第七十六話 連れて来てくれたよ!
私のことを呼びながら帰って来たトナトナの背中には、必死にしがみついている人がいる。
私がトナトナに頼んで呼んできてもらったのだ。
『主ちゃん! 僕ちゃんと連れて来たよ〜、褒めて褒めて! そして、イワシスイーツいっぱいちょーだい! この間のイワシクッキーとイワシキャラメルがいいよ! あ、でも、まだ見ぬ新作スイーツも捨てがたい………ど、どうしよう、決められないよ〜』
「うんうん、ありがとうトナトナ。とりあえず背中に乗せている方を、一回降ろしてあげようか? さっきから必死に掴まっているからね? あと、スイーツについては、あそこにいるヴォルに相談して来てね」
私の言葉にトナトナが、ハッと気付いたらしい。
自分の背中にまだ人がいたことを。
ごめんね〜、と言いながら降ろしてあげて、自分はとっととヴォルに突進しに行った。
一応気遣ってなのか、大きさはいつものぬいぐるみサイズで。
それでも勢いがかなりついていたから、結局ヴォルがちょっと吹っ飛ばされているのだが………。
そして私は、トナトナによって運んで来てもらった人に話しかけた。
「館長様、いきなり来ていただいて申し訳ありません」
そう、私がトナトナに連れて来てもらったのは、図書館の館長様。
そして、たぶんシルフィード国では地位のあったお人。
「あ、ああ。い、いきなり聖獣殿が図書館に飛び込んで来て、わしのことを背中に乗せたと思ったら飛びだって………ちょっとびっくりしすぎて足が震えておるが、な、なんとか大丈夫じゃ」
周りに人がいるからか、今日は威厳のあるおじいちゃん口調だ。
まあ、見た目は怖い目にあったちびっ子風だけど………すみません。
とりあえず私は館長様に今さっき起こった出来事を全て伝えた。
ちなみに、館長様が来たことは、揉めている両国のお偉い様たちは気付いていない。
私の話を聞いた館長様は、遠くを見つめて「終わった………」と呟いている。
いや、そんな諦めモードじゃなくて、何か建設的な意見下さい。
「いやいやいや、完全にやっちゃってるよね?! 上級精霊や聖獣様の前で、君の精霊を無理やり奪う術をかけるって、死にたいってことだよね? なんでそんなことをこんな大事な場面で出来るの? あれか! 破滅願望でもあるのかな?! それは勝手だけど、国を巻き込んじゃダメだよね! 完全に両国にビシビシと亀裂入っちゃっているよね? こんな状態じゃ、図書館の館長なんていう、おいしい職業ここで出来なくなっちゃうじゃないか! てか、誰?! そんな馬鹿な魔法を聖女に教えたの? 責任とって処分するから教えて、大丈夫絶対バレないようにヤルから」
館長様がキレた。
おじいちゃん口調はやめて、いつもの口調になっている。
そして、言っていることは結構過激だ。
「落ち着いて下さい、館長様。出来れば聖女さんは助けてあげて下さい。見た感じ、なんだか周りのプレッシャーに負けてそんな術に手を出してしまったようなので。術を使ったことは許されることではないですが、正直問題は周りにあったのではないでしょうか? 」
「………フローラ嬢は、聖女に怒りはないの? 」
「まあ、売られた喧嘩は買いますけど、別にそんなに怒っているわけではないですね」
「………良いの? それで」
「実際、私、これっぽっちもダメージないので。むしろ聖女さんの精霊いただいちゃってますけど? 」
「そうなんだよねー! 」
私と館長様が話している間も、あちらの話し合いはヒートアップしている。
なんだかシルフィード国に戦を仕掛けるなんていう、かなりヤバい話も出て来ているようだ。
「はあ、しょうがないか。フローラ嬢に力を貸すって決めたのは自分だしね。………この私、マリウス・フォン・シルフィードがなんとか致しましょう」
そう言うと、館長様は言い争っているその場に近付いて行った。
そして、トナトナに急いで連れられて来たため置いてこれなかった本を構えると、そのままシルフィード国の人たちの頭を順番に叩いていった。
なかなか厚みのある本だから痛いと思う。
「っつう! だ、誰ですか頭を凶器で殴って来た者は?! 」
シリウスさんが興奮状態のままそう言って、振り向いた先に館長様がいた。
「誰だと? もう忘れたのか、私のことを」
館長様の姿を見たシルフィード国の人たちがみんな固まった。
あれだけ騒いでいた、聖女さんをけしかけてきたやつすら固まった。
「それで、お前たちの馬鹿な行動のせいで、シルフィード国が建国以来最大の危機に陥っているが、お前たちはそれを正しく理解しているか? 本来であれば私はもう表舞台には立たないつもりだったが、そうも言っていられないからな。………シリウス、お前がついていながらこの状態はなんなのだ」
館長様の言葉にシリウスさんが返した言葉は。
「あ、ああ、お、お祖父様! 」
え? お祖父様?!




