一話
「運がないなー」
思い返して見れば、イエントは十五歳の誕生日を迎えてから、より一層運の巡り合わせが悪化したと言わざるを得ない。ここ二日間での出来事がとても悲劇的だったからだ。
誕生日を迎えた二日前、バイト先の酒場の店主夫妻がお祝いにと、夕食をご馳走してくれた時は、本当に運がよくなったと感じてしまうほどだった。
しかし、幸せだったのはここまで。
その日の夜、家族も友人、ペットもいないイエントは住まいで一人きりだった。
隣の部屋から大声とともに、男たちが壁を突き破ってきたのだ。前から借金の取り立てで訪問されていた方々で、武器とボロボロになった隣人さんとともに。
ボレンドパネットでは、民間人の武器の所持は、違憲とされている。所持しているとなると、荒くれ者の組織の方々である。この状況がどれだけ危険なのか、十五の少女でも分かる。
「ひぇ~~~~ん!」
叫び声とともに部屋を飛び出していた。道路を走りながら後ろ見てみると先ほど方々が追ってきていた。
「なん~~~~で?」
男たちの叫び声が聞こえてくるが、どれも聞きたくないような言葉ばかり、表通りから角の多い路地を何回も抜けて逃げ切った。その日は住まいに戻らず公園で野宿した。
次の日、朝から住まいの確認に戻ると、怪しい方々が大勢居らしゃっていたので、歩く方向を百八十度変え、住まいを後にした。
仕事では悩んだりしないようにと、気持ちを切り替えて酒場に訪れた。
「おはようございます!」
酒場の店主夫妻とバイトが数人準備をしていて、ご主人がイエントの方に向かってきた。
「イエントちゃん、出て行ってくれ」
イエントは、理解したくないことを言われて数秒間、茫然としていた。
「えっと、私が何か不味いことしましたか?」
いきなりのことで、心当たりがなくご主人に尋ねると、
「昨日、荒物の連中に追い駆けられていたと聞いてね。うちみたいに小さい酒場だと係わっただけで、店を潰されちまう。」
イエントは体が凍りついた。
「ご近所の方が朝から騒動のことを話していてね。イエントちゃんが借金を作って、荒物に追い駆けられているとね。」
なんで私が借金を作ったことになっているの!? と、頭の中で叫ばずには居られなかった。
「あの、その話には誤りが私はお金をかり……」
ご主人に自分が巻き込まれただけであり、借金の話は住まいの隣人のことであると、説明をしようとしたら……
「残念だったよ 踊りもできて良く働いてくれたのだが、じゃあね」
これで話が終わりと言わんばかりに店に戻っていくご主人、イエントは見送ることしかできなかった。
「私ってここ一番で、言葉が出ないのだろう」
酒場を離れて大通りを、イエントは頭を下に向けながら、独り言と供に歩いていた。
(お店に迷惑を掛けないためにも、出入りしない方が良いのだろうけど、誤解したまま離れるのが嫌だよー)
済んだことを何時までも引きずってしまい、さらに新しい失敗を積み重ねるのがイエントの日常である。
「とりあえずお家には、しばらく帰れないから別の区画で借家を探そう」




