閑話 シルフィード国 参
『あら、えーっと、フィルウィル………モケゾウじゃない。相変わらず仕事が早いわね〜。それじゃあ、それは全部預かるわ………はい、完了! 』
そう言うと精霊王様はあっという間に、ガスト家の者たちをポイポイと自分が現れた術式の中に放り込んだ。
『それで、神木の寿命だっけ? そうね〜、私の見立てではもってあと半年ぐらいじゃないかしら? まあ、それも早まることもあるだろうから………一番早くてひと月ってところね』
その言葉にシルフィード国の者たちはショックを受けている。
でも、すぐにある事実に気付いたらしい。
あの精霊王様が目の前にいるということに。
シルフィード国の常識に照らし合わせれば、ここにいるシルフィード国の者全てが大聖人、大聖女の資格の一つを手に入れたことになる。
まさに大盤振る舞いだ。
「あ、あの! お初にお目にかかります、私は………」
エルフの王がそう言おうとしたところ精霊王様がそれに被せるように。
『あ、今のシルフィード国の王様があなたね? 挨拶はいらないわ。それより精霊を勝手に使おうとするような者を放っておくのやめてちょうだい。精霊はおもちゃじゃないんだから。精霊が人に力を貸すのは、その人を気に入っているからよ、それを勝手に変更するなんてほんと最悪だわ。とりあえず今回は今連れていくエルフたちだけを罰するけど、次はないわよ? あと、神木っていうか普通の木がちょっと大きくなっちゃっただけだから、あの木を神木として扱いたいならとっととモケゾウたちにお願いしちゃいなさい。こんな顔してるけどモケゾウは意外と喧嘩っ早いわよ』
結局精霊王様の後押しもあり、神木はヒヨコのホムラ様に託された。
その後どうなったかと言えば………。
「「「「「ああーーーーーー!!!」」」」」
その場にシルフィード国の上層陣の声が響き渡った。
まあ、私も叫びたかったが我慢した。
神木の近くまでみんなで移動し、そこでどうしたかと言えば簡単に言えばホムラ様が巨大化した。
全身が紅くなり燃えているように見える、というか絶対燃えていた。
そしてホムラ様は大きく息を吸い込み、思いっきり吐き出した。
するとどうなるかと言うと、神木が燃えた。
それは見事に燃えた。
シルフィード国の上層陣がみんな叫んだ後それぞれ、呆然とし、泣き出し、これは精霊王様の怒りだと言ったが、思ったことは一つ、神木は燃え尽きてしまったと。
物凄い炎だったが、消えるのはあっという間だった。
そして神木があった場所にモケゾウ様が向かい、手に何かを持って帰って来た。
『モケ、これが新しい神木と言う名のただの木モケ。育てれば大きくなるモケ。ホムラがきっちり生まれ変わらせたから大丈夫モケ』
大人の手にすっぽりおさまる大きさの木をシルフィード国の王へと渡した。
『モケ〜、これで主のところに帰れるモケ〜。主も喜ぶモケ! いっぱい撫でてくれるモケ〜』
モケゾウ様の言葉に他の上級精霊様と、小さくヒヨコに戻ったホムラ様が一緒に喜んでいる。
なんだか撫でられる順番まで決めているような。
そして早速帰ろうと道を開こうとしていると、慌ててシルフィード国の者たちが話しかけてきた。
「お、お待ち下さい! 何もお礼が出来ておりません! 是非ゆっくり疲れをとっていって下さい」
『別に疲れてないモケ。それより早く主のところに帰るモケ。どうしてもって言うモケなら、これ置いていくモケ』
そう言って館長を見た。
「え? い、いやいや、置いて行かないで下さい!私も帰りますよ! 」
「父上………さすがにこのまま父上が帰るのは見過ごせないです。ゆっくり話を聞かせて下さい」
ジト目で見られた館長は本当に渋々残ることにしたらしい。
今度こそ帰ろうとした時、また引き止める声が。
「わ、私も獣人国に連れて行ってください! 聖女は私の友達なのです! 無事を確認させて下さい! 」
シルフィード国の姫がそう言ってきた。
何故か私の顔を見て、頬を赤くしながら。
「無理です」
私の返答にポカーンとした顔をしている。
その顔は断られると思っていなかった顔だ。
姫の暴挙に気付いた者が姫の回収に来た、行動が遅い。
せっかくモケゾウ様に連れて来ていただいたのに、厄介者に目をつけられてしまっただけだった。
その後私たちは無事国に帰り、モケゾウ様たちは嬉しそうにフローラ嬢に撫でられていた。
少し、いやかなり羨ましかったがグッと我慢した。
私は結局何もしていなかったからだ。
だけどフローラ嬢は何も出来なかった私を笑顔で労ってくれ、私たちがシルフィードに行っている間にあの魔族とお菓子を作ってくれていたのだ。
私の婚約者はなんて素晴らしいのだ。
そんな幸せな時間をおくっていたこの時の私は知らない。
この後、あのシルフィード国の姫がこの国に突撃してくるのを………。




