第063話 悩む若者と決めた若者
「ただいま」
キョウカと話をしていると、ユウセイ君が戻ってきた。
「おかえり」
「どもっす。あ、これが山田さんのコーヒーでこれがキョウカの水」
ユウセイ君がコーヒーと水を渡してくれる。
「ありがとう」
「ありがとー」
俺とキョウカはそれぞれ水とコーヒーを一口飲んだ。
「それで山田さん、どこから調査する?」
ユウセイ君がおにぎりをもぐもぐと食べながら聞いてくる。
「それなんだけどさ、さっき桐ヶ谷さんに会ってきた」
「桐ヶ谷さん……」
「あの人ですか……」
本当にどっちも微妙な反応をするな……
俺、橋渡しになってない?
「そうそう。それで例の事件の調査を協力しようってことになって、調査する範囲を分担することになった。ここが俺達の範囲」
桐ヶ谷さんにもらった地図を開き、2人に見せた。
「分担ねー……」
「それならいいか……」
2人が顔を見合わせる。
「あのさ、別に答えなくてもいいんだけど、そんなに仲が悪いの?」
この際だし、聞いちゃえ。
「あー……そういうことじゃない。正直、家的には微妙なんだけど、俺達にはあんまり関係ないし」
「ですね。親とか兄は色々あるんでしょうけど、私達は別に……」
なるほど。
この子達は跡取りじゃないし、若いからそういうことには関係ないのか。
でも、親なんかを気にしている感じだろうか?
「なんか微妙な反応をするから触れちゃいけないのかと思ったよ」
「その辺は気にしなくていいぞ。むしろ、そっちじゃない」
そっちじゃない?
「どういうこと?」
「うーん……まあ、この際か。山田さんってさ、すごいんだよ。この前のネームドの悪魔を瞬殺できる退魔師なんてそうはいない。しかも、魔力も高いし、魔力のコントロールも突出してる。あまり他の退魔師と仕事をしない方が良いと思うんだよ」
あ、気にしてたのは俺か。
「やっぱりマズい?」
「俺らが言うのもなんだけど、退魔師の家は強引なところが多いからな。もっと言うと、そうじゃないフリーの人も何を考えているのかわからない。こういう職業の人がまともなわけないし」
「あまり言いたくないですけどね。悪口だし、何より、ものすごいブーメランなんで……」
退魔師の家、強引、何を考えているかわからない、まともじゃ……いや……確かに特大のブーメランだ。
「でも、ユウセイ君は普通だよね?」
「ユウセイ君は!? も! も!」
人斬りブーメランさんが力の入ってない手で叩いてくる。
「あ、ごめん。2人はまともだよね?」
「俺はあんまり関係ないんで。気楽な次男なんだよ」
「私もです! 何もしがらみはありませんのでお嫁に行きます!」
そうなんだ……
「お固いイメージがあったんだけど、そうでもないんだね」
「時代じゃね? 昔はガチガチだったって聞くけど」
「あとは協会の台頭のせいですかね? 私らは楽で嬉しいですけど」
そのうち、SNSに悪魔をあげる退魔師とか出てきそうだな。
「ふーん、なるほどねー。じゃあ、他の退魔師とは接触しない方がいいの?」
「もちろん、協力することもあるし、友好を築くこともあるけど、山田さんは大っぴらにはしない方が良いと思う」
まあ、そもそも一人で細々とやるつもりだったからな。
「じゃあ、そうしようかな……」
「そうです、そうです! 私……達がいれば十分ですよ!」
「おい……」
ユウセイ君がキョウカを睨む。
「まあまあ。じゃあ、俺達だけでやるということで現場に向かうよ。まずはこの公園かな」
そう言いながら地図のとある赤丸を指差した。
「よろしく」
「お願いします」
ユウセイ君は身を乗り出すのをやめ、キョウカもシートベルトを締めたので出発する。
そのまま運転し、俺達の範囲である住宅街に到着すると、赤丸があった公園の前に路駐した。
「ここかー」
「子供が遊んでいるな」
確かに公園には学校帰りの小学生が数人遊んでいた。
「どうします? 張りますか? それとも別のところに行きます?」
キョウカが地図を見ながら聞いてくる。
「悪魔が出るのは夜らしいし、もう少し、ここで様子を見よう」
「わかりました」
「それにしても2人がいて良かったよ。さすがに小学生を見ているおじさんはヤバい」
いくらなんでもね……
「それは俺でもヤバそうだわ。キョウカがいてくれて安心」
確かに小学生を見ている男子高校生もマズい気がする。
「男の人は大変ですねー」
「実際、大変だよ。特に朝の満員電車。下手をすると何もしなくても人生が終わる」
電車は朝だけでも男性車両と女性車両に分けるべきだと思う。
まあ、無理だろうけど。
「怖いなー……働きたくない。将来どうするかは決めてないけど、普通の会社勤めへの気持ちはほぼなくなった」
「退魔師として働きなよ。会社の給料がバカみたいに思えるよ。低級悪魔を2、3体も倒したら月給を抜くし」
「そのこともあったか……」
俺はもう戻れないね。
「私は絶対に普通の会社では働きませんね。協会で頑張りましょう」
キョウカが両拳を握りしめて見てくる。
「そうだね。まあ、ゆっくり考えなよ。俺はずっとここで働いているだろうし、いくらでも付き合うからさ」
「やっぱりそれが一番良いような気がするなー……家に残っても兄貴の手伝いだろうし」
俺はその後もユウセイ君の進路相談を受けながら暗くなるのを待った。
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