第五十四話 こっちに来たら危ないよ!
「はん! 何が守護者だ。我が国は精霊が多くいる。他の国に比べて恵まれておるのだ! 」
なんか隣国の王様がわめいている。
私はそれを未だ殿下の腕の中で聞いている。
あの〜、そろそろ離してもらえませんかね? あ、無理な感じですか? そうですか………。
私がなんとか抜け出そうともがいている横でモケゾウが話し出した。
『モケ〜、前からトナトナから相談もされてたし、精霊王様からも言われていたモケからそっちの国の精霊たちは解放しまくっているモケよ〜。精霊たちもトナトナがいるからそっちの国に協力していたモケど、今トナトナも解放されたモケからよっぽど精霊が気に入っていない限りはみんな離れるモケ〜』
「な、何を言っておるのだ! そのトナカイがいなくなるだけでなんで我が国から精霊がいなくなるというのだ! いい加減なことを申すな! 」
隣国の王様の言葉に今度はトナトナが。
『トナ〜、自分の国のことなのに僕のこと知らないとか本当にバカだよね〜。僕の名前は「トナールトナフィール」君の国の大神殿に祀られていた聖獣だよ。昔、君の先祖との契約で君の国を精霊たちと護るって約束したけど、ここ百年ぐらい約束守ってくれないから契約の糸が切れそうだったんだ。で、君が僕をいらないって言ってくれたから最後の糸もプツンと切れたトナ〜、ありがとね〜。………もう! 百年もイワシ供えてくれないとかありえないよ! 』
トナトナが足踏みしながらご立腹だ。
あ、ちょっと、トナトナ今大きいから足踏みすると近くにいる人が危ないよ。
「ふ、ふざけるな! そんなトナカイがいなくたって我が国から精霊がいなくなるわけないだろう?! ファイルいいからそいつらをやっつけろ! 」
ファイルと呼ばれた精霊とその仲間たちは迷っているようだ。
だけどこのままではどうせやられると思ったのかよりにもよって私の方へやって来た。
『契約者さえ捕まえれば! 』
まあ、普通だったら契約者を襲えばその精霊も大人しくなるだろうね。
普通なら………。
でも、うちの子たち、たぶん普通じゃないよ?
ベッチャーーーーン!
私に向かって来た隣国の精霊が私に触れる前に見えない壁にぶつかった。
『モケ、お前たちやっぱりダメモケね。僕の主に汚い手で触ろうとするなんて………僕の結界も破れないなら上級なんて名乗らないでほしいモケ。んで、結局僕たちとやり合うことを選んだモケね? 良いモケよ、二百年ぶりにお仕置き決定モケ〜』
なんとなく感じていたけど、やっぱりモケゾウが私に結界を張っていてくれていた。
あれぐらいなら私でもなんとか出来たと思うけど、過保護なモケゾウさんだ………ありがとう。
まあ、でも私に傷一つ無いけどモケゾウとその仲間たちはお怒りモードなわけで。
今、お仕置きが繰り広げられている。
いつものモケゾウの拳シュッシュが、いつもの倍ぐらいの速さで繰り出されている。
アレは完全にオーバーキルだ。
隣国の精霊もみんな上級だって言っていたけど、モケゾウの前では何も出来ないでいる。
モケゾウだけではない、みんなも大暴れしている。
フランはどこから持ってきたのかロープでグルグル巻きにしているけど精霊もロープで巻けるんだね。
カッパは水魔法が得意みたいで隣国の精霊とその契約者を水の球の中にポイポイしているけど、死なない程度にしておいてね。
マサムネはいつもの可愛い剣を振り回している、あ、今日は二刀流なのね。
そんな感じで隣国の上級精霊たちは、モケゾウたちの前で何も出来ずにやられて積み重ねられていく。
結構な数だけど、精霊があんな隣国に従っているのが不思議でしょうがない。
『モケ〜、本当のバカもいるけど他の精霊は無理矢理従わされているモケ〜。魅了の力持ちの精霊がいるモケ。んで、その精霊の力であのおバカな姫さまも魅了の力使ってたみたいモケ〜』
「それで、その魅了持ちの精霊は今どこにいるの? 」
『モケ〜、たぶん捕まっているモケ〜。あのおバカな姫さまがこの国でも魅了使ってたモケから連れて来てはいるはずモケ』
ふむ、じゃあその子を早く見つけないとだね。
そんな話をモケゾウとしていたら、自らの身が危険と感じたらしい隣国の王様が一人この場から脱出しようとしていた。
しかしそんなことを許すわけないんだよ。
すぐにトナトナが王様の近くに音もなく近付き………踏んだ。
「な、何をする! 我は王だぞ! 」
『アハハハハ! 僕は聖獣だよ〜。なに勝手に逃げようとしているの〜。も〜、こんなに迷惑かけて信じられないトナ〜。君の先祖は良い子だったんだけどね〜、時代の流れって残酷だよ〜。イワシをお供えすることを忘れるなんてありえないよ! 』
なんだかんだでイワシをお供えしてくれなくなったことが一番頭にきているよね? トナトナ。
そんなトナトナは隣国の王様の背中を絶妙な力加減でフミフミ、グリグリしている。
アレはきっと背中のマントがトナトナの足跡でコーティングされていることだろう。
聖獣の足跡………ある意味国宝級か?




