第187話 王道にゃ
「加賀美さん、とりあえず、ロザリーのことは桐ヶ谷さんに報告しますからね。協会もロザリーが悪魔教団を抜けたことは把握していますが、危険視していますんで」
「まあ、いいんじゃない?」
適当だな……
「それで調査ですけど……」
「そうね。ロザリーのことよりも仕事よ」
ロザリーは桐ヶ谷さんに投げよう。
それよりもお金……じゃない、仕事をしないといけない。
「加賀美さんはこの前の悪魔教団の取り締まりに参加したんです?」
「ええ。と言っても私は追跡班ね。逃げた幹部共を追ってたわけ」
この人は気配を消すのも上手いし、そっちの方が得意だろうな。
「あまりその辺のことを聞いてないんですけど、大規模だったんです?」
「それはもう……協会の威信をかけた大捕物だったわね。ここもそうやって発見された教団幹部の隠れ家よ。家の所有者の名義は別みたいだけど、ここに逃げ込んだのを私が追跡で摘発したわけ」
なるほど。
それで加賀美さんが調査の担当をしているわけだ。
「わかりました。では、調査を始めましょう」
「そうね。私は2階を見てくるから1階をお願い」
加賀美さんはそう言って、部屋から出ていく。
「仕事は真面目な人だな……」
「その分、プライベートが終わってるんだろ」
ロザリーを使い魔にする時点でそうだろう。
「まあ、キョウカに対するあれを見るとねー……」
ひどいもんだ。
「ろくでもない悪魔とろくでもない人間だにゃ。お似合いだが、協会が頭を抱えることは必至にゃ」
ホントにねー。
「俺達コンビはこんなに善なのにね」
「お前、善か?」
微妙。
「あの2人より理性はあるよ」
「まあ、そうだにゃ。ちょっと理性が強すぎる気もしていたが、あの2人を見ると、そうでもないと思えるにゃ」
ああはなるまい。
「まあいいや。仕事をしよう」
俺達は調査を開始することにし、まずはこの部屋から見ていく。
この部屋は家主の趣味部屋のようで大きなスピーカーの他に大量のレコードが収められた棚が壁一面に置かれていた。
「魔力は感じる?」
棚を調べながらミリアムに聞く。
「全然にゃ。ロザリーの残滓はあるんだが……」
それは俺も感じる。
というか、魔力の残滓までなんかエロい気がするのがちょっとムカつく。
「他を見てみようか」
「そうするにゃ」
俺達は部屋を出ると、1階のその他の部屋も見ていく。
1階は他にも書斎や寝室、リビング、ビリヤード台やダーツができるバーみたいな部屋まであったが、特に怪しい点はなかった。
「うーん、トイレや風呂にも何もないね」
無駄に広い風呂場を見ながら首を傾げる。
「というか、何もないんじゃないか?」
「多分だけど、あれだけ高額の調査の依頼が出たってことは怪しいんじゃないの? ここ、どう考えても幹部の中でも上の方の人の家でしょ」
ザ・金持ちの家って感じだし。
「そうかもなー……だが、魔力は本当に感じないな。この家の持ち主は魔法使いじゃないんだろう」
魔法使いじゃなくても悪魔教団の幹部か……
「どうしようかねー? 協会の調査員でも見つけられなかったんでしょ? それを俺達が見つけられるかね?」
しかも、相手が魔法使いじゃないならお手上げ。
「うーん、やっぱりキョウカか? 夜に転移で来るのはどうだ? さすがの加賀美も帰るだろ」
「それもちょっと思ったけど、避けたい。もし、遭遇したらキョウカが可哀想だし、俺もなんか嫌」
「まあ、そう思うか……」
「一応、ほら、あれだし……」
あれだよ、あれ。
「この場には猫しかいないのに口に出せないとはチキンな奴……」
「それが俺なんだから仕方がないでしょ」
「まあ、キョウカもモニカもそういうところが良いんだろうな。がつがつしてない大人の男」
ミリアムは良い使い魔だなー。
ものすごく良いように言ってくれる。
「まあ、そこはいいとしてもどうしようか……うーん、よし、ここはキョウカに倣ってみようか」
「と言うと?」
「ほら、名古屋支部の時に相手の気持ちになってみるって言ってたじゃん」
自分も殺す側にどうちゃらこうちゃら……
「あー、あのサイコパスギリギリの物騒なセリフね」
