表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IMAGE Crushers!  作者: 水浅葱ゆきねこ
拍手お礼SS

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/87

宵闇に舞う

 彼らが逗留したのは、一軒の日本家屋だった。

 瓦葺(かわらぶき)の平屋で、掃除は行き届いているものの、空気には古い建物に特有の、木と藺草(いぐさ)の中に僅かな(ほこり)の匂いが混じっている。

 昼間ともなれば戸は開け放たれ、外部との境界はないも同然となる。

 しかし、強い日差しが庭の緑を鮮やかに映えさせるのに対し、影の濃淡のみで構成されたような屋内の空間は、少しばかりひんやりと肌を冷えさせた。

 縁側に下げられた薄い硝子(がらす)細工の風鈴が、僅かな風にちりん、と音を立てる。

 ここに連れてきた相棒は、自分たちがいる間は誰も来ないから気兼ねするなと言っていた。

 だが、誰の姿も見ないにも関わらず、それでも時折人の気配を感じるのだ。

 特に、使った食材が補充されていたり、放っておいた風呂場が掃除されていたりすると。


 さやさやと音を立てて揺れる竹林を抜けた先に、その小川はあった。

 切り出した石で作られた階段は、年月を経て角が丸くなっている。

 おそらくは数十年前まで、住人に水場として使われていたのだろう足場に座る。その間にも、ふわり、と淡い光が視界を横切っていく。

 浴衣の裾を捲り上げ、流れる水に足首の辺りまでを浸した相手に、彼はとうとう疑問をぶつけることにした。

「……咲耶」

「ん?」

 団扇を手に、ぼんやりと蛍の動きを眺めていた咲耶が、視線を向けてくる。

「君、この場所は実家に関係があるところじゃないのか?」

 紫月の言葉に、珍しく相手はばつの悪そうな顔をした。

「……厳密には、うちじゃない。俺が昔世話になった人の伝手だ」

 昔、ということはまだ実家にいた頃の筈だから、まあ結局は実家関係なのだろう。

 紫月によく、家出しているのに実家と関わることを揶揄されている少年は、僅かに挑むような表情を浮かべている。

「そうか。いいところだな。連れてきてくれて、ありがとう」

 しかし静かにそう返されて、今度は拍子抜けしたような顔になる。

 独りきりで世間の荒波に揉まれていた少年は、意外と表情豊かだ。

 川の水音が響く中で、彼らはしばらく黙ったまま蛍の舞を見つめていた。



「……ところで、奥の広間に昨夜から老婦人が鎮座していらっしゃるんだが。半透明の」

「ああ、千代婆ちゃんには俺も色々しごかれたからな。いい機会だから、お前も一通り作法を習っとけ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