「五色の短冊」ってあれ黒いのもあるんですかね
「坊ンは、七夕とかやったことあるんか?」
いきなり問いかけられて、弥栄紫月は小首を傾げた。
「七夕、って、笹に短冊を吊す風習ですよね。神事の方じゃなくて」
「いやそりゃ大抵の日本人はやったことあらへんやろ」
「また余計な知識入れてるんじゃねぇよ……」
呆れたように、知人と相棒に突っこまれて、肩を竦めた。
「そう言えばやったことはないですね。僕がまともに育った頃は教会にいたので」
その答えににやり、と笑って、西園寺四郎は懐に片手を入れた。
「さてここに短冊が三枚ある訳なんやけど」
「お前紫月に色々やらせるの楽しんでるだろ」
半眼で、守島咲耶が呟く。
「ええやん、別に減るもんやなし。情操教育が足りへんかったら、どこぞの坊ちゃんみたいになってまうで」
「……それは何だか微妙に困る気がしますね」
曖昧かつ遠回しに師を扱き下ろして、紫月が同意した。
「ちょっと待てお前ら冷静に考えろ。あいつの方が年下だ」
とりあえず忘れ去られているらしい事実を指摘しておく。溜め息をついて、咲耶は更に口を開いた。
「四郎。言っておくが、俺はやらないぞ」
「何でやねん。つき合い悪い奴っちゃな」
西園寺の茶々に眉を寄せる。脅すように、その鼻先に人差し指を突きつけた。
「ちったぁ考えろよ。俺が短冊に文字とか書いたら、そのまんま呪符になっちまうだろ」
「マジで!?」
驚愕した男に、真偽のほどはともかく、咲耶は重々しく頷いた。




