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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

生まれ変わったら曹昂だった。 前世の知識を活かして宛城の戦いで戦死しないで天寿を全うします 外伝

作者: 雪国竜
掲載日:2022/01/03

明けましておめでとうございます。

去年の董卓暗殺の際で連環の計が絡まない話が見たいという要望に応え投稿いたしました。

大まかに話は変わっていませんので、少しだけ違う程度の話です。

確認不足で、一部誤字がありましたので、訂正いたしました。

 初平二年(西暦191年)。十二月。


 後もう少しで年越しという時期に長安の近くにある郿城にいる董卓の元に孫堅が敗死した情報が齎された。

「ははは、そうか孫堅が死んだか。はははは」

 上座に座った董卓は孫堅が死んだという報を聞いて手を叩いて喜んだ。

「真に。これで相国に歯向かう敵が減りましたな」

 側にいる李儒も董卓に賛同する様に喜んだ。

 董卓は手を叩くのを止めたが、顔は喜色満面のままであった。

「李儒よ。今宵は宴を行うぞ。諸卿大臣達を我が城に呼び寄せよ」

「ははぁ。承知しました」

 李儒は一礼して離れて行こうとしたが、董卓は呼び止めた。

「待て。李儒。これを機に朝廷に蔓延る不穏分子を一掃するぞ」

「不穏分子ですか? それはいったい誰の事でしょうか?」

 今の所、歯向かう者達が誰なのか分からない李儒は誰なのか分からず訊ね返した。

「決まっている。衛尉の張温だ」

「あの者ですか。しかし、罪状が」

「ふん。前々からあ奴は袁術と親しくしているそうだ。其処を使う」

「では、張温を呼び寄せて袁術と内通しているという事で」

「そうだ。張温の処刑が終わったら…分かるな?」

「承知しました」

 李儒は頷くのを見て董卓は宴が楽しみなのか笑い出した。


 その夜。


 郿城の大広間にて宴が行われた。

 山海の珍味を取り寄せて目も鼻も楽しませた。

 宴を楽しませる音楽が鳴り響く。

 宴に参加している大臣達は楽しみつつも、今日は何のお祝いで宴が行われているのか知らないのでいた。

 その内、董卓か誰かが教えてくれると思いそれまで酒と料理を楽しんだ。

 そんな折、董卓が手を掲げると音楽が鳴り止んだ。

「皆の者。今宵は宴に集まり楽しんでくれている様で何よりだ」

 董卓が酒を掲げつつ言う。それを聞いて大臣の一人が気になっていた事を訊ねた。

「相国。今宵はどのような祝いで宴を行われたのですか?」

 大臣の問いかけに董卓は直ぐには答えず含み笑いをし酒を煽った。

 側にいる侍女に酒を注がせながら董卓は面白そうに話した。

「今宵の宴は儂に歯向かう仇敵の孫堅が死んだ事を祝っての宴だ」

 それを聞いて大臣達は顔を顰めた。

 まさか、人の死を祝って宴を行うと聞いて祝うなど彼らの常識では有り得ない事だからだ。

「ははは、しかも嘗ては儂と歯向かう仇の劉表と戦い敗れたそうではないか。滑稽な事では無いか。はははは」

 董卓は面白いのか笑っていたが、大臣達は顔を凍り付かせるだけであった。

