万聖節には。
「……なんだ、それ?」
咲耶は、リビングのテーブルについて、せっせと小袋に菓子を詰めている相棒を見つめながら尋ねた。
「ハロウィンの準備だよ」
「ハロウィン?」
初めて聞いた、というような反応に、紫月が肩を竦める。近年、日本でも知られてきてはいるが、まあ彼にとっては知らなくても不思議はないだろう。
「元々はケルトの民間信仰だ。収穫祭的な意味合いがあって……」
「簡単に頼む」
「……子供たちが家々を回って、『トリック・オア・トリート』と告げるんだ。お菓子をくれないと悪戯をする、という脅し文句で、大人たちは彼らの慈悲を請うてお菓子を渡すのさ。教団の方で、児童部からイベントの要請があったから、今年は開催するらしい」
ふぅん、と呟きながら、山と積まれた菓子を眺める。
「手伝いが要るか?」
「ボランティアだよ」
「よし頑張れ」
何につけてもただ働きはしない、という信条を持っている咲耶が即答する。予測はしていたので、別に不満にも思わず、紫月は次の菓子を選り分けた。
そこで、インターホンが鳴り響く。
主人の代わりに使い魔が通信を受ける。来客の陽気な声が、リビングに響いた。
「よぅ、坊ン。トリック・アンド・トリート!」
「両方ッ!?」
室内に通された男が、楽しげな視線を部屋の主とその相棒に向ける。
「おぅ、久しぶり」
「こっちに来る度に顔出してんじゃねぇよ」
眉を寄せ、あからさまに嫌そうな顔をして咲耶が毒づく。が、西園寺は全く気にした様子もない。
「そう言うてもなぁ。もうすぐハロウィンやろ」
「……だから?」
会話が成立していなくて、問い返す。
「悪戯し倒した挙げ句にぶち殺して文句が出ぇへんとか、ありがたいイベントやんか」
「それ絶対ハロウィンじゃありません」
呆れて紫月が呟く。
ぎし、と咲耶の拳が軋んだ。凄まじい怒りに、むしろ口角が吊り上がっている。
「いいだろう。てめぇの腹ん中に、直接菓子をぶち込んでやろうじゃねぇか!」
拳を固め、勢いよく立ち上がる咲耶に、楽しげに西園寺が向き直った。
「とりあえず悪戯なら屋外でやってくれますか、二人とも」
九階のリビングからベランダに通じる窓を開いて、断固として紫月は言い渡した。




