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桜の雨、ふたたび  作者: 蒼原悠
終幕
68/69

【あとがき】





 改めまして。

 本作『桜の雨、ふたたび』をお読みいただき、ありがとうございます!

 作者・蒼原悠です。以降、ささやかな文字数にはなりますが、ちょっとしたあとがきのようなものをお送りしたいと思います。この後に『終幕』が続きますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

 普段は感想やレビューや読者様からの反応をあまり頂くことがないのですが、今回の作品では大変多くの反応を頂くことができました。おかげさまで作者の執筆意欲も刺激されています! 重ね重ねありがとうございます笑




 さて、本作はジャンルとしてはヒューマンドラマに分類しているのですが、皆様はどういったジャンルの作品だと思われましたでしょうか?

 全体を通してみると群像劇、しかし主人公の二人にスポットを当ててみれば恋愛小説、さらに『桜の武者』の登場などを考えると若干ながら歴史小説の要素も兼ね備えているのかなー、と。今回もっとも苦労したのは歴史描写でした。時代考証ってとても難しいんですね……orz

 冒頭にフィクションだとあった通り、物語の根幹である拝島の『春待桜伝説』はまったくの作り話です。松原という地名は実在するものの、その由来についてはなんとも不明確で、恐らくかつて松林があった程度の由来だと思われ。1438年勃発の『永享の乱』は実在した戦争ですが、拝島に松原氏という国衆がいたという記録は残っておらず、また当然ながら参戦の記録もありません。

 歴史の主役になることの少なかった関東地方は、特に平安期や室町期の歴史的記録が比較的乏しく、有名どころの将の動向を除いては多くの情報がいまだ闇の中に眠っています。そういった不明瞭な部分ならば創作の余地があるかなと考えて、今回、このようなストーリーを紡いでみた次第です。

 それなりに筋の通ったシナリオにはなったかなと自負してはいるのですが、皆様はどう思われたでしょうか。厳しいご指摘が飛んできそうで怖いです(汗




 一応、簡単にですがネタの解説を。


■登場人物の命名規則については、【登場人物一覧】の末尾に追記しておきました! 今回は「木」という字にゆかりのある登場人物名を設定しています。

 昭島市立邸中学校の元ネタは、昭島市松原町三丁目に実在する『昭島市立拝島第三小学校』です。昭和35年に開校、のべ500人以上の児童を抱える小学校で、実は邸中学校よりも生徒数が多かったりします。広い運動場と三階建ての校舎を持ち、のびのびとした雰囲気を感じさせる学校ですが、校庭の真ん中に桜は生えていません。

 邸中学校の校歌『櫻ノ雨の邸中』、および卒業歌『桜庭』の元ネタは、それぞれ福山雅治さんの楽曲『追憶の雨の中』『桜坂』になります。福山雅治さんは上京したての頃、昭島に住んでいた経験のある方です。

 作中で柚が入院していた病院・拝島松原玉州会病院の由来は、同じく松原町三丁目に実在する某病院です。医療法許可病床数500床近くを誇る総合病院で、運営する医療法人にとっては都内初進出の病院だったとのこと。余談ですが、この某医療法人が初めて病院を展開したのは大阪府松原(・・)市でのことになります。

 作中に数多く登場した擬古典のうち、『永享記』は実在の文献ですが、それ以外の物はすべて架空の文献です。ただし、『武相叢書』は実在する『房総叢書』が、『時房日録』は万里小路時房執筆の『建内記』が元ネタになっています。それぞれ制作背景についてもモデルにしているので、もし関心があれば調べてみるのはいかがでしょうか?

 物語中盤、中神梅の実家を巻き込む形で墜落した米軍爆撃機の逸話がありましたが、こちらは実在した米軍機墜落事故が元ネタになっています。1945年4月2日、東京都青梅市の吉野村付近で発生した事故で、事故機の愛称は『Filthy Fay Ⅱ』、やはりテニアン島所属の機体でした。ちなみに作中での機体愛称は『Fallen Angel Ⅱ』となっていましたが、これは邦訳すると『堕天使』となります。


■作中、『桜の武者』は一定の法則にのっとって登場しています。

 直前の描写を見ていただければわかるのですが、実は彼は必ず雨の降った直後に姿を現しているのです。冬場、サクラは落葉するので得られるエネルギーが水くらいしかなく、『辛うじて水を得たことで姿を現せる』という裏設定がありました。

