表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒ノ聖夜 BLACK SANCTION  作者: さわやかシムラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/29

黒ノ聖夜 BLACK SANCTION19

 猛スピードの黒いワンボックスカーが、クロウの脇をかすめて通り過ぎていった。

 何かに引っ張られるように、クロウは勢いよく後ろを振り返った。


 遠ざかるテールランプが、夕闇に溶けるように赤く輝き、あっという間に通りの向こうへと消えていった。


 確信めいた不安がクロウの胸をえぐった。

「あの女……! また厄介事に巻き込まれやがって……!」


 考えるより先に身体が動いた。

 虚空から『サンタの袋』を掴み取り、その中から鈍く光る一枚の板――クロウ専用の『空飛ぶスノーボード』を引き抜く。

 クロウはスノーボードの上に飛び乗ると、アスファルトを力強く蹴飛ばし、重力を無視して高く大空へ飛び立った。


 車が消えた方向へ、茜色から群青へと変わる空を滑空する。


 眼下を走る無数の車のライト。

 その中から、あの一台を見つけ出すのは至難の業だった。


「くそっ、見失ったか!」

 クロウは手近なビルの屋上に舞い降りると、舌打ちをしてその場を歩き回った。


 どうする――。良子の行き先を特定できる何か――。


「……背に腹は代えられねぇか」

 クロウはスマホを取り出して、何度かタップすると、耳元にあてた。


 コール音が数回鳴ると、スピーカーから男の気のない声が聞こえてきた。


『はい、どうしました、クロウさん?』

「おい! 朧井! お前、良子の端末のGPS拾えるか!?」

『うげ。……ちょっとやめてくださいよ。僕、クロウさんにシメられてからちゃんと心入れ替えて、そういうの卒業したんですから』

「ごたくはいいんだよ! 出来るのか出来ないのかどっちだ! すぐに今の居場所特定しろ!」

『……えええー?』

「緊急事態だ、早くしろ!」

『わかりましたよぅ。でも折れた片手は使えないんで、時間かかりますから折り返していいですか?』

「ふざけんな、秒でやれ! なる早だぞ!」


 通話を切ると、クロウは再び空へ舞い上がる。


 意味はないかもしれないが、空中から黒いワンボックスカーが駐車していたりしないかと、地面に這わせて視線を動かしていった。


 だが、五分も経たないうちに朧井からの着信がきた。

 クロウは空中でボードを傾けながら応答ボタンを押す。


「もしもし! 早いな!? 場所わかったか!」

『ええ、余裕でした。良子さん、脇が甘いんで。以前と同じく『追える状態』のままでした。倉庫街の一角から動いてないようですね。メッセージでマップ送っておきました』

「マジかよ! サンキューな! でももう二度とやんなよ!」

『えええー、今の僕怒られるところ? 理不尽すぎません?』


 朧井の抗議を無視して、クロウは通話を切った。

 スマホに送られてきた地図を確認する。

 光る点は、川沿いの外れにある一棟の廃倉庫を示していた。

「ビンゴだ」


 影に紛れるように停められた黒いワンボックスカー。

 それを視界に認めると、クロウは少し離れたところにスノーボードを下ろした。


 シャッターの降りた倉庫の前に作業服の男が三人、楽しく雑談をするように装って(・・・)いた。

 会話をしているように見せかけて、三人とも視線は一切交わらない。身体は動かしたりしているが、互いに視界を補うように、顔の向きは変わらなかった。


 壁の角から覗くように観察するクロウ。

「そのままいけば、まず見つかるな」

 だけど、クロウはニヤリと口角をあげる。


「見張り、ご苦労さんだけど、サンタさんは隠密行動の達人なんでね。見つからずにプレゼントを届けるなんて、朝飯前なのさ」


 クロウはサンタクロースの能力で、虚空の中に手を突っ込み、乱暴に『黒いサンタコート』を握り締める。勢いよく取り出したコートは、夜風をうけてはためいた。


 見つからない。気づかれない。――それがサンタのコートだ。


 クロウはそれを肩に羽織ると、正面突破――一足飛びに男達の元へ飛び出した。


 男たちは、目の前から迫る黒い影に気づくことすらできなかった。

 コートの隠密効果で認識が遅れた男たちの懐へ、クロウは幽霊のように滑り込む。


「……あ?」

 一人の男が間の抜けた声を上げた瞬間には、勝負は決していた。

 すれ違いざまに放たれた拳が、三人の顎を正確に打ち抜く。

 吹き飛んだ男たちは悲鳴をあげる暇もない。

 一人はシャッターに叩きつけられて沈黙し、残る二人も地面を転がったまま、ピクリとも動かなくなった。


「悪いな、寝ててくれ」

 クロウは倒れた男を跨いでシャッターに手を掛け、力任せに開けようと試みる。

 バァン!とシャッターが派手な音を立てるがビクともしない。

 内側から施錠されている。電子ロックか、物理錠か。

 どちらにせよ、こじ開けるには数分のロスが生じる。


 倉庫内から漏れ出る鼻をつくガソリンの刺激臭が、クロウの判断を早めた。

 一刻の猶予もない。

「チッ、鍵を開けてる余裕はねぇか」

 クロウは空から降り立った時に、倉庫に天窓が見えたのを思い出す。


 クロウは頭上――倉庫の屋根を見上げた。


「なら、サンタらしく『煙突』からお邪魔するとしますか」

 クロウはダクト配管に足をかけると、一気に屋根の上へと駆け上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