「どうした? 皆の者。面白くないのか? うん?」

 董卓が笑うのを止めてそう訊ねて来た。

 董卓の顔を見てこれは笑わないと殺されると思ったのか、大臣達は顔を引きつらせながら笑い出した。

「そうか。それ程に面白いか。皆も儂と同じ気持ちで嬉しく思うぞ。ははは、さて、音楽を鳴らせ。宴を楽しもうぞ」

 董卓が笑顔でそう言うので楽士達は楽器を取り音を鳴らした。

 音楽が鳴りだしたので、大臣達は料理と酒に手を付けて嫌な気持ちを紛らわせた。

 その大臣達の中には王允と張温の姿があった。

 二人は長く朝廷に仕えた事で古くからの友人であった。その事を考慮してか隣の席であった。

「今宵の宴がその様な事で開かれたと知っていたか?」

「いや、知らぬ。知っていれば、来なかったものを」

 張温の問いかけに王允は首を振りながら溜め息を吐いた。人の死を祝う宴など二人の常識からしても考えられない事だからだ。

 その後、二人は無言で酒と料理を食べたが、今回の宴の趣旨を聞いて美味しいという思いがしなかった。

 このまま宴が終わるのを待つだけだと思われたが。

 其処に呂布が入って来た。

 呂布は董卓に一礼すると、宴の席に居る大臣達を睥睨した。

 そして、張温を見つけると近づいてその襟首を掴み引きずり出した。

「な、なにをする⁉」

「黙れ。謀反人。貴様が袁術と繋がっている事など相国はお見通しだっ」

「何を言って、濡れ衣だ!」

「黙れっ」

 呂布は張温を引き摺り董卓の前まで連れて来た。

「張温。まさか、袁術と親しくしているからと言ってその袁術と通じるとは」

「ま、お待ちください。相国。わたしは袁術と通じてなど」

「黙れい‼ 呂布。裏切り者の見せしめとしてこの場で斬れっ」

「はっ」

 董卓の命令により呂布は腰に下げている剣を抜いた。

 煌めく刃を見て張温は顔を引きつらせる。

 恐怖のあまりに言葉が出ないのか、口をパクパクさせた。

 呂布は容赦なく刃を振り下ろし張温の首は胴体と泣き別れとなった。

 斬られた張温の首が床に落ちると、一拍置いて胴体も床に倒れ切赤い花を咲かせた。

 大臣達は一様に恐怖の叫び声を挙げ、持っていた箸や杯を取り落として顔を青ざめた。

「はははは、裏切り者には良い末路よ」

 張温の首を見て董卓は笑いながら酒を煽った。

「呂布。首尾はどうであった?」

「はっ。張温の家族一族は殆ど捕らえました」

「殆ど? 何人か逃がしたのか?」

「はっ。張温の娘と孫が家人と共に逃げ出て今、探させております」

「……まぁ良い。明朝、捕らえた張温の一族は処刑しろ。その二人も見つけ次第処刑せよ」

「はっ」

 呂布はそう言って一礼して部屋から出て行った。

 呂布と入れ替わる様に兵士が入って来て、張温の死体を片付けに掛かった。

 片付けられる友人の死体を見て王允は人知れず涙を流した。


 宴が終わったその日。


 参加した者達は沈痛な表情で郿城を出て長安に急遽作られた自分達の屋敷へと戻った。

 王允も馬車に揺られながら、目に涙を浮かべていた。

 長年の友人の張温が死んだ事を悲しんでいた。

(ああ、長生きはするものではないな……)

