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妹への手紙



ノーニアス主催のパーティーが終わったその翌日。アンジェはノーニアスの館の客室で、リアに本当の事を伝えようと意を決していた。



今まで本当の事をリアに伝える事が怖かった。

これ以上…足を引っ張りたくない、と。


けれど、ライアーと再会したとこでその考えをアンジェは改めた。


足を引っ張るとか……そう言う話では無いのだと気づいたのだ。リディスの言う通り、リアはアンジェの事が何よりも大切で愛おしい存在で、病気の事も、そして結婚の事もアンジェからずっと嘘をつかれていた事を知ったらきっとリアを失望させてしまうだろう。


残り少ない生命だからこそ、最期までリアと仲良しな姉妹のままでいたい。

リアの悲しむ顔は見たくない。

けれど、大好きなリアに嘘をつき続けるのは辛い。



アンジェはペンを手に取り、ゆっくりと手を動かし始めた。



そんなアンジェの様子を、薬の支度をしながら、リディスは見守っていた。

昨日崩してしまった体調はもうすっかり良くなり、元気いっぱいの様子のアンジェに一番安堵したのはリディスであった。なにせ、彼らはアンジェが体調を崩した原因が今までのものとは違う……そう感じ取っていたからだ。

だからこそ、こうして元気を取り戻したアンジェを見てリディスは胸を撫で下ろしていた。



「今日の薬です」



「ありがとう…って多くない!? 薬ほんと嫌い……」



「ちゃんと飲んで下さいよ。苦いかもしれないですけど、グレジス夫人の為の薬なんですから」



リディスに差し出された粉薬を前にアンジェは思わず目を逸らす。


薬は……正直嫌いだ。

口に残る味と独特な香り。

そして何より嫌でも自分は他の人と違うことを改めて感じさせる薬が。


しかし、そう我儘も言ってられない。

生きる為には薬を飲むしか無いのだから。


アンジェは意を決して薬を口に含む。そうしたらリディスから水の入ったコップを差し出したので、それを受け取って水も口に含んで一気に薬を流し込む。



「に、にがいよぉ…」



「ちゃんと飲んで偉い偉い。次はもっと苦味を抑えれるよう善処しますね」



あまりの苦さに表情を歪ませるアンジェ。

やっぱり……薬は嫌いだ。



「奥様。口直しに紅茶でもいかがですか?」



「欲しいです…」



アンジェは頷くと、イリスから紅茶の入ったティーカップを受け取る。

ほんのりと香る優しい林檎の香り。どうやらアップルティーの様だ。

口へと運べば、薬の苦味は何処へやら。林檎の淡い甘さが口いっぱいに広がった。



「ありがとうございます、イリス。おかげで助かりました」



「奥様のお役に立てた様で嬉しいです」



「……グレジス夫人はもう少し味覚も内面も大人になった方が良いかもしれませんね」



「わ、私は十分落ち着いた振る舞いは出来てると思うけど!?」



「そうやって直ぐにムキになる所もまだまだ子供何ですよ。取り敢えず、今日までは安静にしてて下さい。何なら今すぐ寝て下さい」



「……はぁーい」



アンジェはベッドに渋々横になる。

そうすればイリスがアンジェへと布団を掛けてくれた。



「では奥様、失礼します」



「あ、イリス。机の上に置いている手紙をお願いしてもいいですか?」



リディスとイリスが机に置かれた封筒を見つめる。

それは先程までアンジェがリア宛に書いていた手紙だった。


全てを…アンジェの思いを綴った手紙だ。

イリスはその手紙を受け取ると、畏まりましたと返事をし、アンジェの睡眠の邪魔にならない様に、リディスと共に部屋を後にした。

突然一人ぼっちになってしまい、寂しさを覚えながら、今は寝ようと瞼を閉じた時だった。



『生きてる?』



突然おでこをつつかれ、アンジェは飛び起きた。

すると真っ赤な瞳と目が合って、アンジェはバクバクと煩く鳴る心臓の音を無視しながら、最低限の大きな声で怒鳴る。



「と、突然出てくるの辞めてよ!? し、心臓止まるかと思っちゃったじゃないっ…!」



『ボクに指図しないでよね。て言うか、此処の書庫さ、変な物語しか無いんだけど。あれだけ大きいのにぜーんぶ物語だよ? 』



「物語が好きなんだって。決まった道筋が無くて自由奔放な物語が。私だってあれだけ大きな書庫だから沢山の歴史書があるんじゃないかって期待したよ。けど、そう言うのは過去のもう分かりきった現在へと続く道筋だけが綴られてるだけで詰まらないから一切無いって言われた」



『ま、ボクに記憶を取り戻す為の時間制限は無いし、焦る必要は無いんだけどね。けど、君には時間制限がある』



「……分かってる。私、もう寝るから話かけないでよ」



アンジェはそう言うと寝返りをうって瞼を閉じた。






その日の夜、リア宛にアンジェが書いた手紙が何故かアンジェの両親の元へと届いていた。

両親はその内容に目を通した後、手紙をぐしゃりと握り締めた。




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