第五十八話 高位の存在ってフレンドリー?
結局、隣国の王様は迎えに来た隣国の使者に預けられた。
ザンガス王も姫もワーワー騒いでいたけどね。
このままこの国で裁くと隣国と揉めそうだし、何より隣国の新国王がかなりご立腹らしい。
もちろんザンガス王にね。
たぶん今回うちの国で問題起こした連中は全員、隣国でそれ相応の罰が待っている。
それからおばちゃん精霊とその仲間たちだが、精霊王様が迎えに来た。
まさか本人が迎えに来るとは思わなかったよ。
『今回は精霊達が迷惑をかけたわね。トナトナもごめんね。それからお詫びと言ってはなんだけど、この国に向こう百年ぐらい祝福かけておくからよろしくね〜。じゃあ、あんた達行くわよ! こんなに人間界に迷惑かけて、いろいろしわ寄せが来ているんだからね! フィルウィルデルフィ………じゃなくてモケゾウ、今回もありがとね』
思っていたより軽かった、精霊王様。
トナトナもそうだけど、高位の存在になる程フレンドリーだったりするのかな。
「ねえ、モケゾウ。あの精霊王様に連れて行かれた精霊達ってどうなるの? 」
『主、世の中知らない方が良いこともあるモケよ』
精霊界の闇を見ました。
それからトナトナは本格的に隣国からこちらに引っ越してきた。
お供の精霊引き連れて。
トナトナがいるからと隣国に住んでいた精霊達は、トナトナがこちらに来るなら一緒に行くと来てしまったらしい。
勝手にその辺漂っているらしいから基本放置とのこと。
トナトナはなんだかよくわからないうちに、私の家にいた。
いや、なんで?
『主ちゃんと一緒にいると楽しそうだし、モケゾウ君達もいるからね〜。イワシはピンクさんが採ってきてくれるから大丈夫だよ〜』
『なんで私がイワシを採って来なきゃいけないんでありますか?! しかもまたピンクって言ったであります! 』
フランがトナトナにブチ切れている。
よく考えるといくら上級精霊とはいえ、聖獣に真っ向から立ち向かうのは如何なものなのかな?
『モケ〜、ある意味アレはトナトナにとってご褒美だから大丈夫モケ〜。トナトナはフランがお気に入りモケから』
なるほど、コミュニケーションの一環でしたか。
それにしても隣国は今後大丈夫かね。
聖獣と精霊を多数失っているのだから。
たぶん少しずつ加護がなくなったことを実感していくんだろう。
新国王様には是非頑張ってもらいたい。
それから変わったことと言えば、殿下の様子がおかしい。
あのおばちゃん精霊の攻撃の時に庇いあったあたりで何かあったようだ。
前までは猛ダッシュでこちらに来ていたイメージがあったけど、最近は視界に入るといなくなっている。
「あれ? モケゾウ、今殿下いなかった? 」
『いたモケど、なんか走っていったモケ〜』
と、このようにどうやら避けられているらしい。
これはもしかして他に好きな人が出来たから婚約解消したいって流れか?
『………主、たぶん違うモケ〜。勘違いして暴走するのはダメモケよ〜』
違ったようだ。
まあ、私の恋愛センサー壊れ気味だからそんなことわからないよね。
『まあ、主だからしょうがないモケ。僕が一肌脱ぐモケ〜』
「はぁ、はぁ、はぁ〜」また逃げてしまった。
記憶が戻ってからどうしたら良いのか本当にわからなくなってきたんだ。
俺の前世は英雄様のいた時代だ。
俺は今と同じ王の子だった。
ただ違うのは側室の子で、しかも五男。
王位継承権もかなり下だった為、わりと放置気味に育てられた。
英雄様はどちらかと言うと王族を嫌っていたと思う。
いや、たぶん高位貴族全般かもしれない。
彼女は圧倒的武力で英雄に登り詰めたが、下位貴族の出だった為に随分苦労していた。
王族の中には彼女を馬鹿にしている者も実際いた。
俺はそんな中、若いうちから英雄様の下で働いていた。
いや、働いていたというより英雄様が面倒を見ていてくれたんだ。
少しでも箔がつくようにと側室である前世の母が英雄様の部隊にねじ込んだ。
なんの力もない王族、お荷物以外の何者でもない。
だけど彼女は俺の面倒をよく見てくれたんだ、それこそ実の親以上に。
俺は、彼女に憧れ、彼女と一緒に戦えるようになる日を夢見ていた。
………でも、俺はやっぱりお荷物だった。
あの日のことはショックのせいか朧げな記憶しか残っていない。
どこかの国と争っていたんだ、俺はいつの間にか部隊から離れていた。
そこを敵に狙われたんだ。
………俺は助かった、助かってしまった。
あの人が俺を護ってくれた結果。
それ以降の記憶は思い出せない、たぶんろくな生き方しなかったんだろう。
こんな俺がフローラ嬢の婚約者で良いのか?
本当は今だってフローラ嬢のところへ走って行きたい、けれど俺のせいで死んだ英雄様にこんな俺が近付いて本当に良いのか?
一体どんな顔して会えばいいんだよ………。
『モケ〜、そんな顔ではないモケ〜。お前、前世で主の部下だったやつモケね? なにうじうじ考えているかわからないモケど、主のことが大事なら今の態度はないモケ。言っておくけどうちの主は超鈍感のスキルと恋愛音痴のスキル持ちモケ』
「も、モケゾウ様」
『主は何回でも助けに入るモケ。それが嫌なら鍛えればいいモケ。護られるだけが嫌なら自分で強くなるモケ。僕はそうしたモケ。お前だってさっき弱いくせに主を護ろうとしたモケ。今度は本当に護れる力を手に入れればいいモケよ〜』
「お、俺、フローラ嬢の隣にいて良いんでしょうか? 」
『それを決めるのは主モケど、とりあえず強くなるモケ』
「ねえ、モケゾウ、なんで殿下がモケゾウのこと師匠って呼んでいるの? 」
私の質問にモケゾウがまたもや吹けていない口笛で誤魔化した。
まあ、でも殿下が私を見てダッシュで逃げる事はなくなったから良いのかな?




