閑話 その頃の王城
あまりにも一瞬の出来事だった。
隣国の馬鹿が騎士に向けて何かを投げつけ、それが魔法陣になり騎士を呑み込む。
そして………
その場にいた者全てが目の前で起きたことが信じられなかった。
何故、あの可愛らしい高位貴族の希望の星であるベルンハルト家のフローラ嬢が魔法陣に吸い込まれ、しかもその魔法陣が跡形も無く消え去ってしまったのか。
「え? 今のフローラちゃん? え?え!えーーーーーーー!? なんで? ! どうしてフローラちゃんが!! 」
魔法陣の近くにいた王弟エイドリアンが叫ぶ。
そして王族の席から黒い物が凄いスピードで魔法陣の跡地にやって来た。
「フローラ嬢! なんで………おい! お前! 早くさっきの魔法陣を展開しろ! フローラ嬢のところへ! 早く! 」
リース殿下が隣国のマリーナ姫に詰め寄る。
「お前ですって?! これだから野蛮な獣人は嫌ですわ。残念ですけどさっきの魔法陣はもう無理よ。アレはランダムで開く仕組み、死の森や魔境、ダンジョン奥地、どこに飛ぶかは入ってみないとわからないもの。それより、もう疲れたわ。私は休ませてもらいますからエスコートしてちょうだい。しょうがないからその姿でも許すわ。ほら、早く、エイドリアン様」
空気を全く読まないそのセリフは隣国の者を除く会場中の人々を全員敵に回した。
まず動いたのは陛下。
「ああ、そんなに疲れたのなら運んでやろう。さあ、隣国の姫を丁重に貴族牢に入れて差し上げろ! もちろんお付きの者達も一緒にな」
「は?! 何を言っているの?や、やだ、 ちょ、ちょっと、汚い手で触らないでちょうだい! もう! こんな下っ端に力は使いたくないけどしょうがないわね…………ほら、私に近づく者を排除しなさい」
マリーナ姫が自分の目の前に来た騎士にそう呼びかけた。
「………何を言っているのかわかりませんな。やはり陛下の言う通り隣国の姫様はお疲れの様だ。丁重に手足を固定して貴族牢に運んで差し上げましょう」
マリーナ姫を取り囲んだ騎士達はマリーナ姫を肩に担ぎ上げ、隣国の者達と一緒にその場から連れ出した。
「エイドリアン! それから宰相! あの馬鹿から少しでも情報を聞き出せ! 多少手荒くしても構わん。それからこれも持っていけ。 あと、エイドリアン、フローラ嬢は魔法陣に飛び込む前にお前に何か言ってなかったか? 」
陛下が何かを宰相に預けた。
そして問いかけられたエイドリアンは
「はい、フローラちゃんは飛び込む前に魔法陣が危険だから消滅させることと、モケゾウ君達がついているから大丈夫、騎士達を助けると言っていました」
「そうか………あの一瞬でそこまで考えて動いてくれたのか」
何かを受け取った宰相と王弟エイドリアンはマリーナ姫を運ぶ騎士達を追いかけその場を離れた。
「あ、ああ! フローラちゃんに何かあったらどうしたら良いの?! 」
王妃が両手で顔を覆い涙をこぼす。
会場に残る高位貴族の夫人達も皆表情は沈んでいる。
そんな中、二人の人物が陛下の元へやって来た。
「陛下! 誠に申し訳ございません! 我が騎士団が遅れをとった為に、国の大事な宝が………」
陛下の前で項垂れる人物、騎士団団長………フローラちゃんと握手の会でありがたや〜と拝んでいたお人である。
「陛下、すぐに隣国に交渉いたします! あやつのせいで我が心のオアシスが………」
もう一人、外務大臣を務める………フローラちゃんと握手の会で、会った早々プロポーズし、リース殿下とエイドリアン王弟にやられ、犯罪者のように騎士に連れて行かれていた人である。
「うむ、誰も止めることが出来なかった………ここで騎士団長を責めてもフローラ嬢は戻って来ない。それよりも騎士団を挙げてフローラ嬢と消えた騎士達の捜索を進めよ! 外務大臣はすぐに隣国に連絡を。返答次第では戦になりうるぞ」
陛下の言葉にすぐに二人は動き始めた。
「皆の者! 我らの希望の星が奪われた! 今の段階でどこへ飛ばされたのかは不明だ。今こそ我らが一致団結する時………少しでも情報を集めてくれ! 」
「「「「「おおおおおおーーーーーーーーーー!!!」」」」」
陛下の言葉に会場が一つになった。
すぐさま会場にいた高位貴族が皆動き始めた。
それぞれが自分たちに出来ることをする! を合言葉に会場を飛び出す。
ここに高位貴族の心は一つにまとまった。
我らがフローラ嬢を無事取り戻すと。
今はそのことだけを皆が考えている。
はたして、フローラ嬢が無事戻って来た時、隣国の姫はどうなるのか?




