第四十三話 記念すべき握手会一番手だよ!
目をゴシゴシして何度見直しても、目の前の高位貴族の方々の人数は変わらず。
一体何人いるのか………ちょっとわからない。
「フローラちゃん、大丈夫? やっぱりビックリしちゃったわよね? 」
王妃様が気遣うように語りかけてくれた。
「は、はい、ちょっとビックリしてしまいました。こんなに集まっていらっしゃるとは想像していなくて………あの、きょ、今日中に終わりますかね? 」
恐る恐る、気になっていることを聞いてみた。
だってこんなの、一日で終わらないよ?
「ええ、大丈夫よ。そこはちゃんとこちらで時間配分考えてあるから。でも、そろそろ始めないと暴動が起きそうね。さっそくだけどフローラちゃんこっちに来てくれる? 」
そう言われ、私は王妃様の後を追って集まっている人の方へと近づいていった。
そこでは宰相様が、先頭に並んでいる方々へ握手会の説明をしているところだった。
「…………であるから、指示には絶対に従うように。また、ベルンハルト嬢の嫌がることや、困らせるようなことを行った場合は即刻この場から退去願う。それから、知っているものもいると思うがベルンハルト嬢は精霊との契約者だ、これの意味するところは言わなくてもわかるだろうが………一応言っておく、精霊は契約者の嫌がることをされたら全力で抵抗する。ベルンハルト嬢の精霊はかなり力の強い精霊だ、痛い目にあいたくなかったらおかしい行動は慎むように」
皆さん大人しく真剣に聞いている。
いや、そんないきなり精霊を仕向けることなんてしませんよ?
もしなんかあっても自分でヤリますし。
『モケ〜、主、主はヤッちゃ駄目だと思うモケよ〜』
アレ? モケゾウさんから止められてしまったぞ?
私だって見た目は子リスだけど、やれば出来るんだからね。
『モケ、出来ることはわかっているモケよ。モケど、ここでそんな力を見せない方が良いモケ。だからなんかあった時は僕たちにお任せモケ〜。会場の警備に付いている他の契約精霊にも話はつけてるモケ』
い、いつの間にそんな話し合いを?!
さすが出来るモケゾウは違う。
『モケ〜、褒められたモケ〜』
姿は見えないけど、なんとなく体をクネクネさせながら喜んでいるモケゾウの姿が目に浮かぶ。
「それでは今から握手会を開催する!」
「「「「「ウォーーーーーーーーー!!」」」」」
宣言の言葉に会場中から咆哮が響いた。
さすが高位貴族、強い獣人ばかりだから凄い迫力だ。
………これでは普通の下位貴族の獣人ではビビってしまう。
私? 私はもちろんなんともない。
このぐらいでビビっていたら英雄なんて出来やしない、逆にこれを黙らせるくらいのことが出来なきゃ。
今この体でどこまで威圧出来るか………
『モケ〜、主、ストップモケ〜。会場の熱気に主まで引きづられているモケよ〜』
モケゾウに止められて、自分が冷静じゃなかったことに気がついた。
やっぱりこの体の年齢にあった考え方になっているのか。
「さあ、フローラちゃん、大変なことを任せてしまって本当に申し訳ないけど、頑張ってちょうだいね。近くに私やリース、エイドリアンにミランダも付いているから何かあったらすぐに止めに入るわ。早速、一番手が来たわね。今回の握手会は爵位は関係なく並んだ順なのよ。そこで一番手を取ったのが………」
「はい、我がアンガス辺境伯家です! お久しぶりです、フローラ様! 今日も変わらず可愛らしい………さあ、その可愛らしい顔をよく見せて下さいまし! 」
あ、あのドキドキのお茶会でお友達になったアンガス辺境伯のビビ様だ。
相変わらず自分の欲望に正直らしい。
そんなビビ様の頭を後ろから片手で押さえつけた人がいる。
「我が妹がいきなり申し訳ありません。アンガス辺境伯家の長子ライガでございます。王家の皆様、そしてお初にお目にかかりますベルンハルト様、本日はよろしくお願い申し上げます」
めっちゃ、ちゃんとしたお兄ちゃん来たーーーー!
「お兄様! 痛いです! 手、とって下さい! 」
ビビ様が暴れているが、お兄さん笑顔のままサラッと無視している。
「妹は興奮すると面倒なのでこのままの状態で失礼します。………しかし、このような妹の状態を見ても全く動じないとは、ベルンハルト様は噂通り高位貴族に対しても普通でおられるのですね。………で、あれば、わ、私でも握手をしていただけるのでしょうか? 」
今まで笑顔だったお兄さんが急に不安そうな顔で聞いてきた。
ビビ様のお兄さんは熊の獣人のためかかなりの大柄だ。
でも、そんな大柄のお兄さんにちょこんとついたクマ耳は非常にプリティーである。
可愛いものが大好きな私としては、それはそれは惹かれるものが。
「はい、もちろん大丈夫ですよ」
私の言葉にお兄さんが恐る恐る、ビビ様をおさえている手とは逆の手を差し出してきた。
その手は少し震えている。
私はその大きな手を両手でギュッと握った。
それからお兄さんの方を見たら…………両目から涙がドバーーーっと出ている。
「あ、あじがどうございまず!! 」
お兄さんが号泣している間にビビ様がお兄さんの手から抜け出してきた。
そしてナチュラルに私の手を握り、ちょっと抱きしめてお兄さんを回収してサラッと去りそうだったのを引き止めお守りを家族分渡した。
あまりの手際の良さに横で殿下が「っく、抱きしめるのを阻止出来なかった! 」と悔やんでいる。
…………え? 一組目から濃いんですけど?




