対にこの病気に勝ってみせるからっ…!」



アンジェの言葉に更にリアの目から大粒の涙が溢れ始める。

久々の最愛の妹との再会。

しかし、突き付けられた現実はあまりにも残酷なものだった。


漸く両親達から解放され、これからは監視の目を気にすること無く、これからは昔のように仲良くずっと過ごせると思っていた。



リアの学院を卒業まであと二年。

学院を退学してでもアンジェの傍に居たいが、その選択は一番アンジェが嫌がるものだ。

リアは唇を噛み締めた後、今自分に出来ることは暫くの休暇をアンジェと共に過ごすこととアンジェが病気に打ち勝てる様にサポートをすることだと思った。


リアは涙を拭った。

病気を患って一番辛くて不安なのはアンジェなのだ。自分が泣いてどうする。

そう強く言い聞かせ、リアは涙を止めた。

そしてもう一度アンジェを強く抱きしめた。



「私に出来ることをする。貴方が病気に勝てるように支える」



「ありがとう、お姉ちゃん。えへへ。話したら凄くスッキリしたよ。ねぇ、お姉ちゃん。旦那様にイリス。そして他の使用人達には私の病気は秘密にしてて欲しいの」



「どうして? だって公爵は貴方の大切な旦那様であり、イリスさんは貴方の大切な侍女じゃない!」



「皆には申し訳ないけど話すつもりは無いよ。だって私、グレジス公爵とはいずれ離縁するから」



「どうして? アンジェ、ずっと憧れてたじゃない! 幸せな結婚生活を!」



「うん。けどね、私と旦那様の間に愛情なんて無いの。お互いに利用し合ってるだけ。旦那様にはね、夢があるの。魔物の居ない平和な世界。そんな素晴らしい夢を持つ旦那様を私は支えてあげられない。病弱だし、余命が有るし、魔法も使えない。何より……」



アンジェの中に宿っているマモン。

ここ最近の魔物の活動を活発化させた原因だが、今はその活動はマモンのおかげで抑制化されている訳で、何とも言い難い存在である。



マモンの事は誰も話すつもりは無い。

それはまだ、話すタイミングでは無いと言う事だ。



アンジェは先に眠りについてしまったリアを横目に、これからの事に思いを巡らせた。






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