第六十八話 平和な日常からの
なんか、ここ最近物凄く忙しかったような気がする。
なので、今日は珍しく家でのんびり過ごすことにした。
「お〜い! ちびっ子〜! おやつ出来たぞ! 」
あのアホ魔族………いや、ヴォルはものすごい勢いで馴染んだ。
父も母も最初は警戒していたけど、ヴォルの作るお菓子に陥落した。
総じてリス獣人は、木の実が入ったお菓子に目がないんだけど、ヴォルが作る木の実が入ったお菓子は格別に美味しかった。
なんでそんなに上手なのか尋ねたら、魔族は子供が少ないから、その子達のために何か出来ることを探していたら、自然と上手になったとのこと。
とても子供好きな魔族だった。
そして、なんだかんだ言って、うちの精霊達もヴォルの作るお菓子を楽しみにしている。
『なんでおバカ魔族なのに、こんなにお菓子美味いでありますか! モグモグ』
『カパカパ! モグモグ………カパ〜〜』
『うむ、このあんこの入ったやつ美味! モグモグ』
『モケ〜お前なかなかやるモケね〜。モキュモキュ』
『うわ〜、イワシでお菓子作れるなんて君スゴイね〜。バクバク』
すっかり胃袋握られてる。
ヴォルは見た目ちょっと怖いけど、父も母も、高位貴族のような威圧は感じないらしい。
やっぱり威圧は獣人独自のものみたい。
「ふぅ。本当に、ヴォルの作った木の実のタルトは最高ね。こんなに美味しいタルト食べたの初めてよ」
私の言葉にヴォルが嬉しそうに笑った。
「そうだろう! そうだろう! この私が厳選した、最高の木の実で作ったタルトだからな! 頬っぺたが落ちそうになるぐらい美味いだろう? あっ、おい、ちびっ子。お前口に付いてるぞ。あ〜〜、もうしょうがないな、この完璧たる私が取ってやろう! って、痛っ! なんで攻撃するんだそこの青いの! うわ! こんな部屋の中で魔法を撃つな! いやだからと言って、その拳はなんだ?! いいからその拳をおさめろ! 」
ヴォルとモケゾウが追いかけっこを始めた。
部屋の中をあっち行ったりこっち行ったり。
そのうち、他の子達も混ざり始めて、最終的に外に飛び出して行った。
たぶんあのままお城とか行って、騎士の人達と訓練してくるんだろうな。
私は一人部屋で、久しぶりにのんびり過ごした。
三時間ぐらい経った頃、みんなが帰って来た。
何故かヴォルだけちょっと汚れてたけど………。
『モケ〜、主〜、なんかお城の偉いのが主に用事あるって言ってたモケ〜』
偉いのって……。
「ああ、なんか困った感を出してたぞ。アレは厄介ごとの匂いがするな! どうする、ちびっ子? なんならこの完璧完全なヴォルガノフ様が、断ってやるぞ! 」
気持ちは嬉しいけど、話も聞かずに断るのもね。
「ありがとう。でも、一回お話聞いてみるよ。いつお城に来て欲しいとか言ってた? 」
『モケ。なんなら今からでも、とか言ってたモケど、もう夜になるし、主は今は子供だから睡眠大事モケから、明日にしろモケ! って言っといたモケ〜』
「そ、そっか〜、ありがとね、モケゾウ」
たぶんお城のお偉いさんって、陛下だよね?
明日謝る事にして、今は私のことを考えてくれたモケゾウを撫でておこう。
私がモケゾウを撫で撫でしていると、羨ましそうな顔の子達がこっちを見てたので、残らず撫で撫でしておいた。
トナトナがその中にいるのは、まあ、いつものことだけど、ヴォルは何故並んだ?
次の日。
朝になると早速お城から連絡が来ていた。
要約すると、こっちはいつ来ても大丈夫だから、早く来てね、と言うことだと思う。
待たせるのも悪いので、私は急いで準備をしてお城に向かった。
もちろんみんな残らずついて来てますよ。
お城に到着すると、こちらも安定の殿下が待ち構えていた。
「フローラ嬢、おはようございます。今日はいきなりお呼び出しして申し訳ありません。さあ、案内するのでお手を」
そう言うと殿下は私に手を差し伸べてきた。
「おはようございます、殿下。お気になさらないで下さい」
私は殿下の手を取り、歩き出した。
案内された部屋には既に陛下と宰相、エリー様と、私の前世を知っている人達がいた。
「フローラ嬢、突然呼び出してしまって申し訳ない」
陛下がそう言って、席に座るように勧めてくれた。
「いえ、大丈夫です。何かお話があるとのことでしたが………」
私の言葉に陛下が困った顔をして、こう切り出してきた。
「いや、実はな………今度この国にシルフィード国から人が来るのだが」
「シルフィード国………ですか」
「ああ。シルフィード国と言うのは、人とエルフが住まう国だ。特に精霊信仰が活発でな」
精霊信仰が活発………。
あー、なんか嫌な予感がする。
「フローラ嬢が複数の精霊と契約していることを、どこからか聞き付けたらしくてな。今度この国に来た際には是非会いたいとわざわざ連絡してきたんだ」
ほらね、面倒な匂いがプンプンするよ。




