閑話 シルフィード国 弐
シルフィード国での捕り物は、案の定苦戦することもなく、あっという間に制圧完了となった。
一応、説明はするべきか?
一、やらかしたエルフの住む地域に乗り込む
二、術を聖女に教えて使用させたバカが、既に精霊界に連れて行かれたことを伝える
三、抵抗してくるエルフをちぎっては投げ、ちぎっては投げ………
四、最終的に術に関わったエルフを全員捕縛(どうやって見分けているかは謎)
五、それを連れて王城に乗り込む(今ここ)
「ち、父上………これは一体何が………」
エルフの王だと思われるエルフが、動揺を隠せずに震える声で館長に話しかけた。
「これは………精霊王様の怒りと上級精霊の怒りをかった者の末路だ。くれぐれも調査がどうとか、何かの間違いだとか言わないでくれ。精霊王様が現れて、自らガスト家の者を連れて行かれたのだからな。そしてここにおられる上級精霊の方々が、このシルフィード国にいる、術に関わった者たちを精霊王様に引き渡すためにわざわざ来てくれたのだ」
館長が今までの出来事を簡潔にまとめてエルフの王に説明している。
近くにいる側近と思われる人たちもその話を聞き、頭を抱えている。
「な、何故、助力を求めて行ったはずが精霊王様と全面戦争の様相になっているのだ………」
エルフの王はブツブツと、だからガスト家の者を使者に出したくなかったのだとか、エルフが偉いなんて誰が言い始めのだとか、最終的にエルフなんてただの年寄りなのになどと頭を抱えながら呟いている。
『モケ〜、とりあえずこいつらは精霊王様に渡すモケよ〜。とっとと終わらせて主のところに帰るモケから。あ………あとこの国の神木………まあ、ただの大きい木モケど、小さくなってもいいモケならこのヒヨコが治せるモケよ』
そう言うとモケゾウ様は、ヒヨコのホムラ様をエルフの王たちの方へズズズいっと押し出した。
『もう〜、いきなりおさないでよ〜。うん? ホムラはかわいいヒヨコだけど、ましゅたーに早く会いたいからがんばるの〜』
「ほ、本当に神木を治せるのですか? 」
エルフの王と側近が縋るような目でモケゾウ様を見た。
『たぶん大丈夫モケ。ヒヨコもだいぶ外に慣れたようモケし』
「ちなみに小さくとはどの程度で? 」
『………いまのホムラくらい、かな〜 』
手のひらサイズのヒヨコぐらいの大きさの神木………。
でも、このままだと枯れるなら小さくても良いのでは?
「あの、今から相談をするのでお時間をいただければと………」
『………十分モケ。精霊王様の用事は済んでるモケから神木の件は完全にオマケモケ。主が治ると良いねって言うモケからホムラを連れて来たモケ。僕は別にどっちでも良いモケ。………被害を被った主がこう言ってるモケからグダグダ言わずに治せば良いと僕は思っているモケ』
あ、やっぱりモケゾウ様はエルフに良い感情は持っていないんだ。
ただ、フローラ嬢が望んだから来ただけ。
それもフローラ嬢が神木が治ることを望んでいるから、それを拒否したり、延期しようとするやつには容赦しない方向で。
バターーン
その時、部屋の扉が乱暴に開いた。
そして入って来たのは………
「お父様! なんでも獣人国の者たちが攻めて来たとか! 精霊も使役していると聞きました! 」
エルフの王をお父様と呼ぶと言うことは、シルフィード国の姫か。
「な! レオナ、変なことを叫ぶのではない! 誰だレオナに嘘を吹き込んだのは! いいからお前は部屋に戻りなさい!お前が絡むとややこしいことになる」
王がそう言って側近に姫を退出させようとしたところで、姫と目があった。
「あー! あなたが獣人国から来た人ね! ………ちょ、ちょっとかっこいいからってシルフィード国を攻めるなんて許さないんだから! 」
なんて言うか、これで良いのか姫が?
側近が一生懸命事情を説明している。
だんだんと状況がわかってきたのか、はじめの勢いはなくなりどんどん萎れていく。
そんな中でもモケゾウ様はモケゾウ様だった。
『モケ、十分経ったモケね。どうするモケ? このまま僕たちはすぐに帰るモケど』
モケゾウ様の言葉に、え? 十分って今の時間も含まれるの? という顔でシルフィード国の者がモケゾウ様を見ている。
そんな状況がめんどくさくなってきたのかモケゾウ様がこう切り出した。
『じゃあ、この捕まえたバカたちを精霊王様に引き渡す時に聞けば良いモケ。あとどのくらいで神木が枯れるモケかを』
そう言うとあっという間に何かの術式を描き始めた。
それを描き終え、モケゾウ様がその術式に魔力を注ぐと辺り一面が光った。
次の瞬間、そこにはついこの間見た精霊王様の姿が………こんなに簡単に呼んで大丈夫なのか?
『精霊王様、これ頼まれてたヤツモケ〜。あとは煮るなり焼くなりしてほしいモケ〜。それからここの神木と言う名のただの木はいつ枯れるのか知りたいらしいモケよ〜』
モケゾウ様………本当にもう面倒くさいんですね。




