消幕
※ 二話連続投稿しております。ご注意ください。(二話目)
ざり、と靴底が砂を擦る音で振り返る。
「よぅ」
軽く、片手を上げてこちらへ向かってくる少年を認めて、肩の力を抜いた。
「遅い。咲耶」
「充分止められてんだろ。平気平気」
憮然として文句を言うが、簡単にあしらわれる。
低い呻き声を上げ、被せられた光る網から身体の自由を取り戻そうと身を捩る大猿を、感心したように咲耶は見詰めた。
「申相手に雷撃か。やるもんだな」
「力押しでないと無理な相手でね」
素っ気なく、褒め言葉を受け流す。
次の瞬間、彼は鋭く上空を見上げた。
「どうした、紫月」
相棒の声にも、しばらく反応しない。
更には促さず、咲耶は待った。
「……いや。見られていた気がしたんだ」
視線を戻し、短く告げる。
「上からか?」
「ああ」
「敵意は?」
「ない」
数秒、胡乱な視線を先ほどの相棒と同様に上方へ向けるが、しかし咲耶はすぐにそれを目の前の大猿へと戻した。
「注意しておいてくれ。いきなり、死角から襲われるのはごめんだ」
「同感だね」
長い黒髪の少年は、一歩前へ出て、ざっ、とスニーカーの底で足元を均す。
これは癖だ。足場を確かめるための。
例え、そこがコンクリートの上でも、床板の上でも、街灯の天辺でも。
そして、片手を目の前の妖へと向けた。
挑発するように、人差し指をくい、と引く。同時に、唇が小さく動いた。
次の瞬間、大猿の身体を戒める網から、一面に真紅の炎が迸った。
絶叫が、夜空を裂く。
申は金気。雷は木気。
木は火を生じ、火は金に克つ。
しかし、二人の扱う術は違う。それを併せることなど、本来は至難の業だ。
不敵な笑みを浮かべ、咲耶は言い放った。
「いいぜ、紫月。とっとと終わらせよう」
無言で、紫月は大猿との距離を詰める。
その右手は、淡い光に包まれていた。
守島咲耶。そして、弥栄紫月。
後に『魔を滅する者たち』と呼ばれる二人の、これが出会いの物語である。
『IMAGE CRUSHERS! 2』に続きます。




