秋の恵みの巡りあい
「お願いします、守島さん! 救けてください!」
顔を会わせた瞬間に、上半身をほぼ直角にする勢いで頭を下げられ、守島咲耶は怯んだ。
確かに、彼との関わりあいは仕事の依頼からだったし、このような態度も不自然ではない気はするが。
「ええと、どうしたんですか?」
慎重にかけた声に、斎藤は途方に暮れた視線を返した。
「凄いな……。何本あるんです?」
隣室の台所を覗いて、弥栄紫月は驚嘆の声を漏らした。
「五十本ほどだったかな。ただの機嫌取りだ」
さほど感銘を受けた風でもなく、夏木太一郎は簡単に返す。
彼らの視線の先には、桐箱に収められた松茸が山を成していた。
「ああもう、食うだけの奴らはどっか行ってろよ」
片手で無造作に追い払う仕草をする咲耶は、絣の着物に、きりりと襷をかけている。その傍らで、黒のエプロンを纏った斎藤がおろおろと立っていた。
「守島さん、幾ら何でも一度に食べるのは勿体ないんじゃ……」
「傘が開いてしまったら、二日ぐらいで香りが飛んでしまうんです。だから今日全部、とは言いませんが、二、三日中には食べ切ってしまった方がいい。……全く、せめて日をずらして送ってくれればいいのに」
この松茸は、太一郎の実家である夏木ホールディングスの取引先から、太一郎へと贈られてきたものだ。以前に少し口を利いたことがあったような気がする、と当の少年は言っていた。
しかし、彼の世話役である斎藤は、こう言っては何だが普通の庶民だ。一通りの家事は充分以上にできるのだが、松茸の調理法など、手がける自信がない。
そこで、意外と和食なら大抵こなすことができる咲耶に泣きついてきたという訳だった。
「とりあえず基本として炊き込みご飯。炭火焼き、天麩羅、あとは土瓶蒸しかな。奉書焼きと真薯の吸い物は被るか。いっそすき焼きにしたら量は稼げるけど……」
眉を寄せ、メニューを考える。途方に暮れている斎藤をちらりと見上げた。
「明日からはご自分で何とかしてください。では始めますか」
「おお……」
食卓の上に並べられた松茸尽くしの夕食に、斎藤が感嘆の呟きを漏らす。
お礼とお裾分け、ということで咲耶と紫月の席もある。
どうぞ、と制作者である咲耶に促され、彼らは一斉に箸を手に取った。
出来に満足そうな咲耶、口には出さないが満更でもない太一郎、そして半ば感涙にむせぶ斎藤、というメンバーの中、紫月はやや小首を傾げていた。
「これ、エリンギと何が違うんだ?」
「勿体ないからお前は食うな!」
幼少期から清貧で鍛えられていた少年の味覚に、苛立ち紛れに咲耶は怒声を上げた。




