閑話 シルフィード国 壱
『モケ、それじゃあ精霊王様に頼まれたこと済ますついでに、ただの木を治しに行くモケ〜』
『ラジャであります! 』
『カパー』
『とりあえず切ればいいな』
『がんばるの〜』
モケゾウ様の言葉に他の上級精霊様と、生まれたばかりのヒヨコが元気よく返事をしている。
今回シルフィード国に行くのは、モケゾウ様、フラン様、カッパ様、マサムネ様、ヒヨコのホムラ……様、それから図書館の館長でまさかのシルフィード国の前国王と私、リースだ。
『隊長! おやつはいくらまででありますか? 』
『カパー!カパカパ! 』
『カッパがキュウリはおやつに入るのか聞いているぞ。………入るわけないだろ! 』
『ホムラは〜、カラいものがいいの〜』
………今からシルフィード国へ殴り込みに行く気の私とは違い、皆様は普段通りのお姿。
「おい、このヴォルガノフ様がおやつを準備してやったぞ! 各自袋に入れてやったから心して食うが良い。いくら美味いからといって一気に食うなよ、腹壊すからな………って言ってるそばから袋に顔を突っ込むんじゃない! 持っていく分のおやつを今食うな! ほら、カッパ、これはお前のな。朝採りのキュウリだ。あとヒヨコ、お前辛いのが好きならこれ持ってけ。かなり辛いが美味いぞ」
フローラ嬢のおやつ係というよくわからない役職におさまっていた魔族が、精霊様たちの母親のように見えてくる………。
「おい、そこのエルフとちびっ子よりちょっと大きいちびっ子、これはお前たちの分だ。持っていくが良い。あいつらみたいに今全部食おうとするのではないぞ! 」
私の分までおやつが準備されていた。
館長もびっくりしている。
「あ、ありがとう………ございます」
この魔族は敵だったはずなんだが、なんだかんだで憎めない性格もあり、普通にフローラ嬢たちに馴染んでいる。
どんな口調で接すれば良いのか、正解がわからない。
「僕の分も………ありがとう」
ほら、館長もかなり戸惑っている。
魔族自身は、私たちがおやつを受け取ったから満足したらしい。
うんうんと頷きながら、またモケゾウ様たちの方へ行き何か騒いでいる。
「じゃあ、みんな気をつけて行って来てね。殿下もご無理はなさらないで下さい。館長様は………あの、頑張って下さい」
準備も終わり、フローラ嬢に見送られながら私たちは精霊王様が開いた道へと進んだ。
その道は周りは霧で覆われており、道だけが真っ直ぐ伸びているのが見える。
『モケ〜、この道を外れるとどこに出るかわからないモケ〜。運が悪いと海の底とか、空の上とかに出るモケから、絶対に道をそれちゃダメモケよ〜』
さすが精霊王様が繋いだ道だ。
とりあえず道を歩いていれば大丈夫のようだから、間違っても道からはみ出さないようにしなければ。
って!!
ホムラ様がフラフラと道を外れそうになっている!
「ホムラ様! そのままだと危険です! 」
私がホムラ様を捕まえようとするより早く、モケゾウ様がホムラ様の首根っこを引っ捕まえた。
『モケ………ヒヨコ、歩くの疲れたのならちゃんと言うモケ。しょうがないモケからこのまま行くモケよ』
そう言うとモケゾウ様が、ホムラ様の首根っこを掴んだまま進み始めた。
………まあ、その方が安全か。
なんていうことをしているうちに道の先に扉が見えた。
近付いてみるとご丁寧に『シルフィード国』と書いてある。
フラン様とマサムネ様が扉を押すとゆっくりと扉が開き、見えて来たのは大きな木。
「まさかこんな風に帰ってくることになるとは思わなかったよ………」
館長がなんだか疲れたようにそう呟いた。
たぶん、今からもっと大変なことになるだろうけど、それはあえて言うことではないな。
『何もう疲れたようなこと言っているモケ? 今からが本番モケよ。とっとと主に喧嘩売ったエルフの一族のところに案内するモケ。それが終わらないと木も治さないモケ』
あ、モケゾウ様が館長に現実を突きつけた。
館長がでっかいため息をついている。
「モケゾウ様、出来れば今の国王………うちの息子ですが、それに話を通してからでも『めんどいモケ』」
モケゾウ様が館長の意見をぶった切った。
『そんな話をしに行ったら、調べてみます〜とか、そんなはずはないとか言われてめんどいことになるに決まっているモケ。先手必勝モケ! 主も昔から言っていたモケ、とりあえず突っ込めって』
………確かに前世の英雄様も言っていた。
迷ったら、いや迷わなくても突っ込めと。
モケゾウ様はあの頃の英雄様の言葉を今も覚えているんだ。
何故かそれがとても嬉しい。
『それじゃあ、突撃モケ〜! 』
『おーー!であります! 』
『カパーー! 』
『出撃ーー! 』
『お〜なの〜! 』
皆様ヤル気に満ち溢れている。
館長は………あ、全てを諦めた目をしている。




