第五十七話 急に記憶が!
モケゾウにイロイロ言われたおばちゃん精霊は、悔しそうに顔を歪めている。
あんなに可愛らしいお姫様だったのに、変化が解けたらコレって………、盛り過ぎだよ。
『っく、せっかく上手くいっていたのに………どうせ精霊王のところに連れて行かれるなら………その前にやってやる! 』
そう言うと一番小さい私に向かって来ようとした。
うん? こっち来ちゃうの?
私が構えようとしたら、モケゾウがスッと私の前に現れた。
『モケ、主になにしようとしたモケ? 』
あ、モケゾウが怒っている。
それを見たおばちゃん精霊が目標を変えた。
次の目標は………殿下!
魅了が効かないと思った精霊は直接攻撃に変えたようだ。
信じられない、ここまでする精霊がいるなんて………。
殿下が狙われたその時、急に私は前世の記憶が浮上してきた。
誰かが………護らなければいけない誰かが狙われている。
私はその誰かを護るために急いでその人の元に向かっている。
そこは周りは敵だらけ、いくら前世の英雄とて無傷での生還は難しい状況、でも、それでも、護らなければいけない誰かの為に前世の私は向かう。
今だってそうだ!
殿下を護らなければいけない!
見れば殿下を護るように騎士様達が立ち塞がったが、もう後が無いと思っているおばちゃん精霊と捕まっていない隣国の精霊が最期の力を振り絞って暴れている。
私は無意識に駆け出していた。
『あ、主ーーー! 』
後ろからモケゾウが慌てたように私を呼ぶ。
ごめん、でも行かなきゃ………私は護らなければならないんだ。
私は全力で駆けた。
おばちゃん精霊が騎士様達を撃破し、殿下を狙い始めている。
あれは、誰でもいいから自分の邪魔をしたモノ、だけど出来るだけこの国にダメージを与えるモノに危害を加えようとしているとしか考えられない。
「殿下ーーー!」
私の声に気付いた殿下が驚いた顔でこちらを見た。
「ふ、フローラ嬢! だ、ダメだ! こっちに来たら君まで狙われてしまう! 」
そんなこと百も承知。
むしろ私を狙え!
私は魔法が飛び交う中へ飛び込んだ。
そして殿下を狙うおばちゃん精霊の魔法を一身に受け止める。
俺の目にフローラ嬢の後ろ姿が映った。
その背中はとても小さいのに、本当に小さいのに………とてつもなく大きく感じる。
いつか………どこかで………これと同じモノを見た気がする。
どこで? 誰だ?
だけど以前見たその背中は本当に大きい背中だった………。
俺を護る、俺の大事な………。
パリーーーン!
頭の中で何かが弾けた。
急にいろいろなことが頭を巡る。
そうだ、そうだった!
俺は前にも護られていたんだ!
今は小さいけど、前はとても大きいその背中に!
あの時………ああ、そうだ、あの時、彼女は俺を護る為に………。
俺はずっと彼女に会いたかった、ずっと憧れていたんだ、そしていつか一緒に肩を並べて戦えるようになったら、その時は………。
なのに、俺はあの時彼女に護られるだけだった、俺のせいで………俺のせいで彼女は!
また、彼女を失うのか?
また護られるだけなのか?
今の彼女は昔と違い、ただの少女………俺が護られるんじゃない! 俺が………俺が護るんだ!
「フローラ嬢! 」
私の名前を呼んだ殿下はそのまま私を抱きしめ、私に覆い被さるように私を魔法から護ろうとした。
「で、殿下! 危ないです! 」
「危ないのは君も一緒だろう? 俺はもう目の前で君が傷付くのを見たくないんだ! 」
『フハハハハ! いいよ、一緒にヤッテヤルヨ! 』
おばちゃん精霊がそう言うと大きな火の玉を投げてきた。
殿下が私を護るように抱きしめる。
火の玉が私と殿下に当たろうとしたその時、その魔法が跡形も無く消え去った。
『な、なんだと?! 』
『僕がいるのに主に傷なんてつけるわけないモケ〜。………王子やるモケね。主に護られるんじゃなくて、主の盾になるとはなかなか良い心がけモケ。十モケポイントあげるモケ〜』
どうやらモケゾウが魔法を消し去ってくれたようだ。
ところでモケゾウさん、モケポイントって何?
私が疑問に思っていると、フラン、カッパ、マサムネがやって来て。
『凄いであります! 隊長から十モケポイントも一回で貰うなんて! 』
『カパ! カパカパ! 』
『俺なんて結構長く部下やっているが、まだ三十だぞ………』
うん、だからモケポイントって何?
私がまだよくわかっていないうちに、モケゾウ達が手際良くおばちゃん精霊とその仲間達を精霊も縛れる特別製のロープでグルグル巻きにしていく。
おばちゃん精霊に至ってはまるでミノムシのような姿になっている。
『これで良いモケ〜。あとは精霊王様に渡してどうにかしてもらうモケよ〜』
ふむ、なんだか慌ただしかったけどこれで一件落着かな?
………いや、まだ隣国の王様いたわ。




