第106話 ラヴェル侯爵夫人
俺とキョウカが応接室で待っていると、モニカとクラリス様が戻ってきた。
戻ってきたクラリス様は髪がしっとりとしており、心なしか艶があるように見える。
「わー、おきれいですねー」
キョウカがクラリス様を褒めた。
「そう? よく見ると、あんたらの髪も輝いているわね」
キョウカは当然だろうけど、モニカもウチの風呂に入っているから整髪料は使っているだろう。
俺も色々と気にして、リンスくらいは使っているのだが、髪が長い女性が使うと効果が顕著だ。
「大変、おきれいですよ」
「あんた、優秀なんだろうけど、褒めるのが下手ね」
えー……
「本当にそう思ってますよ」
「あっそ。それは奥さんに言いなさい。で? これをマリエル様に売る気なの?」
クラリス様が自分の髪を触る。
「いえ、あくまで献上品であって売り物ではございません。売るだけの数を用意できないのです」
「特別な魔法で作った薬なのかしら?」
「そんなところです」
本当はドラッグストアで買いました。
「なるほど……秘密の多そうな男ねー……」
「魔法使いですので」
「まあ、そうね……さて、そろそろ行きましょうか」
クラリス様がそう言って立ち上がったので俺達も立ち上がる。
そして、屋敷を出ると、隣の青い屋根の屋敷に向かった。
屋敷の門の前にはやはり槍を持った兵がおり、その門番に近づく。
「ごきげんよう。マリエル様はおられるかしら?」
クラリス様が門番に優雅に聞いた。
「これはクラリス様、ご機嫌麗しゅう。奥様から聞いております。客室で待っているから好きに入って良いとのことです」
「わかりました。客室ですね。参ります」
「どうぞ、どうぞ」
門番は笑顔で鉄格子の門を開ける。
俺達は門をくぐると、クラリス様を先頭に屋敷に向かった。
そして、屋敷に入り、勝手知ったるクラリス様の案内でとある部屋の前までやってくる。
すると、クラリス様が扉をノックした。
「マリエル様、クラリスです。モニカとリンゴ村の村長、それとその奥さんを連れてきました」
『入りなさい』
部屋の中から女性の声が聞こえてくると、クラリス様が扉を開け、中に入る。
俺達も顔を見合わせ、頷くと、部屋に入った。
部屋の中にはテーブルにつく黒髪の女性がおり、優雅にお茶を飲んでいた。
「マリエル様、本日はお時間をいただきありがとうございます」
「私も話を聞きたかったので構いません。しかし、あなたが真面目にしていると、笑ってしまいそうになりますね」
マリエル様が微笑む。
「私はいつまでも子供じゃないですよ」
「そうですか? 一昨日も夜中にフルールの怒鳴り声が聞こえていましたよ?」
マリエル様がそう言うと、クラリス様がばつの悪そうな顔になった。
多分、フルールというのはクラリス様の母親だろう。
「きゃ、客人を紹介します」
「どうぞ」
「こちらはリンゴ村の村長である山田殿とその奥方であるキョウカさんです」
クラリス様が俺達を紹介してくれる。
「はじめまして。リンゴ村の村長の山田タツヤです。こちらは妻のキョウカ。お会いできて光栄です」
そう言って頭を下げると、キョウカも頭を下げた。
「山田さん、キョウカさん、ラヴェル侯爵夫人のマリエル様です」
クラリス様が今度はマリエル様を紹介してくれる。
「マリエルです。まあ、かけなさい。いつまでも立っていては話ができません」
「失礼します」
俺達はマリエル様が勧めてくれたので席についた。
「大魔導士と言われたタダシ殿のお孫さんなんですって?」
席につくと、マリエル様が聞いてくる。
「はい。もっとも大魔導士と呼ばれていたことを祖父の死後に知りましたが……」
「そうなんですか……なるほど……あなた自身もかなりの魔法使いですね。それに奥さんの方は……かなり特殊な魔法使いのようですね」
どうやらマリエル様も魔法使いのようである。
それも俺達の魔力を探れるくらいには優秀な魔法使いだ。
「恐縮です」
「山田タツヤと言いましたね? 奥さんは山田キョウカですか?」
「そうなります」
なんか本当にキョウカが嫁さんのような気がしてくるわ。
「ふむ……なるほど」
マリエル様が考え出した。
「いかがしましたか?」
「いえ……まあいいでしょう。開拓村が村として認められたそうですね? 一貴族として大変喜ばしいことです。それにリンゴなるものの安定供給できるようになったとか……」
本題に入ったな……
「はい。皆と協力したことと運が味方してくれました。それで村と認められたのですが、リンゴの供給が足りていない現状です。マリエル様を始め、多くの方にご迷惑をおかけし、申し訳ありません」
「構いません。無駄に数を増やして、物の価値を下げるのは愚か者のすることです」
価格調整のことかな?
「そういったことではないのですが……」
「くだらない探り合いは不要。わざわざ私に面会を求めたということはそういうことでしょう。それで? あなたは私に何を渡し、何を求める?」
気の早い貴族夫人だな……
「では、まず、これを……」
そう言って籠に入ったリンゴを取り出し、テーブルに置く。
「リンゴですか? 土産としては上等ですね」
「土産ではございません」
「と言いますと? 私に買い取れと?」
「いえ、我らはオベール商会と独占契約を結んでおりますのでお売りすることはできません」
契約違反になってしまう。
「では、何だと?」
「このリンゴはもちろんお渡しますが、これは最初にお渡しするものです。今後、要望を出していただければ、いつでもお渡しする所存です」
「つまり、この先もリンゴを献上し続けると?」
マリエル様が目を細める。
「ラヴェル侯爵家に我らのリンゴを気に入って頂けるなど、私達にとって信じられないほどの名誉です。ぜひとも、今後ともごひいきにしてください」
「ふむ……」
マリエル様は籠のリンゴを一つ取ると、頷きながらじっくり見始めた。
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