第069話 商談
エリク様を応接用の家に呼び、話し合いをすることになったのでソファーに腰かけたのだが、隣に座るモニカが異様に近かった。
ほぼ腰が当たっているし、どう考えてもおかしい。
とはいえ、それを表情に出すわけにはいかないのでそのまま涼しい顔を通す。
「最近はめっきり冷えてきましたなー」
エリク様もモニカの位置にはツッコまず、世間話を続けた。
「本当ですね。年々、寒いのがきつくなりますよ」
「まったくです。馬車の中には魔道具が設置されていますが、それでも寒かったですよ」
高そうな馬車だなー。
「御足労をかけます」
「いえいえ。本当はもっときついと思っていたんですが、あっさり着きましたよ」
道のことか……
「いやー、あの道はないですよ。これからリンゴを売ろうっていうのに商品を傷つけるだけです」
「ほうほう……というと、山田殿が整備したのですかな?」
「ええ。私も修行中とはいえ、魔法使いの端くれですからね。修行がてらに整備しました。大変でしたよ」
主に足腰が。
「なるほど……大魔導士様と聞いておりますが、本当のようですね」
違うんだけどね。
「タツヤ様は大変優れた魔法使いなんですよ」
モニカはそう絶賛すると、俺の太ももに手を置いた。
何してるんだろう?
「それは素晴らしいですな。そのような御方と一緒に仕事ができて光栄です」
「いえ、こちらこそ、エリク様と商売ができて光栄です」
「ははっ、さすがに様付けは不要ですし、そこまでへりくだらなくて結構ですよ。私は一商人に過ぎませんし、村長殿にそのような対応をされても困ります」
大手の社長さんはしっかりしてるなー。
「そうですかね?」
「そうですよ」
「では、エリクさん、商売の話をしましょうか」
「そうですな」
エリクさんが深く頷く。
「まずですが、先程、言った通り、道の整備はしてあります」
「ええ。最初はリンゴをハリアーの商店にまで持ってきてもらうことになることを説明しようと思ったのですが、あの道なら問題ありません。こちらで馬車を出し、引き取りに来ましょう」
あの道では輸送がネックになっただろうしな。
「それはありがたいですね。小さな農村なので人手が足りなくて」
「それは仕方がないでしょう。もし、よろしければ人手を用意できますが?」
探りだろうな。
「いえ、そこまでではないですよ」
「さようですか、人手が入用の際は声をかけてください。あ、もちろんですが、物資もです。ウチの商会は手広くやってますからね」
「馬とか馬車とかもです?」
「直接扱ってはいませんが、もちろん、用意できますよ。もし、よろしければ、御用意致しましょうか? どうせリンゴを受け取りに来るわけですからその時にでも持ってこれます」
思ったよりもずっと大きい商会っぽいな。
「でしたらお願いできますかね? いくらくらいです?」
「引退した馬と使わなくなった中古の馬車でよろしければ無料でお譲りますよ?」
無料……
「引退とは?」
「馬車を引く馬は長距離を歩きます。ですので、それに耐えられなくなれば引退なんです。ただ、この村で使われるならハリアーとこの村を行き来する程度でしょう? でしたら引退した馬でも十分です。大人しい大人の馬ですし、ちょうど良いでしょう」
なるほどね。
それでも無料は変だ。
まあ、先行投資か恩を売っているか……
どっちもだろうな。
「でしたら譲ってもらえますかね? おっしゃる通り、町に行くための馬車なんで」
「ええ。でしたら今度来る時に持ってきましょう」
まさか、この人が来ないよね?
「ありがとうございます」
「いえいえ。それで本題のリンゴなんですが、どのような契約を致しましょう」
「どのような契約とは? 種類があるんですか?」
「ええ。色々あります。まずはリンゴの専売契約をしてくれませんかというのがこちらの希望です」
専売か……
つまりこの人の商会以外には売るなということだ。
「専売ですか……言っておきますが、リンゴは果物ですよ?」
その辺に生えているかもしれないよー……
「もちろん、存じております」
エリクさんはきっぱりと頷く。
「うーん、専売ですか……」
「もちろん、その際には高値で買い取らせていただきます。リンゴ1個につき、金貨2枚出します」
マジかよ……
「そんなに高価なんですか?」
「先日、クロード様にリンゴを99個売りましたよね? クロード様はあれを王都に売り込みました。すると、大好評でして、色んなところから問い合わせが来ている状態です。はっきり申しますが、急かされております」
それでクロード様が圧力をかけて、さっさと決めろって言ったんだな。
「専売でない場合は?」
「金貨1枚です」
半分か……
それでも金貨だ。
「一応、聞きますが、その専売というのはハリアーの町だけではないですよね?」
「もちろんです。王都の商会にも売らないでいただきたい」
まあ、最初からハリアーの町を通すことにはしていたが……
「もう一つだけ一応聞いておきます。競りはしない方が良いです?」
「商人を敵に回す行為は避けた方が良いと思います。商人同士はライバルですが、一方で手を組む時は組みます。また、私の口からは言いづらいことですが、クロード様はいい顔をしないでしょう」
だろうなー……
こんな30人程度しかいない村だもん。
簡単に潰せる。
「でしょうねー。まあ、専売の件はわかりました。どちらにせよ、何人もの商人が来られても困りますしね。クロード様が紹介してくださったわけですし、エリクさんにお願いするのが正解なんでしょうね」
「ありがとうございます」
エリクさんは深々と頭を下げた。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
うーん、それにしてもここまではモニカの想定通りだな……
本当にすごい子だわ。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




