◆ 09
今までで一番好きだった本はウミガメの出てくる何か不思議な漂流記だった。どこまでも詩的で、幻想の中を漂っているような物語。どんな意味があったのか今では覚えがない。ただ鮮烈なイメージのみが残っている、あれは19の時だろう。大学は中退していたのでずっとバイトで食いつないでいた。学校でも1人、浮いたような気分だった。誰とも話をしない、学食でも、教室でも。僕と話をしていると誰もが気まずいような思いにとらわれてしまうのだろう、こちらだってそれは同じこと。気まずくさせるのは昔から得意分野だった。何故か僕がいると会話は止まってしまった。父と母とは仲が悪かった、小学4年の時に離婚した。僕はどちらからも引き取られず、祖父母と暮らすことになった。何故なのか教えて貰えなかった。毎晩泣いた。泣いて戻ってくるわけがないというのは判っていたが、それでも涙は勝手に出た。おばあちゃんが添い寝をしてくれようと布団に入ってきたが、おばあちゃんはヘンな匂いがするから嫌いだ、と突き飛ばしてしまった。その事については叱られなかったけど、それからずっと気まずい雰囲気だった。両親も、きっと僕の扱いに困ってどちらからも引き取ろうと言ってこなかったのだろう。元々望まれない子どもだったと聞いた。望まれず生まれてくるというのは、どういうことなんだろう。それまで絵本や物語の中の子どもらというのは、だいたいが望まれたり、認められたりして生きていた。少なくとも、本の世界で僕はそういう子どもにしか出遭ったことがなかった。にんじんですら、完全に拒否されていた訳ではない。彼の母親には、愛情という感覚が確かにあったのだ、それがいくら歪んだものとは言え。そして父だって不器用なりに彼のことを愛していた。それが僕なんてどうだろう、誰が僕を愛してくれたんだ? そして、誰が気にかけてくれたのだろう、あなただって同じだ、みちる。あなたは全ての悩める人の声を聴こうとして、実際に人びとの声を聴いた。なのに、誰があなたの話を聴こうとしたのだろう?
写真で見たあなたの目は、そう、周りの人間に対する激しい憎しみに満ちていた。
それは今のあなたと全く同じ、あなたは人を救うという力を持っていた時ですら、周りを激しく憎んでいたのだ。
何故だ?