 ラストシーンでは雨は降っていませんが、こちらも一応『桜の雨』の中ということで、なるべく流れを無視しない形にはしたつもり……。


■主人公・柚の病状は、冒頭では気管支喘息とされていましたが、実際にはそれが肺がんであったことが 第四幕で明らかになりました。実はこのことは、実際にはかなり早い段階から判明していたことなのです。

 柚は作中でたびたび『血痰』を吐いているんですが、その色の描写にご注目いただけるでしょうか。おそらく淡いピンク、『桜色』という書き方が多かったのではないかなーと思います。実際の血痰はこんな明るい色ではないのです。ピンク色をしているのは、多数の気泡の混じった状態で血が排出される『喀血』と呼ばれる現象で、肺がん患者に顕著な症状のひとつとされています。作中、柚は吐いたものをすべて血痰だと言っていましたが、この時点で喀血だと知ることは可能だったのです。

 柚は最初から、肺がんでした。


■田中梅、すなわち田中家のルーツが来栖氏だったことが判明したことで、春待桜の開花は一気に実現へと向かいました。言葉に京都訛りのない梅が関西にルーツを持っている、というのはいささか無理のある描写だったかもしれませんが、実は一点だけ、梅が関西から持ってきた文化が作中に出てきています。

 それは食事シーンです。味噌汁に白味噌や(かぶ)、それに青ネギを使っている場面が第一幕にあり、第三幕では柚が見よう見まねで白味噌の味噌汁を作っています。白味噌といえば京風の味噌汁には欠かせない食材であり、梅は京都から食文化をしっかり受け継いできているのです。




 本作は、作者としては珍しく真面目にエンタメ作品を書こうとして紡いだ作品でした。あ、「それでこのクオリティか」って声が……。エンタメ作品は苦手なんです……(小声)

 でも、終わってみるとそれなりに中身のある、ボリュームの大きな物語になったのかなと満足してもいます。笑

 本作に明確なテーマはありませんが、あえて挙げるとすれば『約束は永遠か』なのかな、と。人間の命は無限ではありませんし、サクラだって永遠に生きることはできません。限りある命が取り交わす約束も、同じように限りのあるものになってしまうのか──? といったような疑問を要素として取り込んでみました。

 自分はそうではないと思っています。当事者のいなくなった『約束』は、存在する理由がなくなって消えるだけ。約束そのものが有限なものではないのだと。

 約束は人の信頼によって作られ、信頼によって維持されるものです。だから、互いがその存在を信じる気持ちを失わなければ、それはきっといつまでも誰かの心の中で続いてゆく。……だからこそ、松原柄命と杳は末裔としての出会いを果たし、田中梅と宮沢柾もまた桜の木の下で再会を果たすことができました。

 信じるだけで続いていく未来……だなんて、ちょっと夢物語が過ぎるかもしれませんが、それでもいいから何かを信じてみたいな、なんて思わずにはいられないのです。

 途中から何が言いたいのか分からなくなってきた。このへんでやめておこう。


 そして、余談ながら。

 第四幕幕間【永遠の約束】は、実は本作を読んでくださっているかもしれない読者様のひとりに向けて書いたものだったりします。

 読んでくれているのかな。気付いてくれているかな。

 そんなことを考えながらこのあとがきを綴っています。




 本作執筆にあたり、たくさんの方にご協力を仰ぎました。

 橋本ちかげさんには本作の室町期における時代考証をお願いしました。数々の歴史物を書かれる作家さんだけあり、どんな些細な疑問にも詳細に経緯を踏まえて解説してくださり、おかげでおおいに助かりました。

 サークルの先輩・Tさんには、戦時中の場面についての解説をお願いしました。当時の爆撃機の性能など、軍事分野の知識はどうにも乏しかったもので……。

 作者の祖父母、IさんとKさんには、執筆にあたって戦時中の体験を聞かせていただきました。戦後生まれの作者にはなかなか触れることのできない、貴重な話を聞くことができました。その一部は作中での宮沢柾の戦争体験に反映しています。

 源丸さんには作中での話し言葉について助言をいただきました。医学に詳しい部活の友人・Hくんには、喀血や血痰など作中の医療描写について何度も質問をさせてもらいました。執筆当時中学二年生の友人・Mさんには、中学二年生の学習状況や学校生活について教えていただきました。桐生桜嘉さんには服装や髪形など、作中キャラクターの容姿設定の作成に協力していただきました。

 皆様のご協力がなければ本作は完成しませんでした。

 改めまして、ここに謝辞を。ありがとうございました!!!!






 季節は春。

 世界は淡いピンクの輝きでいっぱいです。

 これを読んでくださった皆様のそばにも、心にも、どうか満開の桜が咲いていますように。






2018/4/04

蒼原悠







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