 目の前で友人が殺されても、何をする事が出来ない自分に腹を立てるが、しかし、自分一人では何も出来ない無力感に王允は世の無情さを嘆いた。

 そして、馬車が屋敷に着き王允が籠から降りると、物陰から誰かが出て来た。

「うん? お主らは」

 王允は物陰から出て来た者達の顔を見て驚いた。

「お久しぶりですっ。王允様」

「お久しぶりですっ」

 物陰から出て来たのは先程の宴で殺された張温の一人娘の張泉(ちょうせん)と言い、もう一人は孫の張允であった。

 二人の他に家人と思われる者達数名居た。

 皆、慌てて逃げて来たのか、身なりはボロボロで埃と泥塗れであった。

「張泉と張允ではないかっ」

「王允様。どうか、どうか、暫くの間で良いので匿って下さい」

「お願いします。父の長年の友人である貴方しか頼れないのですっ」

 二人は頭を額づかんばかりに頭を下げた。

「詳しい話は中で聞こう。ともかく、入りなさい」

 このまま居たら董卓の手の者に見つかるかも知れないと思い王允は張泉達を屋敷の中に入れて門を閉じた。

 張泉達はまずは身なりを綺麗にした。 

 それから、二人は王允の書院に案内された。

 部屋に入った二人を王允は笑顔で出迎えた。

「少しは気持ちが落ち着いたか。家人達は腹を空かせていたのか、今食事を与えている。お主らも腹が空いているのであれば、何か料理を持って来させるが?」

「いえ、結構です」

 張泉はそう言って用意された椅子に座ると、張允もその隣の席に座った。

「この度は我らを匿って頂き感謝します」

 張泉は頭を下げて感謝を述べると張允も倣うように頭を下げた。

 王允は気にしなくていいとばかりに手を振る。

「お主らの父とわたしは友人だ。その友人の子供が頼って来たのに無下にすれば、あの世に居るお主らの父に詫びようがない」

 王允の話を聞いて、二人は既に張温が亡くなった事を知った。

「子師様。ではお祖父様は」

「……郿城にて内通の罪という事で処刑された。わたしの目の前で」

 その時の光景を思い出したのか王允は拳を握る。

 それを聞いて張泉は気が遠くなったのか、倒れそうになったのを張允が支えた。

「気をしっかりと持ってください。叔母上」

「う、うん」

 甥の声掛けに張泉は気を取り戻した。

 二人は叔母甥の関係だが、張泉は十一歳。張允は十六歳と五歳年下である。

 だが、序列で言うと張泉は張允の叔母にあたる。

 余談だが張温の妻は張泉を生んだ後、産褥で亡くなった。

「わたしが聞いた話では一族は捕まったと聞いたが」

「はい。父が屋敷を出た後、直ぐに董卓様の兵が屋敷にやって来て謀反の証拠を探す為と言って入って来て、その探している最中に謀反人の疑いがあるので捕縛すると言って一族の者達は捕まりました。抵抗した者は容赦なく殺されて……」

 張泉は話していてその時の事を思い出したのか、涙を浮かべた。

「わたしと叔母上は父と家人の手により逃げ出す事が出来ました。このまま長安に居れば捕まる事は分かっていたのですが、全ての門を封鎖されて逃げる事が出来ず、それで子師様を頼る事にしたのです」

「そうであったか。なに、今すぐとはいかないが。その内、長安から出す手引きをしよう」

「おお、ありがとうございます」

 張允は頭を下げて感謝を述べた。

 張泉も頭を下げた。

 王允は使用人に二人を別室に案内させて一晩を明かさせた。


 翌日。


 流石に張温の親族を二人を一緒に与れば、一緒に捕まると思った王允は長安を脱出する時まで、張允達を別々の場所で匿う事にした。

 王允は信頼する知人に張允を預ける為に、張允と共にその知人の下に向かった。

 張泉は王允の屋敷に居る事となった。

 客人という事で、張泉はする事が無く暇そうにしていた。

 使用人達は忙しそうに仕事をしているので、遊び相手も居なかった。

 王允が帰って来るまで暇だなと思う張泉。

 其処に屋敷の門扉が激しく叩かれた。

『開けろ‼ 開けぬか⁉ 我らは董相国の命で参ったのだぞ‼』

 扉を叩いている者は良く聞こえる様に大声を上げた。

 その声を聞いて使用人が慌てて、扉に掛けている閂を取り扉を開いた。

 と同時に武装した兵士達が屋敷に無理矢理入り込んで来た。

「な、何事ですか⁉」

「此処に謀反人の一族が逃げ込んだかも知れぬ。屋敷の中を探させて貰うぞ‼」

 使用人が訊ねると、兵士を率いて来た将である呂布が使用人に来た理由を述べた。

「そんなっ⁉ 屋敷の主は不在です。主が不在の時に、その様な事をされては困ります。せめて、主が戻るまでお待ちを‼」

 使用人も張泉が居る事を知っているので、もし見つかれば自分達も連座に連れて行かれ処刑されるのではと思い捜索を止めて貰おうと頼んでみた。

「五月蠅い! 相国の命に背くと言うのであれば、この場で斬る⁉」

 使用人に一喝し剣を抜く呂布。

 陽光に当たり煌めく刀身を見て使用人はこれ以上は無理と判断した。

 兵達は屋敷中を探し回った。

 呂布も剣を手に持ちながら一人で屋敷中を探し回った。

 そして、ある部屋に入るとまだ小さな張泉が居るのを見つけた。

「・・・・・・ひっ⁉」

 剣を持って入って来た呂布を見るなり、その張泉は悲鳴をあげた。

 張泉は自分が謀反人の一族という事が分かっている為、絶望に染まった顔をしていた。

 その張泉を見た呂布はと言うと、その張泉を見て直ぐに手配書に描かれている娘だと分かった。

 後はこのまま連れて行けば良いだけなのだが。呂布は躊躇していた。

(・・・・・・娘がもう少し大きくなったら、このぐらいになるか)

