第五十三話 トナトナそれは悪口だよ!
あれ? どうやら皆様何かお話し中だった模様。
どうしましょう? 思いっきり邪魔してしまったようだ。
みんな固まっているからこの隙にここから撤収するか………。
「「「「「フローラ嬢!!!」」」」」
ビクッ!
めっちゃ名前呼ばれた。
怒られる………。
ここはアレだ………秘技『カワイイ子リスの涙目』しか乗り切れない!
「は、はい」
私は出来るだけ小さくか細い声で返事をした。
そして大きく目を見開き、瞬きをしない! そうすることによって涙目が出来る………はず。
『主………ナニ遊んでるモケ? 瞬きしないゲームモケ? 』
ちょ、ちょっとモケゾウさん! 空気読んで!
何故か他の子たちも私が瞬きしないゲームしていると思ったようで自分たちもヤル〜と乗り気だ。
しかし、お話し中だった皆様はどうやら妙な勘違いをしたようで………。
「おお、フローラ嬢を心配して精霊殿たちが集っているではないか?! 」
「あんなに目に涙を浮かべて………さぞお辛かっただろうに」
「さっき天井が壊れたはずなのにもう修復している、精霊殿のお力か! 」
ご、誤魔化せてる?
私がホッと一息ついた時に私は急に抱きしめられた。
「フローラ嬢! フローラ嬢! フローラ………ああ、本物のフローラ嬢だ。大丈夫ですか? 怪我などしていませんか?よく顔を見せて下さい………うう、カワイイ………はあ、フローラ嬢」
殿下に思いっきり抱きしめられております。
まだまだ子供とはいえ、男性に抱きしめられる経験など前世から見ても………ないな。
しかも何気に殿下ったら美形、よく考えてみると恥ずかしい話では?
そう思った私はなんとかこの手の中から抜け出そうとモゾモゾしてみた。
しかし殿下の抱擁は思っていた以上に強烈で抜け出せない。
『こ、これは! 主様に恋愛イベントが来たであります! 』
『カパ? 』
『恋愛? 飼い主に飛び付く犬ではないか? 』
『モケ〜鈍感の呪い解けたモケ〜? 』
『ドキドキ、ワクワク、どうなるトナ〜? 』
みんな私にだけ聞こえるように言いたい放題。
ほ〜〜〜ん? イイんだ? そういう態度でイイんだ?
という気持ちを込めてみんなを見ると、勢い良く目を逸らした。
何故か全員吹けていない口笛付き。
「これは………ふん、どうやら行方不明だった者たちは帰って来たようだな。では、もう用は無いであろう。姫を連れて来てもらおうか、我らは帰る」
「何を寝惚けた事を申しておるのだザンガス王よ。責任も取らずに、しかも精霊までけしかけてきて帰るだと? 謝罪も責任も取らずに済ますなどそれでも国のトップか?! 」
「怪我もなさそうではないか、たかだか子爵家令嬢と騎士数名だろう? 邪魔になるだろうから姫も連れ帰ると言っておるではないか! ………ふん、そうか、やはりこのままただで帰るわけにはいかんか。ファイル! それから上級精霊達よ! 我らに立ちふさがる者たちを叩き潰せ! 」
え〜〜〜?
なになにどういう状況?
さっきの言い方だとこの人がアノ王女様の父である隣国の王様ということか。
んで、なんかわかんないけど精霊たちをこちらに向けてきていると。
でもさ………申し訳ないけどそれって無理だよ。
だって………。
『モケ〜、お前たちまだバカやってるモケ〜? 確か、二百年ぐらい前に一回ど突いたモケよね? それからあの王女の魅了モケど、アレもお前たちの仲間モケね? 』
モケゾウが拳を握りしめてシュッシュとやっている。
その時ようやくモケゾウに気付いたのか隣国の精霊たちがピシッと固まった。
ついでにフラン、カッパ、マサムネにも気付いたのか震え始めている。
その様子に気付いた隣国の王様が精霊たちを怒鳴っている。
「おい、お前たち! なんであんな小さい精霊に怯えているのだ?! 同じ上級なのだろう? 数では負けておらん、ほれ早くしろ! 」
ふむ、なんでこんな人が精霊の主やっているんだろう?
モケゾウの言い方だと素行不良の精霊のようだけど、それでも契約者ぐらいもう少しまともな人を選んだ方が良いと思うよ。
『トナ〜、多少魅了の力は働いているみたいだけど、あのおバカな契約者は元からあんな感じだと思うよ〜。だいたい力の差がわからないなんておバカの証拠だトナ〜。バ〜カ、バ〜カ』
トナトナ最後ただの悪口だよ。
「っく、なんなんだ我を馬鹿にしよって! まずはそのトナカイからだ! やれファイル! 」
『トナ〜? 僕のことはいらないの〜? 』
「我のことを馬鹿にする奴などいるか! 」
隣国の王様の言葉を聞いたトナトナが嬉しそうに飛び跳ねている。
『いえ〜い! これで僕も自由の身だトナ〜。ようやく細く繋がっていた守護者の誓いが切れたトナ〜。バカがバカで良かったよぉ〜』
アレ?
もしかしてトナトナが守護者してたのって隣国でしたか?
ちゃっかりこのタイミングで王様からいらないって言わせた?
トナトナってば腹黒さんでしたか。




