第八十六話 学校へ着いたよ!
私の目の前には、朝から眩しいキラキラ王子様。
説明もいらないだろうけど、私の仮の婚約者のはずの殿下だ。
何がそんなに嬉しいのかキラキラを撒き散らしている。
隣に座っているリズがそのキラキラに堕ちそうになっていたが、そこは成長しているキラとドラが連携して留めてくれている。
「制服よくお似合いですね」
殿下が私の制服姿を、ニコニコしながら褒めてくれた。
自分で言うのも何だけど、このキュートな子リスにこの制服は非常にマッチしている。
私だってこんな子が前世でいたら絶対に愛でたい。
まあ、逃げられると思うけどね。
「ありがとうございます。私もこの制服は気に入っているのでそう言っていただけると嬉しいです」
なんてことを話しているうちに馬車は学校へと辿り着いたようだ。
果たして殿下と一緒に登校することによって、どれだけ高位貴族の令嬢からの視線を集めるものだろうか?
私は良いとして、リズはある意味被害者になってしまうかもしれない。
そうこうしているうちに馬車は止まり、殿下が先に降りてこちらをキラキラ笑顔で見てくる。
手を差し伸べてくれているから、降りるのを手伝ってくれるんだろうけど………今周りにどのくらいの人がいるのかな?
私はまるで戦場に降り立つような気持ちで馬車を降りた。
…………うん、案の定目立ってる。
殿下がエスコートをして降りて来た子リスにみんな注目しているよ。
そんな中、令嬢集団がこちらに近付いて来た。
これはアレだね、よくある襲撃だね!
そしてこう言うんだ。
「殿下と一緒に来るなんてどういうことですの?! 」
あ、本当に言った。
………でも何だか様子がおかしいような気がする。
「またやりましたね?、殿下」
恋愛下手な私でもわかる。
この言葉を発した人物は殿下に恋愛感情を持っていないと。
どこか冷ややかな視線を殿下に突きつける彼女は………。
「あ、ビビ様………」
よく見れば以前、高位貴族のお茶会に参加されていた方が周りを取り囲んでいた。
そして殿下に一際冷たい視線を向けているのが、アンガス辺境伯令嬢のビビ様。
私がビビ様の名前を呼ぶと、殿下に向けていた冷たい視線はスッと消えて、まるで春の陽だまりのような笑顔で私を見つめそして………。
「フローラ様! お久しぶりです! お元気でしたか? もう、相変わらず可愛らしい姿で………はぅ! な、何ですか?!その制服のお似合い具合! まさにフローラ様の為にあるようにピッタリです! と、とりあえず一回抱き締めても良いですか? 」
そう言うとビビ様が手をニギニギさせて私に近付いて来た。
「駄目に決まっているだろう? それ以上近付くな。そして他の者まで何故列を作る? 」
そう、殿下の言う通り、ビビ様の後ろにはお茶会に参加されていた方たちが列を作っていた。
あれ? なんかこの光景見覚えが?
『モケ、握手会再びモケか? さすが主モケね〜』
「フローラって本当に凄いのね」
今まで空気に徹していたリズまでそんなことを言う。
しかしこの状態をどうすればいいのか………。
「皆様、フローラ様を困らせてはいけません。そのようなことをしてしまって、もしフローラ様が学校へ来られなくなってしまったらどうするのですか? 」
そう言ってその場を収めようとしてくれたのは、あの高位貴族のお茶会を開催されたナターシャ様だった。
ナターシャ様は列の前まで来て、元凶のビビ様にそっとなにかを囁いた。
その途端ビビ様は、ハッとした表情をし残念そうな顔をしながらもニギニギしていた手を下げて。
「フローラ様、申し訳ありませんでした! 」
勢いよく頭を下げてきた。
え? そんな簡単に上位貴族が、いくら私が殿下の婚約者(仮)だからといっても頭を下げてはいけないのではないでしょうか?
………ほら、お茶会参加されていた方たちはそうでもないけど、それよりも遠巻きで見ていた方たちが驚いた表情をしているじゃないですか〜。
本当に初日からやらかしている感が酷い。
まだ授業も受けていない私が既に疲れ始めていると、モケゾウと今日一緒に来ていたマサムネが。
『モケモケ〜やっぱりどこにでもバカなことをやろうとするのはいるモケね〜』
『ああ、分かっている隊長。あっちは俺が行こう。とりあえず切ればいいよな? 』
『モケ、まだ切っちゃダメモケ。ちゃんと根っこまで引っこ抜いてから切るモケよ〜』
何やら不穏な会話が………。
私が何か言おうとすると。
『大丈夫モケ〜。主はただ学校生活を楽しめば良いモケよ〜』
『そうだぞ、主殿。些細な問題は俺たちが対処する。最終的に切れば解決するから問題ない』
………え? 問題しかないと思うのは私だけ?
私がそんなことを思っている間にマサムネが勢いよく飛び出して行った。
えっと、気をつけてね?




