第七十七話 館長様の前職は?
完全にみんな固まってしまっている。
それぐらいシルフィード国の人たちにとったら、館長様は居たらびっくりする人物だったようだ。
「それで、何故このような状態になるまで放っておいた? 神木が枯れ始めたのはここ最近のことではないのだろう? 自分たちならなんとかなるとでも思ったか? 何故すぐに相談をしなかった? 」
普段の館長様とは違い、とても厳しい口調でシルフィード国の人たちを叱っている。
えっと、もしかして、思っていたよりお偉い方でした?
「そして何より問題なのは、ベルンハルト嬢に手を出したことだ!! 」
一際大きい声でそう言い放った館長様は、ちょっと涙目でこう続けた。
「お前たち、冷静に考えてみろ! ベルンハルト嬢は上級精霊四体、それから聖獣様と懇意、あと魔族がお菓子係なんていうおかしな………いや、不思議な役割で付き従っている方だぞ!ついでに、聖女の精霊二体を受け入れてもケロッとしている、はっきり言って、お前たちに勝ち目などどこにもないわ!! 言っておくが、私は全面的にベルンハルト嬢の味方だからな。それから、聖女をそそのかしたお前は確か………ああ、エルフ至上主義のガスト家の者だったか。どこでこんな馬鹿な術を見つけて来たか知らないが、お前のせいでシルフィード国が滅亡の危機だと思え!! 」
一気に言い切った館長様は、はぁーはぁーと荒い息を整えている。
興奮し過ぎて涙目だし、見た目は完全に子供が癇癪を起こしたように見える。
館長様の勢いに黙っていたシルフィードの方たちだったが、その沈黙を破ったのは、またしても面倒なそそのかしエルフだった。
「そもそも獣人に上級精霊が何体も付くなんてことが間違いなのです! 大昔から精霊と共にいたのは我らエルフのはず!それなのに、こんな獣人の子リスなぞに上級が四体などと、嘆かわしい!! だから私は、その間違いを正すためにあの術を聖女に授けたのです! それのどこが、シルフィード国の滅亡に繋がるのか………いくら前国王とは言えども、許せる発言ではないですぞ! 」
あ、館長様って、前国王様なんだ………。
って、なんでそんな人がこの国で図書館の館長しているの?!
地位のある人とは思っていたけど、それでも前国王様は偉過ぎた。
なんて私が思っていると、モケゾウたちの方から何やら怪しい気配が………。
私が恐る恐るそちらを見ると、モケゾウたちはウォーミングアップを始めていた。
『モケ、アイツ、主を馬鹿にしたモケね』
モケゾウがそう言って拳シュッシュを始めるとフラン、カッパ、マサムネもそれぞれ戦闘の準備をし始めた。
ついでにトナトナもぬいぐるみサイズから普通のトナカイの大きさに、ヴォルは何やら呪文の詠唱を始めている。
………え? 既にヤル気のようなんですけど。
その事に気付いた館長様が、顔色を青に変えた。
「え? ちょ、ちょっと待って、なんかその感じだと、ここにいる者みんな討伐する感じになっているよね?! この馬鹿な発言した奴は正直それで良いけど、他の者は一旦保留でお願いします! 」
館長様が勢いよくモケゾウたちに頭を下げた。
その姿を見たそそのかしエルフが、空気を全く読まずにまた失言した。
「何故前国王であるあなたが、たかだか獣人の契約する精霊に頭を下げるのです?! それでもあなたはシルフィード国の前国王なのですか?! 」
自分のせいで館長様が頭を下げる事態になっているのに、未だに自分が選ばれた存在とでも思っているようだった。
そんな発言をすればどうなるか、本当にわかっていないらしい。
案の定フランが飛び出そうとしたが、いつもなら一番に飛び出しそうなモケゾウがそれを、フランの首元を猫のように捕まえて止めた。
『ぐえ〜であります! ちょ、隊長! なんで止めるでありますか?! 』
モケゾウが文句を言っているフランを引きずり、他の子たちと何やらコソコソ相談し始めた。
アレ? 主なのに私は蚊帳の外ですか?
相談はすぐに終わったらしく、モケゾウたちがこちらを振り向いた。
その顔は今から何かやってやるみたいな、とっても悪そうな顔をしている。
え? 殴りかかるより大変な事しようとしてる?
ちょっと心配になった私だが、私のそんな気持ちとは裏腹に、モケゾウがそれはそれはとてもいい笑顔で、私の耳元で囁いた。
「……………え?! それ、私がするの?! 」
私の言葉に、みんながとてもいい笑顔で頷いている。
「いや、でもさ、それやっちゃうといろいろ問題が………」
『モケ! 大丈夫モケ! これなら的確にピンポイントでダメージ与えられるモケ! 僕がやっても良いんだモケど、ここはやっぱり主がやる事に意義があるモケ! だから主お願いモケ〜』
っく!
そんな可愛い顔でお願いされたら、断れないじゃん。
「わかったよ、モケゾウ。モケゾウのこと信じるよ」
私はモケゾウに頼まれたことをしようと、行動を起こした。