 張泉を数年前に生まれた実の娘と重ねて見ていた。

 そして、このまま張泉をこのまま連れて行けば、間違いなく処刑される。

 その光景を思い浮かべると、嫌な顔をする呂布。

(・・・・・・こんな小さな子供を目こぼしした所で、何も変わらないな)

 張泉を自分の娘と重ね見た呂布は別に殺す必要は無いと思い連れて行く事を止めにした。

 呂布は剣を鞘に納めて背を向けた。

「・・・・・・二度と俺の前に姿を見せるな」

 呂布はそう言ってその部屋から出て行った。

 そして、屋敷を捜索している兵達に此処には謀反人の一族は居ないので別の所を探すと言って、王允の屋敷を後にした。

 呂布達が屋敷を後にして、数刻後。

 王允はようやく屋敷に戻って来た。

 張允を無事に知人に預ける事が出来たので安堵していると、其処に屋敷が荒れているので驚いていた。

 王允は直ぐに使用人に何が起こったのか訊ねた。

 使用人の話を聞いた王允は直ぐに張泉を探しだした。

 直ぐに張泉は見つかったので、王允は安堵のあまり膝から地面に落ちた。

 そして、張泉から事情を聴いた所、憐れみで見逃したのだと判断する王允。

(とは言え、近い内に長安から脱出させた方がよいな。問題は、張泉達から目を逸らす為に何か良い方法がないものか・・・・・・)

 王允は暫し考え込んでいると使用人がやって来た。

「申しげます。ご主人様に御客人が参りました」

「客? 誰だ?」

「陳宮と名乗っております」

「おおっ、陳宮か。良し直ぐに宴の準備を」

 王允は屋敷の片付けと宴の準備を使用人にさせた。

(ああ、そうだ。陳宮に相談して何か妙案がないか聞いてみるか。この者は智謀に優れているからな)

 良い案が浮かばない所に智謀に優れる陳宮が来たので、渡りに船とばかりに相談する事を決める王允。

 

 数十日後。

 

