第六十話 おねだりされたよ!
『主ちゃーーーん! 』
すっかり我が家に居着いているトナトナが、私のことを大声で呼ぶ。
ぬいぐるみサイズのトナトナが慌てて走って来た。
「どうしたのトナトナ。そんなに急いで」
『だって、一大事なんだよ〜。聞いて、聞いて! さっきいつも僕にイワシを供えてくれる子が言ってたの! なんと、今イワシが超大漁なんだって! 』
トナトナが興奮しながらそう言ってきた。
ほ、ほう、イワシが超大漁ですか。
『しかも、あまりに大漁だから捨てられるのも出てきているんだって! ホント、一大事だよ〜。そんなもったいないことするなんて信じられない! 僕の力で新鮮なまま保管するから、一緒にイワシ祭りに行こうよ〜』
イワシ祭り?
勝手に祭りになっている。
『海まで距離あるけど僕が大きくなって運ぶから大丈夫トナ! ねえ、行こうよ〜』
トナトナが私の周りをグルグル回りながらおねだりしてくる。
それを見ていたカッパも何故か回り始めた。
んで、後からやって来たマサムネ、フラン、散歩から帰って来たモケゾウまでよくわかっていないけど私の周りをグルグル回っている。
うん、みんな楽しそうだね?
『あははは!………アレ? なんで主ちゃんの周りグルグルしてたんだっけ? ……………あ! そうだよ! イワシ祭りだよ〜』
トナトナが今度はモケゾウ達に一生懸命説明している。
どれだけイワシが大漁か、そしてどれだけイワシが美味しいか、ついでにイワシが世界を救うとか………まあ、救うとか言い始めた時に止めたけどね。
『モケ〜、トナトナは一回言い始めると何を言っても止まらないモケよ〜。諦めてイワシ祭りに行くモケよ〜。それに主とお出かけ嬉しいモケ〜』
モケゾウが私の前で目をキラキラさせてそう言った。
お出かけ………確かに事故で森に飛んだぐらいしか遠出してないや。
せっかくまたモケゾウと一緒にいるのに、お出かけ出来ないなんて悲しいよね。
「そうだね、みんなでお出かけ楽しそうだよね! じゃあ、イワシ確保に行こうか! あ、でも私、一応まだお子ちゃまだから遠出するって言ったら止められちゃうかな? この間のこともあるし心配かけちゃうかも」
私の心配をよそに、モケゾウは大丈夫って胸を張っている。
うん、その仕草も可愛いよ。
なんでみんなも胸を張っているかはわからないし、トナトナにいたってはひっくり返っている。
まあ、笑って転がっているから大丈夫か。
次の日、モケゾウが言った通り外出の許可が下りた。
父と母には精霊&聖獣が絶対に守るから大丈夫、主には気分転換も必要と説明して、最後には笑顔で送り出してくれるまでになった。
まあ、それは良かったんだけど。
問題はなんで今ここに、殿下と森で一緒になった騎士様数人がいるのかだ。
「えっと、どうして殿下と騎士様がいらっしゃるのですか? 」
「もちろん、フローラ嬢と出かけるためですよ。あ、ちゃんと精霊様や聖獣様には許可をもらっているので大丈夫です」
アレ? 私の許可はいらない感じですか?
まあ、良いですけどね。
どうせトナトナが、イワシを捕まえるのに人手が欲しいとでも思って連れて行く気なのかもだし。
「お出かけというか………イワシ捕まえに行くだけですよ? 良いんですか? 」
殿下と騎士様にイワシを捕まえさせるって大丈夫?
服装は確かに目立たない感じだけど、殿下は美形だからな〜。
イワシは似合わないと思うよ。
私が殿下と騎士様とイワシについて考えていると、騎士様達が。
「大丈夫です! 頑張ってイワシ捕まえます! 」
「聖獣様のためにとっておきのイワシを捧げます! 」
「この外出について行くために勝ち抜いてきました! みんなの屍を越えていきます! 」
いや、死んでないでしょう、屍って。
イワシ捕まえに行くだけなのに、なんで歴戦の勇者みたいな顔しているの?
そんなにイワシ捕まえに行きたかったの?
『トナ〜、じゃあ、行くよ〜。今準備するからちょっと離れてね〜』
トナトナがこの前のように大きくなって、私たち用の箱も準備してくれた。
勝手知ったるなんとやらで、私達はその箱に乗り込んだ。
初めての殿下は興味深そうに見ている。
『みんな乗ったトナ〜? じゃあ、イワシ目指して出発進行! 待っててね〜、イワシちゃん! 』
トナトナが勢いよく飛び出した。
魔法で防御してくれているのか風の抵抗は感じない。
グングン上昇して空を駆ける。
「フローラ嬢、寒くないですか? 」
そう言うと殿下が私にストールを巻いてくれた。
「あ、ありがとうございます殿下」
殿下が笑顔で私を見てくる。
いや、そんなに見られるとさすがに恥ずかしいですよ?
………ところでその隅っこで、こちらを見ながらヒソヒソしている我が精霊達よ。
『なんか、恋愛イベントっぽいの始まったであります』
『カパ〜』
『どうせ主殿がスルーで終わりだろう? 』
『モケ〜、鈍感スキルが発動するモケ〜』
全部聞こえているからな。




