第14話『冒険者登録』
(冒険者になるにあたって、難しいところはそれほどない)
『一通り推測する限りでは、このようなごろつきの集まりだと基準もたかが知れているということでしょうね』
リオンの言うとおりだ。
スラムから来ようと、どうしようと、冒険者ギルドは登録料さえ貰えばどんな事情であろうと登録を行う。
「それじゃ、あんちゃん。登録料銀貨1枚貰うぜ」
「どうぞ」
偽名と性別を受付机に置かれていた札に渡された羽ペンで書くと、チンピラ同然の受付に銀貨を一枚ほど袋から取り出して渡す。
「ヘンリー……メーヴェルか。よし、確かに登録した。新人は鉄からだが、階級の説明はいるか?」
お願いします、と俺が言葉を返すと受付は慣れた調子で話し始めた。
「冒険者ギルドには鉄、青銅、銅、銀、金、聖銀の6階級あるんだ。ミスリルどころかゴールドまで行ける連中すら17年前以来まったくいないが……ともかく、あんちゃんは一番下になる」
「成程、ただアイアンでも問題なく戸籍としては機能するんですか?」
「おう、毎年年末までに銀貨1枚を払ってくれりゃあな。まぁただ登録したばっかりならその一年の支払いは登録料で賄われる。だからあんちゃんの更新は来年の年末ってわけだ」
「なるほど。そういった仕組みなんですね」
俺があたりさわりなく返事すると、受付はうなずきながら更に説明してくれるようで。
「だが、シルバーからはそういうのは不要になる。昔はゴールドからだったんだが、10年前に基準が変わってね。それでもゴールドに行けるやつなんかいないってんで────まぁ、冒険者を本気でやりたいんなら王都まで行けばここよりはマシな連中がいるさ」
その一言と共に話は終わり、俺は鉄の登録証を手にする。 守衛はそれを見て笑みながら肩を軽くたたいてきた。
「よし、これであんたはこの街に入れる。ただ日が落ちると門は閉まるから、帰るときはその時にしろよ」
「あの……」
そういえば、と。
ふと気になったことがあった。
「ん?」
「なぜあなたはここまで良くしてくれるんです?俺は見ず知らずの旅人なのに……」
ギルドでごろつきに絡まれないようになのか、守衛は城門まで付き添ってくれるようだ。それに少し気になって、声をかけてしまう。
「あー……まぁあんちゃんが真面目で礼儀正しいってのもあんだがよ。昔、20年くらい前に俺がまだごろつきやってた頃あんちゃんによく似た人に助けられたことあるんだ」
「俺に……よく似た人?」
その言葉に対してぼりぼりと頭をかきながら、守衛は照れくさそうに笑む。
「あぁ。その人の名前は確か───エリク・ヴァーサ。郷士様なんだっていうのでさ、すげぇよなぁ……」
俺はその言葉に、心揺れる。
知らぬ知らぬのうちに……父さんに助けられていた。もう、一人で生きるつもりだったというのに。
(父さん、俺は……)
復讐を父さんはどう思うのだろうか。
義兄弟同士で殺し合うのはやめろ、と言うのかもしれない。 でも、それでも。
(見ていて、父さん。俺は絶対に、立派な郷士になってみせるから)




