第四十二話 殿下が暴走しているよ!
殿下とミランダちゃんに連れられ、中庭にやって参りました。
居たのは王妃様とエリー様。
よく見てみると何時ぞやかのように結界のようなものが張られている。
たぶんこの壁の向こうに今日の握手会にやって来た人達が居る模様。
「フローラちゃんいらっしゃい」
王妃様が笑顔で迎えてくれた。
「フローラちゃん、私の為に本当にありがとう!隣国とのゴタゴタが終わったら是非お礼をさせてちょうだいね! 」
エリー様がとっても眩しい笑顔でそう言ってくれた。
「王妃様、エリー様、おはようございます。エリー様お気になさらないで下さい、私がやると決めて行った事ですから。今日はよろしくお願いします。あ、エリー様、エリー様専用の魅了無効の物を用意したのでこちらをどうぞ」
私はエリー様専用に準備しておいた物を取り出した。
「まあ、ありがとうフローラちゃん! これは………あら、カワイイ! リボンね! 」
そう、エリー様に用意したのは白色のリボン。
これには一工夫してまして。
「このリボンは魅了無効を付与しているのですが、もしも魅了を受けた場合ピンク色に染まるようにしてあるのです。なので、魅了を受けていることが周りにも分かるかと思うので、歓迎会の時にはどこか見えるところにつけていただくと良いかもしれません」
「凄いもの作ってくれたのね、フローラちゃん! 本当に嬉しいわ!ありがとう! 」
喜んでくれて何より。
私がホッとしていると、何やら隣から不穏な空気が流れて来たような………。
一応確認の為に隣を見てみると…………おぅ! 殿下が物凄い形相でエリー様を睨んでいた。
なんか黒いオーラが見えるような気がするよ〜。
なんでこんなにヤバいオーラを撒き散らしているの?
なんか嫌な事でもされた?
私はこの場の空気に居た堪れず、空気を変えようと不敬かもと思いながらも殿下の袖口をツンツンと引っ張ってみた。
それに気付いた殿下が先ほどとは打って変わっていつもの笑顔を向けて。
「うん、どうかしましたかフローラ嬢? もしかしてここまで来るのに疲れてしまったのかな? そうだ、フローラ嬢は我々と違い繊細………気が付かなくてすまなかった! さあ、足が疲れてしまっただろう? ここからは私が抱き上げていこう! 」
そう言うとあっという間にお姫様抱っこスタイルに。
いや、そんな軟弱な身体してませんから!
むしろ野性味が強いので………。
「殿下! 疲れていませんから! 大丈夫なので下ろして下さい」
私が慌ててそう伝えても殿下は笑顔で
「心配しなくても落としませんよ。これでも鍛えているので………それにフローラ嬢は羽根のように軽い、安心して抱き抱えられていて下さい」
そういう心配はしてませんよ!
むしろ恥ずかしい!
お姫様抱っこなんて乙女の夢ではないですか?!
だけどこの場でされてはただただ恥ずかしいだけです………抜け出すか。
なんて考えていたら
『スパーーーン!!』
「いったーーー!」
なんと王妃様が手に持っていた扇で殿下の頭を叩いたのだ。
その隙に私は殿下の腕を抜け出した。
「リース………あなたね〜、いくらフローラちゃんがカワイイからって暴走し過ぎよ。このままだとフローラちゃんに………嫌われるわね」
王妃様の言葉に殿下が『ガーーーン!!』とショックを受けている模様。
いや、別にそんなことで嫌いになったりしませんが。
「さあさあ、握手会の参加者が今や遅しとフローラちゃんの登場を待っているわ。フローラちゃんは気付いているようだけどこの結界の奥にみんな集まっているから………あのね、ビックリしないでね? 」
ビックリとな?
ああ、アレか、せっかく握手会なんて王城で開いたのに人が集まらなかったパターンね。
うむ、確かになんか小っ恥ずかしいけどしょうがないよ、だってたかが下位貴族の女の子と握手する会だよ?いくら王家が関わっているからって舐めてんのか?って話だもん。
まあ、お守りは王家の方達から配って貰えばみんな大事にするでしょう。
というか、冷静に考えれば私と握手会する必要なくない?
王妃様先導のもとで私は結界へと近付いた。
私の隣にはミランダちゃんが付いてくれている。
殿下も遅れまいと私の後ろに付いてきた。
結界はエリー様が作ったものらしくエリー様が手をかざすとその隠されていた向こう側が見えてきた。
「へ? 」
私の気の抜けた声が響いた。
いや、だって、待って、ナニコレ?
ちょっと私の頭が事態を飲み込めていない。
こういう時はアレだ。
「ちょっとモケゾウ、私のほっぺつねってちょうだい」
隠れていたモケゾウが私の目の前に現れた。
『モケ〜? 主のほっぺつねるモケか〜? モケ〜、主を傷つけるのはイヤモケ〜。主〜、そんなことしなくても目の前の出来事は本物モケよ〜。現実を受け止めるモケよ〜』
そう言ってモケゾウは私のほっぺをツンツンした。
そうか………現実か。
って! いやいやいやいや!だって、
私の目の前には中庭を埋め尽くす高位貴族の皆様が勢揃いだ。
みんなこっちを期待の篭った目で見てくる。
え、私これからこの人数相手に握手すんの?
終わる? これ今日中に終わる?




