第六十六話 理由を聞くよ!
目の前にはプルプル震えて土下座している魔族。
まだこちらは何も攻撃していないのに、自称魔族の中の魔族は戦うのを止めたようだ。
未来視で何が見えたんだろう?
「あの、もう戦うのは止めたということで良いですか? 」
私の言葉に魔族が大きく何度も頷いた。
そして、私たちを見てきたのだが………何故か私と目を合わせない。
これはどういうことかな?
私が近付こうとすると、土下座のまま後ろにちょっと退がった。
私がまた一歩近付くと、その分土下座のまま退がる。
近付く、退がる、近付く、退がる…………無言でその動作を繰り返した結果、壁際まで魔族を追いつめてしまった。
さすがにこれ以上退がることが出来ないとわかった魔族は叫んだ。
「何故追いかけて来るんだ?! 」
「え? だって目を合わせてくれないし、近付くと退がるから」
「そりゃ、退がるだろ?! ちびっ子! お前が一番ヤバかった! 何なんだ、あの動き? 未来視で見たちびっ子の動きはあり得んものだったぞ?! もちろんそこの精霊たちや、巨大化するトナカイもヤバかったが、一番はちびっ子だからな?! 私の未来視は何通りも一瞬にして未来を見ることが出来る………しかしどの未来も最終的にちびっ子が最後に立ちはだかるのだ………。一番ヤバかったのは、私の魔法が間違ってそこの黒豹の子供に当たった時だった………未来に鬼が現れた。あまりのキレっぷりにそこにいる精霊たちも引いてたわ!! もう、ちびっ子たちにはかかわらん! 早くここから出て行ってくれ! 」
「え〜」
勝手に未来を見て、文句を言われても………。
そもそもここから出て行ってくれと言われても、問題が解決していないのだから無理な話だ。
「ねえ、魔族さん。問題が解決していないから、ここから出て行かないよ? 」
「なに? 問題だと? しょうがない、この私が解決してやるから言ってみろ」
いや、あなたが問題だから………。
このやり取り………いや、近付く、退がるのあたりから視界の隅でマサムネが笑いを堪えているのは知っている。
トナトナもさっきから『ぷぷ〜』とか笑っているのも聞こえている。
遊んでいるわけではないのだが?
私が困っていると思ったのか、モケゾウがこっちにやって来た。
『モケ〜、主〜、もうグルグル縛っちゃうモケ? 』
「いや、もう攻撃する気は無いみたいだから大丈夫だよ」
『モケ〜、縛らないモケか〜』
モケゾウ、その手に持った縄はどこから取り出したの?
使わないからしまっておいてね。
『モケ、おいお前。何でマグニー捕まえて魔力抜き取ったモケ? ここでこのまま僕たちが帰って、同じことされたら困るモケ。………理由によっては………どうなるモケかわかるモケね? 』
モケゾウが魔族にそう言った。
ちなみにシュッシュと拳を打ち出しながら。
「うお! 何でそんなに武闘派な精霊なんだ………。………理由………か。聞いても面白い話ではないぞ?」
『別に面白さは求めてないモケ〜』
「そうか。まあいい。では、私の話を聞くが良い。お前たちは魔族がどうやって生まれるか知ってるか? 魔族が生まれる方法は二つ。一つは他の種族と同じく、番になった者たちの間から生まれる。そしてもう一つが『子育ての木』に成る実から生まれるのだ。魔族はもともと子供が生まれ難く、ここ二百年程は番の間から数十人しか生まれていない。ただ魔族は長寿だから。今まではあまり気にしていなかったのだ」
へえ〜、魔族ってそんな生態してたんだ。
子供が少ないから、私と殿下のことも気にかけていたのかな?
「そして問題は『子育ての木』の方だ。こちらはここ二百年一度も実がならん。いろいろ調査した結果、魔力が足りないと結論が出た。私の一族は代々この木を守ってきた。これ以上実がならないのは困る。だから良質な魔力を求めてこんなところまでやって来たのだ。昔は魔族の土地にも精霊がそれなりにいて、魔力を気ままに放出していたらしいのだが、ここ二百年ぐらいは見かけなくなってしまった。だから精霊がいるとされるこの場所までやって来たのだ」
魔族の話を聞いてる時、モケゾウが何かを思い出すような様子を見せた。
「ねえ、モケゾウ何か気になることでもあるの? 」
『………モケ。たぶん、ちょっと心当たりがあるモケ』
モケゾウの言葉に魔族が反応した。
「なに?! そこの青いの何か知っているのか? 知っているならこの私に教えるが良い! っひ! いや、あの、知っているのであれば、教えて下さい………」
途中でモケゾウの拳シュッシュを見て、言葉遣いを変えた。
ちょっとは空気を読めるようになったようだ。
『モケ。昔、精霊王様に頼まれて各地のイタズラが過ぎる精霊を捕まえたり、お仕置きしたりしてた頃、魔族の住む土地にも行ったモケ。たぶん、あの時のアレかなと思う出来事があるモケ』
モケゾウ………私がいない間に何してたのかな?