 長安にある董卓が開いた相国府。

 府内にある一室で董卓は目の前で跪いている呂布に怒声をぶつけていた。

「呂布⁉ 貴様、儂の命令に背くとは良い度胸だな!」

「滅相もありません。何かの誤解です」

 董卓が怒り狂う中、呂布は頭を下げて誤解だと述べた。

「何が誤解だ! 未だに張温の一族の者達が捕まらないのは、お前が逃亡を手引きしたからだと宮中に噂が流れているのだぞっ」

 董卓が指摘すると、呂布は黙り込んだ。

 宮中では張温の一族の者達が捕まらないのは、誰かが匿っているのでは?という話が広まっていた。

 一番怪しいのは張温の友人の王允だが、捜索したが居ないので違うと分かった。

 その後も捜索したが見つからなかった。

 そんな時にある噂が宮中に広まっていた。

 呂布が生き残った張温の一族の者達から賄賂を受け取り、長安から逃亡を手引きしたという噂が流れてだした。

 董卓も最初は馬鹿なと思い信じなかったが、未だに見つからないので董卓も噂を信じる様になっていった。

 張温の一族の捜索は呂布が担当していた為、余計に信憑性が増した。

 加えて、名馬赤兎を欲しさに義理の父親である丁原を殺すほどの欲深い男なので、賄賂欲しさに逃亡の手引きをしたのではと思う董卓。

 呂布としても目こぼしをしたのは確かなので、明確に違うと断言が出来なかった。

 なので、黙る事しか出来なかった。

 ちなみに、張泉達は既に王允の手引きで長安から脱出し、荊州の蔡瑁の下に送られていた。

「わたしは決して、命に背いた訳では」

「喧しい! 義父でもあり主君でもあるこの儂の命に背く奴の言葉など信じられるか⁉ そんな男に儂の身の周りを守らせる事も出来ん! この場で斬り捨ててくれる‼」

 董卓は剣を抜くと、同時に前へと踏み出した。

 後数歩で剣の間合いに入るという所で、李儒が前に出て宥めた。

「相国。相国。呂布殿を斬ってはなりません。この様な事で呂布殿を斬れば、相国は天下の笑い者となりましょう‼」

「ええいっ、お前も儂の邪魔をするか⁉」

「そうではありません。兎も角、此処は怒りをお納めください!」

 李儒が強く宥めるので、董卓は不承不承ながら剣を鞘に納めた。

「・・・・・・呂布‼ 本来であれば張温の一族を取り逃した罪で打ち首にする所だが、李儒の顔と日頃の忠勤に免じて許してやる。儂が良いと言うまで、屋敷で謹慎しておれ‼」

「・・・・・・はっ」

 董卓にそう命じられ、呂布は一礼しその場を後にした。

 呂布が見えなくなると、李儒は董卓に話しかけた。

「相国。呂布の様な天下無双の豪傑をつまらない事で叱責してはいけません」

「だが、未だに張温の一族の者達は見つからぬではないか。あ奴が関わっているのではないか?」

「相国の怒りを買うかもしれない事をする様な者ではありません」

「そうかのう・・・・・・」

 董卓は疑わしいという顔をしていた。

「嘗て西楚の覇王項羽には英布という豪傑がおりました。この者は項羽に従い目覚ましい活躍を致しました。項羽はその功績を称えて秦滅亡後、多く居る配下の中で唯一王にしました。しかし、項羽と些細な事で揉めてしまい対立する様になりました。それを見た高祖劉邦は英布と同郷の者を送り自分に寝返らさせました。呂布がこの英布の様になっても良いのですか?」

 李儒が昔の例を挙げて、呂布を大事にしろと諫言した。

「ぬぅぅ・・・・・・謹慎が明けたら、詫びの品を送るという事で良いか?」

「妥当かと」

 このまま謹慎させて、ほとぼりが冷めた所に宝物などを与えられれば、呂布は反感を抱く事はないだろうと思い李儒は賛成した。


 謹慎を命じられてから数日が経った。

 呂布はふてくされた思いを抱きながら、酒を飲んで憂さ晴らしをしようと思い、使用人に酒の準備をさせる為に呼ぼうとした所に、使用人がやって来た。 

「申し上げます。王允様がお会いしたいと参りました」

「王允が? はて、何用か?」

 呂布は不思議がりながら部屋に通すように命じた。


「突然の来訪致しました事にお許しを」

 部屋に通された王允は呂布に一礼する。

「いえいえ、お気になさらずに」

 自分よりも高い官職に就いている王允に呂布は気にしない様に言う。

「して、急な来訪という事は何かあったのですかな?」

 呂布としては其処が気になっていたので訊ねた。

「・・・・・・実は少々聞き捨てならない噂を耳にしまして」

「噂ですか?」

「はい。実は董相国と呂布殿との事です」

「ほぅ・・・・・・」

 王允は口から出た言葉に呂布は顔を顰める。

「実は、最近董相国がこう口にしているそうです」

「どの様な事でしょうか?」

「『やはり、馬欲しさに寝返った男だ。このまま、儂の身辺を守らせる事は出来んな。何処かに呂布に優る豪傑を探すか』とか『天下は広い。探せば、呂布よりも優れた豪傑は居るだろう』と呟いているそうです」

「なにっ?」

 王允の話を聞いた呂布は顔を顰めた。

 董卓の言い方はまるで、自分はもう用済みと言っている様であった。

「・・・・・・いや、義理の息子に迎えたわたしをそうそう切り捨てるなど」

「しかし、呂布殿。古来よりこんな言葉がある『飛鳥尽きて良弓蔵められ、狡兎死して走狗烹らる』と」

 この言葉の意味は捕まえる鳥がいなくなると良い弓も死蔵され、足の速い兎が死ぬと、猟犬も不要になり煮て食われるという、敵が居なくなれば軍事に尽くした功臣はかえって邪魔者扱いされて殺されることの例えだ。

「今の相国には朝廷を思いのままにする権力を得た事で呂布殿は不要な存在となったのです。悲しい事ですな」

 王允は悲しそうに首を振った。

 呂布は何も言い返す事が出来なかった。

「まぁ、義理の親子となったのですから、相国も呂布殿を殺す様な事はしないと思います。丁原とは違うのですから」

 王允の口から出た言葉に呂布は身体を震わせた。

 丁原は呂布の義理の父であった。

 その丁原を殺したのは呂布であった。

(・・・・・・まさか、用済みとなったわたしを殺すという事をするつもりか?)