「それ。つまりここの家主の気持ちになるわけだ。もし、隠すならどこかってこと」
「なるほど。考えてみ。私はわかんないけど、お前は今、理想の家を作ろうとしているし、その延長でちょっと考えてみるにゃ」
ミリアムに勧められたので考えてみる。
金持ち……教団の幹部……もし、協会や警察が踏み込んで来たらどうするか……
踏み込む……
「寝室かな?」
「んー? なんでそう思うんだ?」
「人間が一番油断するのは寝ている時だと思うんだ。だから古来より夜襲が有効なわけ」
暗殺でも強盗でも夜だろう。
「まあ、暗いしにゃ」
「だからそこを警戒すると思うわけ。実際、寝室には鍵がついてなかった?」
もちろん、開いていたけど。
「確かあったにゃ」
「もし、寝ている時に取り締まりがあった場合、すぐに逃げたいと思うわけ」
「まあにゃ」
「だからこそ、隠し部屋か秘密の逃げ道を作るならそこに作る」
俺ならそうする。
「よし、もう一回、寝室に行ってみるにゃ」
俺達は風呂場を出ると、一番奥にある寝室に入る。
寝室は大きなベッドが置いてあり、あとは本棚やテーブルが置いてある程度だ。
「うーん、俺もいつかこういう大きなベッドで寝てみたいな」
キングサイズはあるだろう。
ビジネスホテルでダブルで寝たのが最大だ。
「エロいにゃ」
「やっぱり今のベッドでいいや」
「はいはい……山田、この部屋に違和感はあるか?」
「うーん、やっぱり魔力は感じないし、普通の寝室って感じがする」
広さや豪華さは普通じゃないけど。
「お前に言われて、この部屋に入って、気付いたことがある」
「え? 何?」
「この部屋にだけ窓がないにゃ」
そう言われて、部屋を見渡すが、確かに窓がない。
「ホントだ」
「何かありそうだ。山田、ちょっとベッドに寝てみ?」
「えー……人様のベッドだよ? しかも、悪魔教団幹部」
「いいから寝てみろって。それでちょっとシミュレーションしてみろ。この家主はお前と同じように小心者だ」
俺と同じは余計だが、小心者なのは確かだろう。
窓がないというのはそういうことだ。
「わかった」
俺はベッドの方に行き、寝転ぶ。
「山田、警報が鳴ったにゃ。何者かが家に入ってきたにゃ」
という設定だ。
実際は警報なんて鳴ってない。
「うわー、敵だー。早く逃げないとー」
「棒読み……」
「迫真の演技をするところじゃないでしょ」
「まあにゃ。お前ならその後、どう考える?」
そう言われたので上半身を起こし、扉の方を見た。
「あっちには行きたくないね」
侵入者に近づきたくない。
「他には?」
「逃げるルートを考えていた。もし、協会か警察ならすでに囲んでいると思った。それに2階もない」
逃げ道がないし。
「となると?」
「地下に秘密の抜け道があったら良いなって思った」
「じゃあ、それだ。床を探そう」
ミリアムが扉とは反対方向の床を見ていく。
床はフローリングであり、変なところはない。
「どう?」
「まあ、待つにゃ」
ミリアムは床を見ながらウロウロし、ついにはベッドのすぐそばまで来た。
「あったー?」
「あったにゃ。この辺からわずかにだが、風を感じる」
「え? 本当にあったの?」
ベッドから降り、ミリアムの横に腰を下ろすと、床に手をかざしてみる。
「何も感じないけど?」
「人間は鈍いからにゃ。私は猫だからわかるにゃ」
へー……鼻も良いし、猫ってすごいな。
まあ、上級の悪魔なんだけど。
「風ってことは下に何かあるってことだよね? どうやるんだろう?」
「ぶち壊してもいいが……」
ミリアムは物騒なことを言いつつも爪で床をカリカリとかぐ。
正直、爪とぎにしか見えないなーと思っていると、床が持ち上がった。
「あ」
「山田、取るにゃ」
ミリアムに言われたのでぱかっと取れた50センチ四方の床を取る。
そして、床の下を見てみた。
「梯子……」
床の下は真っ暗で奥までは見えなかったが、鉄製の梯子があり、下に降りられそうだった。
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