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第12話《子爵領》

 ───ロスタ子爵。

このいくつもの貴族たちが領地と荘園を所持して内政を行うハイダリア王国に於いて、子爵位は下から数えたほうが早い爵位だ。


 男爵、子爵、伯爵……誰もが聞いたことはあるであろうその階級だが、ロスタ子爵が強固な城を持ち伯爵に匹敵する都市を持っていることは国内外から見ても異常なことだろう。



「ロスタ子爵は一言で言えば大金持ちなんだ。商人も兼任していて、王都にも巨大な店がある……さらにミスリル鉱山まで私有してるらしい」

『ほう、そのような者が?』

「すぴー、すぴー」

 

 俺たちは村から手配してもらった馬車に乗りながら、報酬金の銀貨10枚を片手に外を眺めていた。 シルヴィアは熟睡している様子で、なかなか起きそうにない



『では当然ながら軍の規模も子爵の範囲に収まらないと言うことですか?』


「あぁ。隣の伯爵には劣るが、それでも子爵軍は相当の規模がある。300人の軽装歩兵隊に150人の重装歩兵隊、さらに50人の騎士隊まで揃えてるんだ。 普通の子爵ならここまで維持することは難しい」


 合計500人の軍。

この量を子爵規模で傭兵を雇わずこの規模を常に維持できているというのは異常だ。


「この付近では他の麦より収穫量が劣る高地麦ハイランド・ウィートが主流なんだ。そして子爵領の軍の食料を補うなら畑6000個は必要になる──だが、子爵領はそこまで広くない」


『その足りない分を有り余る資金で補っている、ということですね』


「あぁ、だから城に忍び込むのは困難と考えた方がいい。ひとまず領内に入るやり方は考えてあるから、それからまた考えよう」



───────

子爵領

領都ロスタ城門


 馬車から降りてしばらく歩いた後。

俺たちは当然のごとく、城門の守衛に呼び止められた。




「男一人、女一人。で、男の方は戸籍札がないと?」


「はい。そうなんです……実は田舎の方からツテで」

 王国中、戸籍がないものはある程度存在する。

とんでもなく田舎や森の中だとか、もしくは人の世に入ってこないエルフなんかがそうだ。


「わ、私がこの人の遠い親戚で!どうかできませんか?」

 そして事前に話を合わせていたシルヴィアがそうフォローする。良いぞ、ここからだ。



「フーン、白い髪に金色の眼……指名手配書にも似てる人間はいないな。名前は?」


 やはり見た目が変わったおかげでバレてはいないようだな。 


 そして俺に名を尋ねてくる守衛。

ここで本名を名乗るわけにも行かない。ならば──。



「メーヴェル。俺の名前はヘンリー・メーヴェルと言います」


「メーヴェル?へっ、いい名前じゃないか。よし……こっちに来い、冒険者ギルドへ案内してやる」


 そういって偽名に騙されてくれたのか、守衛は俺を冒険者ギルドへと案内していく。


 冒険者ギルド……いわゆる、明日死ぬ可能性の高いその日暮らしの根無し草たちの集まり。 だが、そこが俺の今回の生命線だ。

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