 呂布はそんな思いが頭を支配した。

 殺されるという恐怖に身体を震わせる呂布。

 そんな呂布を見て王允はほくそ笑む。

(これは思っていたよりも効果があったな)

 怯える呂布を見て内心で笑う王允。

 無論、今まで話していた事は全て嘘であった。

 呂布が張温の一族を逃亡させたという噂を流したのも王允であった。

 陳宮と相談して、この策が良いと言い教えてくれた。

 王允はその策に従い行動した。

 その結果、董卓と呂布の中にヒビを入れる事に成功した。

 その成果に喜びつつ王允は屋敷を後にした。

 そして、その後も何度も呂布の下に通い、董卓に関する嘘を教え込んだ。

 謹慎している事で宮中の話を聞く事が出来なかった呂布はその言葉を信じる事しか出来なかった。

 やがて、呂布が謹慎を明けた日。

 呂布は董卓の前で跪いていた。

「呂布。参りました」

「おお、来たか。長い事お主の顔を見なかったので、気になっていたが元気そうで何よりだ」

「はっ。その様な温かいお言葉をかけて頂き恐縮です」

「そう畏まらずないで良い。これからは忠勤に励むのだ」

「承知しました」

「それと、この前は儂も言い過ぎた。詫びの品だ。受け取ってくれい」

 董卓は手で合図すると、宦官が呂布の前に金銀財宝を山の様に積みだした。

「これを全てですか・・・・・・」

「そうだ。受け取ってくれるな?」

「・・・・・・はっ。有り難く頂戴します」

 呂布は頭を下げてお礼を述べた。

「さぁ、これより朝議に向かうぞ。お主も付いて参れ」

「はい。分かりました」

 董卓は上機嫌で歩きながら進んでいく。呂布はその後に続く前に後ろを振り返る。

 董卓の後に続きながら、呂布は愕然としていた。

(まさか、王允の言う通りになるとはっ)

 謹慎が開ける前日。

 王允が屋敷に訪ねて来て、呂布にこう告げて来た。

『相国はまだ、貴殿に代わる豪傑を見つけておらぬので、下手にでるでしょう。その証拠に貴方が小国の下に参った際、金銀財宝を与えられる筈です。呂布殿が逃げるのを防ぐために』

 最初呂布は疑っていたが、本当に金銀財宝を与えられたので驚いていた。

(このまま、こいつに従えばわたしは殺させるな。ならば、その前に董卓を殺す‼)

