第10話『巣穴』
「……ここがゴブリンの巣穴か」
夜更け前。
シルヴィアが寝ている間に、色々と痕跡を探っていると存外簡単にそれは見つかった。
『他愛のない連中です。正面から戦うのもいいですが、素直に焼き払うのが先決でしょう。──"具現"』
そうリオンが短く詠唱すると、ぼんやりとした光と共に銀髪の美女……人型モードの彼女が現れた。
「こぼれ出たゴブリンの処理はあなたに任せます」
「俺は剣術の心得はそこまでないけれど───」
「構いません。戦えば理解できると思いますので」
そういってプラチナ色のきれいな長髪をかきあげると、リオンは目の前に手をかざす。そしてそこから無詠唱で以前よりは火力が低いものの、明らかに持続力の違う幻竜炎が洞窟内に対して放射された。
「この程度ならあと一分でしょう。洞窟内の空気が焼け、ゴブリンたちの殆どはわけも分からず焼死します。そして───」
その刹那。爆炎に覆われた洞窟内から、火で肌のただれたゴブリンが本能的にそばにいた俺へと襲いかかってきた!
「っ!……え?」
ひとまず前に剣をかざして守ろうと考え……その考えより先に、反射的にゴブリンの頭部を手に持った長剣で容易に斬り飛ばす。
「やはり正しく作用しているようですね。 グスターヴ、先日は説明が不足していましたが、魂喰は敵の魔力を我が物にする以外にもう一つの特性があります」
ザン!ザシュ!
ぼろぼろと這いずり出てきたゴブリンたちをまるで今までの俺の剣術とは別物のように、簡単に斬り殺していく。
「それは『吸収した敵の技能』を『奪う』こと。あなたは剣聖を殺せば剣聖の力が。魔術師を殺せば魔術師の力を得ることができます」
「じゃあ、それはつまり……」
気づけば、炎をすり抜けたゴブリンたちはすべて息絶えていた。ところどころまだ神経が生きているのかビクビクしているものもあるが、どれも残り一分もまともに生きられない惨状だ。
「俺自身に才能がなくても、相手を殺せば自身の才能にできるっていうのか」
「そのとおりです」
狂っている。
俺の心は歓喜や安心より先に、恐怖を感じた。
俺は確かに落ちこぼれだった、落ちこぼれでいつもディディエの下だった。でも、いつか努力すれば報われると考えてた。それを希望にしてたんだ。
だが……だけど、その結果得たのは殺した数だけ本来その人にあったはずの才能や個性をすべて奪う能力。
「……まるで、呪いだ」
俺はどこか、無意識に言葉を漏らす。
それに対してリオンは───いままでみせもしなかった微笑みで、俺を見つめた。
「えぇ、その呪いであなたは使用人の願いを叶え、村を救えたのですよ」
血の滴る鉄刃がからん、と地面に落ちる。
俺はとんでもないものを目覚めさせてしまったのかもしれない。だけど、もう後戻りはできないんだ。
《略奪を習得しました》




