閑話 舞台裏
今日は楽しみでもあり、気が重い行事という面もある大事な日だ。
我が国の貴族は獣人のみ、どうしても獣人の方が魔術、体格の面においてもただの人よりも上ということがあるため、年代を重ねるごとに固定されてきた。
ごく稀に人の中にも光るモノがある人材も出るが、それが代を重ねても続くかというとそうとも限らない。
そして、その貴族の中でも高位貴族と下位貴族の間には、乗り越えることが出来ない高く険しい壁がそびえ立っている。
そもそも高位貴族は貴族の中でも力が圧倒的なモノが継いできた。
そう、圧倒的な力だ!
とういうことはだ、下位貴族のネズミ、ネコ、犬、その他アライグマやウサギ、リスなどの特に弱い獣人は本能的に上位貴族を恐れてしまうのだ!
いくらいきなり襲われることがないとわかっていても、本能はどうしようもない。
だが、大人になればそれもだいぶ落ち着く。
ここで声を大にして言いたいことは一つ!
私たち王族、高位貴族は皆下位貴族の者達を愛しているのだ!
あんな可愛い者達を傷つけるなどあり得ない、だが、下位貴族の皆が私たちを恐れる気持ちもわかる。
だから一年に一回六歳になった下位貴族の子供達を呼んで私が姿を見せて、子供達に高位貴族とはこういう者だと教えるのだ。
これは決してイジメではない、基本下位貴族の子供は六歳まで外には出ない。
初めての貴族の集まりで私と接することで高位貴族への恐れを覚えてもらうのだ。
そうしないとうっかり子供の高位貴族と会って泣き叫ぶことになり、お互いに深いトラウマを持つことになってしまうから。
だから私はこの国の王として、心を鬼にして、そして心で号泣しながらこの役目をつとめている。
この集まりの際には城の庭に会場を作る。
庭の真ん中には魔術で大きな壁を用意する、これは下位貴族側からは特に変わったことは無いように見えるが、その反対側には高位貴族が陣取っている。
何のためかといえば、もちろん普段近づけない下位貴族を合法的に見るためだ。
こうでもしないとあの可愛らしい者達を愛でることが出来ない。
だから高位貴族側からしか見えないような魔術を使用している。
さて、今回も気が重いが下位貴族の子供達に顔を見せてくるか………。
これは何回やっても私が泣きたくなる………というか心の中で大号泣だからな。
一度宰相に代われと言ったが
「ははは、無理です」
なんてけんもほろろに断られた。
アイツも一回泣かれればいいのだ。
さあ、少しでも早く挨拶をして皆のダメージを出来るだけ少なくしなくては。
嫌なことはとっとと終わらせて、高位貴族の席で下位貴族の可愛らしさを堪能しよう。
なんて考えながら下位貴族の席へと向かった。
…………………………はっ!!
え?あの子私を見ても叫ばないし、泣きもしない。
しかも周りの様子に驚いているだけのようで周囲をキョロキョロ見渡している。
大人達でさえ多少は震えたりしているのに………
自分でもどんな挨拶をしたかわからないほど動揺していたが、なんとか挨拶だけは済まして最後まであのリスの獣人の子を見つめていた。
私が放心状態で高位貴族の席に向かうとそちらはそちらで混乱のるつぼだった。
「あ、あ、あの子はどこの子だ?!」
「リスだろう? だとすれば確かベルンハルト子爵のはず…………」
「陛下を前にしても泣かない、叫ばない、丸まらない………おいおい勇者か何かか?!」
「勇者? 違うでしょう! あの子は天使ですよ! 天から舞い降りたのよ! 」
あ、見事に興奮中だった。
だがそれも仕方がないことだ。
それぐらいあの子は奇跡を見せてくれた。
そんな中、宰相のリュークがこちらへやって来た。
「陛下、先程のことの確認のためにベルンハルト子爵と御令嬢をお呼びします。ただ、もしかしたら先程のことは幻かもしれないので泣き叫ばれたら速攻で撤退して下さい。絶対ですよ」
あ、目が笑ってない。
リュークも多分多少混乱しているな。
いや、もうここにいる高位貴族全員がもれなく混乱中だ。
私は先程の会場と同じように魔術で高位貴族が見えないように、そしてあちら側からはこちらが見えるようにするように指示を出した。
呼び出したベルンハルト子爵とフローラ嬢がやって来た。
ベルンハルト子爵はやはり少し震えているが、フローラ嬢は普通に挨拶してくれた。
………普通に挨拶してくれた!!
し、しかも頭を撫でさせてくれた………。
な、なんていうことだ………こんな奇跡が!
今まで下位貴族の子供達を泣かせ、自分も心で大号泣だった私が、感動で泣きそうだ………。
だから、私の子供にも会わせてやりたいと思ったんだ。
それがあんなことになるなんて………。