 目の前を歩く董卓を睨みつけながら呂布はそう誓った。


 数日後。


 王允は自分の屋敷に呂布を招いた。

 それは董卓暗殺の計画を教える為だ。

 今ならば計画を話しても裏切られる心配はないと判断したからだ。

 加えて陳宮を紹介する為でもある。

 王允が陳宮と共に先に酒を飲み楽しんでいると、使用人が入って来た。

「申し上げます。今、呂布様が屋敷の門の前に来ました」

「うむ。お通ししろ」

 使用人が一礼して部屋から出て行き、程なく使用人が呂布を連れてやって来た。

「王允殿。お呼びとの事で参りました」

 呂布は王允に一礼すると、少し離れた席に座っている陳宮を見た。

「この方は?」

「わたしの友人で陳宮。字を公台という者です」

「お初にお目に掛かる。奉先殿の勇名はわたしの耳にも轟いております」

 王允に紹介された陳宮は立ち上がり呂布に一礼する。

「ご丁寧に」

 呂布も返礼すると用意された席に着いた。

 使用人は呂布の盃に酒を注ぐと部屋から出て行った。

 呂布は喉が渇いていたのか酒を直ぐに飲み干した。そして、お代わりを貰おうとしたら王允が声を掛けた。

 喉が潤ったので、王允が話し出した。

「呂布殿。今日は貴殿に話したい事がありましてお呼びしました」

「話? それはどんな話でしょうかな?」

 呂布はで王允が何を言うのか待っていると。

「呂布殿はこのままで宜しいのでしょうか?」

「……うん?」

 王允の言葉の意味が分からないのか呂布は首を傾げた。

「貴方様には天下を制する武勇を持っているというに、何時までも董卓の言いなりになっていてはその武勇も存分に使えないでしょうに。惜しい事だ」

「それは……」

 王允に言われた事が衝撃だったようで呂布は黙ってしまった。

 言われた事が余程衝撃だったのだろう。王允が董卓の事を相国と言わず様付けしないで呼んだ事にも気付いていなかった。

 更に陳宮も話に加わった。

「このままでは貴殿の武勇は董卓の良い様に使われて、最期には用済みとばかりに殺されるかもしれませんぞ」

「なっ、そんな事は・・・・・・」

 そんな想像をした所為か思わず唾を飲み込む呂布。

「確かにそういう事も有り得るかも知れんな。何せ、あの董卓であるからな」

 陳宮の言葉に王允が納得しながら呂布を見る。

 このままでは自分は殺されると言う未来を想像したのか、顔を青ざめさせていた。

 そんな呂布を見て王允達は笑みを浮かべる。

「そうならない為にする事は一つですな」

「うむ。だが、それは難しいであろうな」

「それは一体」

「董卓暗殺だ」

「うむ。董卓を暗殺すれば呂布殿の殺される未来は無くなり、貴殿は董卓を討った英雄として末代まで語られる大業を成した事になりましょう」

 陳宮と王允が董卓の暗殺と口に出した事で呂布は此処に呼ばれた意味を察した。

「王允殿。陳宮殿。貴方方は」

「呂布殿。天下安寧の為にお力添えをして頂きたい」

 話を聞いた呂布は少し迷ったが、すぐに決意は固まった。

 呂布は腰に佩いている剣を抜いた。

 王允達はどうなるのか呂布を注視した。

 呂布は持っている剣で自分の腕を切った。

「これが誓約の証だ。この呂布奉先。貴方方の大望の力となりましょうっ」

「おお、呂布殿」

「素晴らしいご決断です。これで漢室は救われるでしょう」

 王允と陳宮は呂布が計画に参加することに喜んだ。

 そして、呂布の傷の治療をしながらどうやって董卓を暗殺するかを話し合った。


 翌日。


 董卓は親族を私室に親族を呼び集めた。

「今日、この日をどれだけ嬉しき日であるか。儂が天子の御位を受ける事となったぞ」

 その証拠と言わんばかりに董卓は持っている詔勅を皆に見せた。

 親族達は喜ぶ中で、ただ一人。董卓の母である池陽君だけはブスッとした顔のままであった。

「母よ。どうした? 息子が天子の位に就くというに喜んでくれぬのか?」

「はぁ、お前が天子の位に就くとは。これは、儂も死期が近いかもしれんな」

 天井を仰ぎながら悲しそうに呟いた。

「あははは、母よ。何を言っているのだ。耳は遠いが目を霞ませながらも背筋はピンと立っている貴方をみて、誰が齢九十を超えた方だと思うのだ。儂が城に戻ったら、貴方は皇太后と敬われる身分になるのだぞ」

「はぁ、そうだと良いがな」

 悲しそうな溜め息を吐く池陽君。

 そんな母を見ても董卓は気分を悪くする事なく準備の為に部屋を出た。

 その董卓の背を見送りながら、池陽君は祈った。

(どうか、曾孫は幸せであります様に)


