第八十七話 先生に会うよ!
さて、とりあえず登校初日は学園長先生へ挨拶に伺うことになっている。
リズと一緒に来るように言われていたので、殿下とはここでお別れだ。
「では殿下、わたしとリズは、学園長先生にご挨拶に伺うのでここで失礼いたします」
「あ、フローラ嬢、それなら私が学園長室まで案内します。フローラ嬢と聖女だけでは人が集まって来ると大変でしょうし。時間も余裕があるので大丈夫ですよ。さあ、行きましょう」
そう笑顔でおっしゃった殿下は、ニコニコしながら私たちを案内してくれた。
「お、おい見たか? 今リース殿下が笑顔だったぞ! 」
「ああ、見た。殿下、あんなに笑えたんだな………」
「ま、まあ! 見ました? リース殿下が………」
「私、あんなに嬉しそうなリース殿下見たことありませんわ。一緒にいた可愛らしい子は下位貴族ですわよね? あの子が有名なベルンハルト家の方なのかしら? 」
『モケ〜目立ってるモケ〜。とりあえず悪意はなさそうモケからここは大丈夫モケね〜』
私が殿下の後について歩いていると、姿を消していたモケゾウが私の肩に乗って来た。
「あれ、モケゾウ出てきても良かったの? 」
『モケ〜今は大丈夫モケ〜。………主の学校生活はきっと平穏無事にはいかないモケね』
「え? なんで出てきた途端、そんな不吉なこと言うの? 」
『………本当のことモケ。でも、主のことは守るから心配ないモケよ〜。主は好きに生きて良いモケ。僕がちゃんとフォローするモケから。主がこの学校を制圧したいって言っても余裕で対処可能モケ〜』
「いや、制圧って………しないよ?制圧」
『モケ? しないモケか〜。でも、気が変わったらいつでも言って欲しいモケ〜』
そう言ってモケゾウはまた姿を消した。
モケゾウの中での私の印象は、まだまだ前世の脳筋のままのようだ。
こんなに可愛いのに不思議だね。
『モケ〜、中身はあんまり変わってないモケ〜』
また心の声に返事をされてしまった。
本当、モケゾウは私の表情を読むのが上手い。
そうこうしているうちに、学園長室に着いたようだ。
目の前には立派な扉。
ノックをすると中から「どうぞ」の声が。
扉を開けて中に入るとそこには………。
「初めまして、私が学園長のルルル・リルラよ。ベルンハルト家の至宝と、シルフィード国の聖女を迎えられて嬉しいわ」
そうニコニコと迎えてくれたのはピンクの髪がキュートな、優しそうな年配の女性だった。
「初めまして。フローラ・ベルンハルトと申します」
「お初にお目にかかります。シルフィード国から参りましたリズベッタです」
私たちがそう挨拶すると、学園長先生はますますニコニコしながら。
「あらあら、きちんと挨拶が出来て偉いわ〜。あ、バカにしているわけではないのよ? ほら、ここはほとんどの生徒が高位貴族でしょう? 中にはプライドが高すぎて挨拶も出来ない子もいるのよ。きちんと挨拶が出来るというのは大切なことなのよ。二人が入学することで新しい風が吹くことを願っているわ。もちろん困ったことがあったらいつでも相談してちょうだいね? 私だってまだまだ若い子には負けないわよ」
なるほど、プライドが邪魔して挨拶も出来ないようなお子様がいるのね。
そういうのに限って自分よりも上の者には媚びへつらうからな〜。
前世でもいたな、私には理不尽に当たり散らしておいて、上位貴族にはこれでもかとおべっか使って取り入ろうとするやつ。
まあ、私に絡んできたやつは二度と絡んで来なかったけど。
「学園長先生自身は獣人ではないのだが、それ以上に強いから安心して下さい」
そう殿下がおっしゃった。
獣人ではないのなら、普通の人族なのかな?
でも、なんとなくこの気配に覚えがあるような?
「ふふ、私のことはまた今度お話するわね。さあ、さっそく教室に案内するわ。カルド先生よろしくね」
学園長先生がそう言うと、隣の部屋から誰かが現れた。
「ふぉっふぉっふぉ、これは可愛らしい生徒さんが増えるの〜。儂はカルド、君たちの担任じゃ。リースも同じクラスじゃぞ。困ったことがあれば何か言う前にリースが動きそうじゃが、儂も力になるから頑張っておくれ。リースがこんなに笑顔をまき散らすのは初めて見たわい。いや〜長生きはするもんじゃな」
そう言って私たちと挨拶を交わした。
見るからにヨボヨボのお爺ちゃん先生だけど、たぶん強い。
「カルド先生、笑顔をまき散らすって………まるで私がいつも笑わないみたいじゃないですか」
殿下がそう不貞腐れたようにカルド先生に言った。
「いや、自覚がないのか? リースはほとんど表情変わらんじゃろ。さすが王族と周りも見ていたが………いやはや、長生きはするもんじゃ、ふぉっふぉっふぉ」
カルド先生、ご機嫌である。
とりあえずお二人とも優しそうで安心した。




