第五十六話 モケゾウの拳がうなるよ!
白いヒラヒラの服のお姫様………だよね?
でもモケゾウが魅了の力を使った精霊と言うのであればきっと、フランみたいに人間に化けられるのかもしれない。
『モケ〜、話しかけてみるモケ〜』
そう言うとモケゾウはスーッとお姫様(仮)に近付いていった。
私も慌てて後に続く。
『モケ〜、もうその格好しなくても良いモケよ。トナトナもそっちの国の守護獣引退したから精霊の力も下がるモケ〜。それから魅了の力は効かないモケよ〜』
そうモケゾウが話しかけるとそのお姫様(仮)は、キッとモケゾウを睨みつけた。
『なんなのよ、あんた? 私の邪魔をするのね? 私は姫よ! 何故こんな扱いをされるの?! 』
ふむ、自分は精霊ではないと言っているのかな?
あくまで自分は姫だと。
その言葉を聞いたモケゾウは自分の手を見て、そして手をニギニギして、それから拳をギュッと握って、それから肩をグルグル回して、んでそのままお姫様(仮)をその拳で吹き飛ばした!
周りの人達もびっくりして悲鳴をあげている。
「も、モケゾウ! いきなり吹き飛ばしたの?! 」
『モケ、人間に化けていると話が進まないからそれを解いたモケ〜』
モケゾウがなんてことない、みたいな顔でそう言う。
モケゾウさんってば、そんな脳筋みたいに………え? 私を真似ている? そんな馬鹿な………。
私がモケゾウの心の声に打ちひしがれていると、お姫様(仮)が起き上がって来た。
『な、なにすんのよ! 私は姫よ! それを殴り飛ばすなんて………処刑よ! 処刑! 』
キレてるな〜。
たださ、もう変化が解けているんだよね。
周りもまたもやびっくりしている、隣国の人でも知らなかったようだ。
変化が解けたお姫様(仮)の姿は………化粧の濃いおばちゃん、しかもちっちゃい、大体五十センチくらいだと思う。
空中に浮いてるし、精霊なんだろうな。
『モケ〜、もう変化解けているモケよ〜。………なんで解けている精霊の姿なのに化粧しているモケ? 』
モケゾウの言葉にその精霊はハッとなって、自分の顔やら身体を触って………。
『ぎゃーーーー!! な、なんで変化が解けているのよ?! せっかくこれまで上手くやってきたのに………ふざけんな! もう、こうなったらここにいるやつら全員魅了するわ! 』
『モケ、だから魅了は効かないって言ったモケ〜。お前の契約者の本物のお姫様の魅了も誰にも効かなかったモケよ』
『ふん! 私が使う方が威力があるに決まっているじゃない! ここにいる人間ぐらい全て魅了してやるわよ! そこで伸びているお前達も力を貸しなさい! 』
みんなにやられていた隣国の精霊達にそう声をかけた。
声をかけられた精霊達はノロノロと起き上がる。
少なからず魅了の力が効いているのかな?
そうこうしているうちに起き上がった精霊達が魅了の精霊の元に集まった。
それを見ていたうちのフランとカッパが隣国の人たちの前に浮かんでいる、たぶんハンカチマントで魅了を防ごうとしているんだね。
ここにいるうちの国の人達はみんなお守りを持っているはずだから大丈夫。
『余裕ぶってるのもここまでよ! いくわよ………さあ、私の言葉を受け入れなさい、私の言葉が全てよ! 』
魅了の精霊が術を発動したらしい。
なんだかピンク色の靄が四方八方に拡がっていく。
アレが魅了の力なのかな?
たぶんここにいる全員にかかるぐらい拡がった。
なんだか甘ったるい匂いもするし、正直不快。
うちの国の人達も匂いが気になるのか鼻をハンカチなどで押さえている。
数分すると靄と匂いが消えた。
魅了の精霊は満足そうな顔をして、プカプカ浮いている。
『ふふふ、さあ、私のシモベ達よ私の言うことを聞きなさい! 』
魅了の精霊が大きな声でそう言った。
でも、誰も動かない。
そんな中モケゾウがまたスーッと近付いていった。
『ふん、さっきの失礼なヤツね? さあ私の前で謝罪しなさい、土下座よ! 』
もちろんモケゾウがそんなことをするわけもなく。
モケゾウは手をニギニギしている………あ、殴った。
勢いよく魅了の精霊が吹き飛ぶ。
『い、一度ならず二度までも………なんなのよ! ………って、ちょっと待って、なんであんた魅了にかかっていないのよ?! 』
『モケ? 僕だけじゃないモケよ〜。この場にいる精霊も人もかかってないモケ〜』
モケゾウの言葉に周りのみんながウンウンと頷いている。
その反応に魅了の精霊が目を見開いた。
『う、嘘よ、私の魅了は完璧だったわ』
『お前、上級になったの最近モケね? トナトナにイワシが届かなくなったあたりから悪さしていたモケか? 僕が昔お仕置きしたヤツらを従えていたみたいモケど、もう悪さは出来ないモケよ〜。こんなに人に迷惑かけているモケから一発精霊王様の元行き決定だモケ〜、ついでにお前達もだから逃げようとなんて思わないでほしいモケよ』
それを聞いたモケゾウにお仕置きされたことがある精霊達が逃げようとしたけど、すぐにマサムネとトナトナが取り押さえていた。