 別室で盛装で着飾った董卓が車に乗り、供として呂布と李儒を連れて行き、護衛に精鋭二千の兵で車の前後左右を守らせながら郿城を出立した。

 二千の兵を連れた行軍という事で朝議に向かうよりも時間が掛かった上に深い霧が出て道が暗かった。

「李儒よ。この天相を何と見る」

 あまりに霧が深いので、何か良くない事が起こるのではと気をもむ董卓。

「太師。それは考え過ぎです。あれをご覧ください」

 そう言って李儒は太陽を指差した。

 董卓は李儒が指差した所を見ると、其処は太陽があり、虹色の環が掛かっていた。

「これぞ正しく紅光紫霧の賀瑞と言えるでしょう」

「成程な」

 李儒にそう言われて董卓は胸にある不安な気持ちが消えた。

 そして、霧が晴れて道が明るくなり、長安が見える頃には中天と言っていい時間であった。

 長安の外城、そして市街を通り抜け、王城門まで来ると王允を除いた百官達が出迎えていた。

「「「おめでとう存じ上げます」」」

 百官達は拝伏しながら祝いの言葉を述べた。

 董卓はそれを聞きながら王允の姿が無い事に気付いた。

「何故、王允の姿が無いのだ?」

「王允様でしたら、宮中でお待ちです」

「そうか」

 百官の一人に訊ねると、王允が宮中に居ると分かり安堵する。

 そして、馬車を進ませて禁門の前まで来る董卓一行。

「掟により此処から先は護衛は十名ほどでお願いします」

 門を守る兵がそう言うと董卓は李儒に連れて来た兵を任せて、呂布と十人ほどの兵を連れて門を潜った。

 門を潜り終えて閉まり禁廷に入ると、殿門の前に王允が巻物を持って立っていた。

「王允。其処で何をしている?」

 車の中で董卓は訊ねると、王允は答えないで持っている巻物を広げた。

「勅命である‼ 逆臣董卓は朝廷を冒涜し、先帝陛下を始め数多の無辜なる民を殺めた。その罪、万死に値する。漢室の忠勇なる志士達よ。逆賊董卓を誅殺せよ」

 王允が大声を上げて言うと、隠れていた御林軍の兵百人が出て来ると、剣を抜き喊声を上げながら董卓に向かって行った。

 供としてついてきた兵達は剣を抜いて応戦したが、多勢に無勢で瞬く間に切り殺された。

 董卓を乗っている馬車から引きずり出して、兵達は持っている得物で董卓の身体を傷付けた。

 腕、肩、足など斬り下げられたり打ち突かれても致命傷に至る様子はなかった。

 董卓が衣の下に曹昂が用意した鎧を着用していたお蔭だ。

 多数の傷を作りながら、董卓は呂布の元に行く。

「呂布、呂布よ。何をしているっ。この義父の危機を救わぬかっ」

 絶叫しながら助けを求める董卓。

 呂布は何も言わず董卓の元に来た。

 これで安心できると思ったのも束の間。

 呂布は持っている方天画戟で穂先を突き付けた。

「勅命により、逆臣董卓を討つ」

「呂布、お前まで」

 董卓が最後まで言い切る前に呂布は董卓の心臓目掛けて方天画戟を突き刺した。

「ぎゃあああああっ‼」

 血が霧の様に噴き出しながら絶叫する董卓。

 地面に倒れた後、暫くの間、身体をピクピク震わせた後で完全に動かなくなった。

 董卓が動かなくなると、誰からともなく『万歳』と叫び出した。

 禁廷に集まった文武百官達は叫んだ。王允は膝をつき喜びの涙を流した。

 そんな中で呂布は持っている方天画戟を近くに居る兵に預けると、腰に佩いている剣を抜き董卓の首を斬り落とした。

 その首を兵の穂先に突き刺して叫んだ。

「皆、喜ぶにはまだ早い。これより外に居る董卓が連れて来た者達を殺し、郿城に居る董卓の一族郎党を捕らえるのだ‼」

 呂布の号令の元、兵達は声を上げて行動を開始した。

 呂布が愛馬赤兎に跨り兵と共に門の外に居る董卓軍の兵達に攻撃を仕掛けた。

 その際、李儒は呂布に討たれた。

 呂布は門の外に居た董卓軍を壊滅させると、その勢いのまま郿城へと向かった。

本作の開始は後数日お待ちください

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前半部分で張泉を見逃しただけなのに、後半では「貂蝉をお主の手に取り戻す事が出来るのだから」と突然別人が表れています。
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