第四十一話 握手会………がんばるよ
「と、言うわけでフローラちゃんに会って、握手してお守り貰おうの会を急遽開くことになりました」
母上の言葉に俺たちは………いや、ミランダ以外はびっくりした表情を浮かべている。
夕食後、父上、母上、俺とユアン、ミランダ、そして珍しく叔父上が集まってくつろいでいるところに、母上が爆弾を投下した。
「………何が『と、言うわけで』なんですか! そんな不特定多数にフローラ嬢を会わせて、しかも握手だなんて………絶対にフローラ嬢に良からぬことを考える輩が来るに決まってます! あんなに可愛いフローラ嬢に変な虫がわんさか湧いたらどうしてくれるんですか?! それに、フローラ嬢の手作りのお守りだなんて………そんなの絶対に好きになるに決まっているじゃないですか?! 握手ですよ! 手渡しで手作りプレゼントですよ! 勝手に誤解してフローラ嬢に付きまとうに決まってます! 」
俺のあまりの剣幕にユアンが隣で震えているのがわかったが、俺にはこの怒りを抑えることが出来ない。
大事なフローラ嬢に何かあったらどうするんだ!
だいたいなんでフローラ嬢の手作りのものをばら撒かなきゃいけないんだ!
そんなの絶対に許せない………。
「落ち着きなさい、リース。よく聞いてちょうだい。フローラちゃんはね、お守りに魅了無効の効果をつけてくれるの。これがどれだけ凄いことかは分かると思うけど、それをなんと今度の隣国の歓迎会の参加者全員分用意してくれるのよ! でも、お守りだけ渡してもちゃんとその日に持ってくるかわからないでしょう? だから直接フローラちゃんから受け取ったものなら確実だと思って今回のことを考えたのよ。ちなみにどうして魅了無効が必要かはあなた達も噂で知っているわよね? 」
魅了無効って、どれだけ魔力込めればそんなにたくさん作れるんだ?
というか、無効ってそんなに簡単じゃないよな。
「そしてエイドリアン、あなたフローラちゃんがこれだけしてくれるんだから、もちろん隣国の歓迎会には絶対参加よ? とっとと隣国の方々には帰っていただけるようにしっかり直接お断りしなさい………まあ、もし魅了なしで気に入ったのであればそれはそれで良いのだけど」
「………義姉上、わかりましたよ、参加します。もちろんいつもの格好で。それにもちろんフローラちゃんのお守りは私もいただけるのですよね? 」
「ええ、もちろん。フローラちゃんがエイドリアンの物は皆に渡すお守りとは別に用意すると約束してくれました」
その言葉を聞いて叔父上が明らかに機嫌が良くなっている。
俺だってフローラ嬢の特別が欲しい、この前もらったハンカチはあるがいくらでも欲しいものは欲しいのだ。
ーーー数日後
はい、やってまいりましたこの日が。
何故か私との握手会、それで一体何人集まるというのか………。
誰も来なかったらなんかわからないけど恥ずかしい気持ちになりそう。
だからと言って、たくさん来て欲しいかと問われれば微妙な………そう、微妙な乙女心なのだ。
『モケ〜、主難しい顔して大丈夫モケか〜? そういう時は魔力を込めた拳をシュシュっとすると気持ちが晴れるモケよ〜』
「ありがとうモケゾウ。でも、拳シュッシュっとは今はいいかな」
『モケ〜、そうモケか〜。もしやる時は一緒にやるモケ〜』
ひとまずモケゾウをひと撫でして気持ちを落ち着かせる。
うむ、今日もモケゾウはカワイイ。
握手会は警備の都合上、王城の中庭で行われることになった。
王妃様が言うには各貴族家から代表者二名まで、ただお守りは代表者に家族分渡すということで話がついているらしい。
そして私は今、迎えに来てくれた馬車で王城へと向かっていた。
とりあえず父と母にはいろいろ心労をかけてしまったが、流石に今日の握手会への付き添いは二人の心の安定の為にも家にいてもらうことにした。
父と母にはモケゾウ達から、絶対に危険な目には合わせないと力強く説明が入っている。
「お待たせ致しました、ベルンハルト様。王城に到着致しました」
そう言って馬車の扉が開けば、ちょっと離れた所からミランダちゃんが笑顔でこちらに駆けて来るのが見えた。
馬車から下りて迎えようとしたところ、ミランダちゃんの後方から土煙が上がった。
何事? と思って見ていたらミランダちゃんを勢いよく追い越して、恐ろしい速さで駆けてくる人影が。
「フローラ嬢! ようこそ王城へ! さあ、私がエスコートしますのでお手をどうぞ」
物凄い速さで近づいて来てたのは殿下だった。
あんなに凄い速さで走って来たのに、全然息が乱れていない。
「あ、ありがとうございます」
私はそう言うのがやっとで、殿下の手をとり馬車を下りた。
そこへミランダちゃんが走って近付いて来た。
「フローラちゃん! もう! なんでお兄様が最初にフローラちゃんに会ってるの!」
ミランダちゃんがプンプンしながら殿下に詰め寄っている。
「何でって、もちろん私がフローラ嬢の婚約者だからだろう? 可愛い、大事な婚約者を一番に迎えるのは婚約者として大事なことだ。さあ、フローラ嬢中庭に案内するよ」
そう言うと殿下は私の手を握って歩き出した。
「もう! ズルいわお兄様ったら! 私もフローラちゃんを案内するんだから! 」
私の右手は殿下が、左手はミランダちゃんが握り私は中庭へと案内された。
道中、お城にお勤めの皆さんがものすごく生温かい視線を送ってきたのが地味にこたえた。




