第八十話 木の未来は?
『それじゃあ、とりあえずこいつだけは連れて行くわね』
精霊王様がこいつ呼ばわりしたのは、もちろんあのやらかしエルフ。
必死に逃げようとしているけど、そんな抵抗なんのそので精霊王様が引っ張っている。
そもそも精霊王様に会えたら大聖女だかになれるんだから、精霊王様に連れられて精霊界に行くのはご褒美なのでは?
『モケ〜、あんな欲にまみれたヤツ、精霊界に行ったって有り難がるようなヤツに見えないモケ〜。それに、近々アイツの仲間、家族もあの術に関わったヤツはみんな精霊界でのお仕置きコースモケ。みんな精霊界に行くから有り難さも半減モケね〜』
「相変わらずモケゾウは、私の考えていることすぐわかるよね? 」
『モケ〜主はわかりやすいモケ〜』
そんなことないと思うけど。
モケゾウとそんな話をしているうちに精霊王様は、あのエルフを引き連れて精霊界へと帰っていった。
最後にモケゾウに頼み事はしていたみたいだけどね。
シルフィード国の残された人たちは、館長様に怒られながら陛下たちにずっと謝っている。
結果、精霊王様を怒らせちゃったもんね〜。
しかも神木がただの木って………もう、何をしに来たのかわからない状態だ。
「フローラ嬢、一先ず詳しい賠償については今後詰めて行くことになったのだが………本当に、その聖女をフローラ嬢のところで面倒見るのか? 」
シルフィード国側といろいろ話し合っていた陛下が、私に問いかけてきた。
「はい! モケゾウが指導してくれると言ってますし、何より精霊王様と約束しましたから」
精霊王様と約束していたのはみんな聞いていたから、それに逆らうようなことは陛下も、シルフィード国の方もしないだろう。
もちろん本人でもある聖女さんもね。
「フローラ嬢がそう言うのであれば………だが、何か問題があればすぐに知らせてくれ、全面的に力になるからな」
「はい! ありがとうございます! 」
よし! これで陛下公認で聖女さんを預かれるね。
あとは聖女さんのやる気次第だけど、早めにキラとドラを返してあげたい。
「ベルンハルト嬢、本当に申し訳ない! こんな馬鹿なことをするなんてこと流石に思わなかったよ………いや、これは言い訳だね。神木の情報をもっと注視していれば、こんな事をする事態まで発展しなかったはずだから。いくら一線を退いていたからと言っても、シルフィード国の情報に疎くなり過ぎていたよ」
館長様が項垂れながら謝ってきた。
いや館長様がいくら前国王だからって、今の王は違う人だろうし、直接の関係はないのだから謝る必要なんてないのだけど。
「館長様に謝っていただく理由はありませんよ。結果を見れば私は無傷だし、精霊増えちゃってますし、何なら聖女さんもうちに来ますし、プラスはあれど、マイナスはありませんから。逆にシルフィード国にしてみれば今後大変でしょうからね。神木が枯れてしまうし、聖女さんはうちの国にいるし、何より精霊王様が直接行くかもしれませんからね」
私の言葉に館長様だけではなく、シルフィード国の面々も意気消沈している。
「まさか神木がただの木だったなんて………。でも、ただの木だとしても、ずっとシルフィードのシンボルであったことは事実なんだ。出来れば助けたかったけど、精霊王様がキッパリと枯れるとおっしゃっていたから諦めるしかないんだよね」
館長様が悲しそうな顔でそう言った。
ただの木だったとしても、今までシルフィード国の人たちの支えになっていた事は事実なんだよね。
なんとかしてあげたいけど、精霊王様が言うには私が行っても無理みたいだし………。
『………モケ。主、ただの木だけど助けたいモケ? 』
「うーん、そうだね、助けられるのなら助けたいけど、精霊王様も無理って行ってたからね〜」
『たぶんモケど、助けられるかもしれないモケ〜』
モケゾウの言葉に館長様が反応した。
「え? 精霊王様が枯れるだけっておっしゃられていたのに、何か助けられる方法があるのかい? 」
『正確に言うと、生まれ変わらせるモケ。どのくらいの大きさの木かは知らないモケど、大きさは小っちゃい赤ちゃんみたいな木になるモケよ。だけど、間違いなくその木そのものではあるモケ』
「生まれ変わり………」
そんなこと出来るんだ〜。
モケゾウってばスゴい!
『主〜、僕がするんじゃないモケ〜。するのはそいつモケ〜』
そう言ってモケゾウが見たのは私………の腰?
私も見てみれば、前にアオボンからもらった不思議な卵がちょびっと震えている。
『そうモケ、そいつモケ。ほんとは産まれてもおかしくないのに、主の魔力が心地良いからって、卵から出てこないそいつモケ』
そう言うとモケゾウが卵に近付いて、ペシペシ叩き始めた。
叩かれるたびに卵がブルブル震えている。
すると、ついに卵にヒビが!
そのヒビが全体に広がり、割れた卵から出てきたのは………へ?
「ヒヨコだ………」




