第七十二話 うちの子たちを紹介するよ!
「え? あ、あの、聞き間違いかしら………嫌って………」
聖女さんが聞いてきたから私は。
「聞き間違いじゃないですよ。いやですって言いました」
私の言葉にシルフィードの方たちが、ますます嘘だろ? みたいな顔になってる。
エルフって表情そんなに変わらないって思っていたけど、結構顔に出るのね。
「な、何故ですか? 」
「何故って、だって初めてお会いした人と、二人きりで話すことありませんよ? 」
「え、あ、あのせっかく会えた複数精霊と契約している人と、仲良くしたいと思うのは普通だと思うのですが? 」
「それなら別に、二人きりの必要はないと思います」
私の言葉に、シルフィード国の人達は唖然としている。
対して、うちの国のお偉方は笑いを堪えるのに必死だ。
ちなみにさっきから、意外と笑いの沸点が低いマサムネは転がり回っている。
そこは見なかったことにしておこう。
意外と出来る子のヴォルが回収に向かったから。
「シルフィードの聖女様は、私の婚約者と二人きりで、何のお話があるのですか? 」
ここで殿下が私の横に立ち、聖女さんに聞いてくれた。
聖女さんは殿下の登場にちょっと顔を赤らめている。
ああ、忘れてたけど、殿下は美形だったわ。
「あ、別にそんな………少し精霊について聞きたいと思いまして………」
「そうなんですね。ではここでも大丈夫ですね? さあ、どうぞ。私の婚約者のフローラ嬢は優しいので、きっといろいろ教えてくれますよ」
そう殿下が聖女さんに言った。
そしてその顔は笑顔だが、目だけは鋭い。
その視線に晒された聖女さんは少し怯えたように見えたが、すぐに切り替えたようで。
「で、では、どのようにして複数の精霊と契約されたのですか? 」
「えっと、一番初めに契約した子の部下………いえ、友達の精霊がどんどん増えて、気付けばこんな数に」
その言葉に聖女さんは驚いた顔をしている。
周りのシルフィード国の人たちも皆、驚きの表情を浮かべていた。
「え、あ、その、で、ではそちらにいらっしゃる、聖獣様と思われる方は? 」
「あー、トナトナのことですね。トナトナは………契約しているわけではないですよ。ただ、ちょっとよくわからないうちに、我が家に住み着くようになってしまいまして……」
「す、住み着く?!」
聖女さんがトナトナの現状に驚きの声をあげた。
まあ、そうだよね、なんで住み着いてるんだろうってなるよね。
その張本人は、自分のことが話題になってご機嫌なのか、またさっきみたいにお尻フリフリしながら踊っている。
まあ、それも意外とやれば出来る子のヴォルが回収に向かって………あ、蹴られた。
めっちゃ、ふみふみされてる。
「あとは何か質問ありますか?」
私の問いに、呆然としていた聖女さんがハッとして。
「え、えっと、ではあまり他国では見られない魔族の方がおられるようですが、そちらの方は………」
「ああ、えっと「私のことか?」」
踏まれていたはずのヴォルが素早くこちらにやって来た。
「私はこのちびっ子のって、痛っ! こら、青いの!拳に魔力を乗せてくるな! 痛いだろ! 」
たぶん私のことをこの場でちびっ子と呼んだことが気に食わなかったのか、ヴォルに向けてモケゾウが拳シュッシュをお見舞いしてた。
「わかったから攻撃するな! 私はちび………いや、この子リスのおやつ係だ! 」
え〜〜〜。
ヴォル、そんなに胸を張って言うセリフじゃないよ、絶対。
ほら、みんな固まってるじゃん。
一般的に魔族はプライドが高く、その能力も高いとされているらしい。
私もちらっとヴォルに聞いただけだから実情は知らないけど。
その本人が、まさかの私のおやつ係と断言してしまった。
シルフィード国の人はヴォルを見て、すぐに魔族と気付いていたようだから、この発言にはかなり驚いたことだろう。
私もまさか、おやつ係と言うとは思っていなかったから、ビックリした顔でヴォルを見たら、めっちゃ笑顔を返された。
何でそんなに嬉しそうに宣言しているんだよ!
なんだかよくわからない様相になってきたけど、ここでエルフの代表のシリウスさんが口を開いた。
「す、凄いですね。それだけの精霊との契約だけではなく、聖獣が住み着いたり、魔族をおやつ係として従えているなんて………。ところでベルンハルト嬢は、移住などに興味はありませんか? 」
この言葉に真っ先に反応したのは殿下だった。
「何を言っておられるのですか? フローラ嬢は先程、私の婚約者と紹介させていただいたはずですよ? それを移住だなんて………一体何を考えているのですか?! 」
殿下が体全体で怒りを表している。
それに対してシリウスさんは。
「いや、突然申し訳ない。私も焦ってしまいました。このような素晴らしい方にお会いできると思っていなかったのでつい本音が………」
シリウスさんがそう言うと、殿下がますます興奮しているのがわかった。
シリウスさん、もうちょっと上手く話して下さい。




