第三十八話 訪問理由を聞いたよ!
「フローラちゃん、リースのことを考えてくれてありがとう。でも、婚約のことは本当に大丈夫だから心配しないでちょうだいね。………いえ、むしろ絶対にリースには婚約解消なんて言わないであげて。あの子、どうなることやら………」
そう言うと王妃様は妙に疲れた表情で遠くを見つめた。
何だろう、この、これ以上婚約については言葉を発してはいけない雰囲気。
………まあ、ひとまず急いで婚約の解消について考えなくても良いらしいから、私はマイペースにやらせてもらおう。
久しぶりにお友達の双子ちゃんにも会いたいし、図書館にも行きたいな。
それからもちろんモケゾウ達とも遊びたい! どうやらモケゾウは運動不足のようだからどこかに出かけて発散させないとね。
「フローラちゃんの耳にも隣国の話が入っているのなら、フローラちゃんにはお話ししておこうかしら」
王妃様がそんなことを呟くと。近くにいた王妃様の侍女の方が
「口を挟んでしまい大変申し訳ございませんが王妃様、まだ幼いフローラ様にあのようなお話をするのはよろしくないのではないでしょうか? 」
侍女の方もたぶん上位貴族の出身だろう。
意地悪とかではなく、本当に私に伝えるのが申し訳ないような表情をしている。
「まあ、普通の六歳の女の子に言う内容ではないのだけど、フローラちゃんなら大丈夫だと思うのよね。ねえ、フローラちゃん………隣国の王族の方がこの国に来る理由に興味はあるかしら? 」
ある………だって、今日の目的もある意味それだし。
ただ、本当だったら、たかだか子爵令嬢に教える内容ではないのだろう………例え、名ばかりの殿下の婚約者だったとしても。
でも、気になるものは気になる。
別に良いんだ! 今の私はただの子リス令嬢だ!気になることは聞いとこう!
「はい………気になります。私にお話ししても大丈夫なことでしたらお聞かせていただいても良いですか? 」
「ええ、もちろん。ぜひ聞いてちょうだい。それから別にこの子………私の侍女もフローラちゃんに意地悪して聞かせたくないわけじゃないからね。むしろこの子も含め、ここにいる者達はフローラちゃんのファンだから。ちょっと過保護になっているだけなの、誤解しないでね」
そう言うと王妃様が私にウインクしてくれた。
ファンって………でも、周りの人たちがみんな深く頷いている。
私がちょっとはにかんで軽く頭を下げると、皆さんパー〜〜っと笑顔になってくれた。
『モケ、さすが主、微笑み一つで仕留めたモケ〜』
仕留めてはないよ、モケゾウ。
「それじゃあ、どこからお話ししようかしら………。とりあえず、サクッとまとめると、隣国の王女様がうちの王弟に一目惚れしてやって来る感じかしら? 」
おおぅ、随分サクッとまとめましたね、王妃様。
「あの、王弟と言いますと、もしかしなくてもエリー様ですか? 」
「そうね、もしかしなくても」
確かにエリー様は美形だと思うけど、だけど、エリー様は、見た目綺麗なお姉さんだ。
「隣国の王女様は女性がお好きなんですか? 」
私のこの質問に周りの侍女さんたちが悲鳴をあげている。
何やら「やっぱり、フローラ様にはこの話題は悪影響! 」とか。
「もう、あなた達落ち着きなさい。あのね、王女様が一目惚れしたのは昔のエイドリアンの絵よ。女性の格好をする前のね。何故か今さらそんな絵を目にする機会があったみたいで、どうしても会いたいって言ってきかなかったらしいのよ。うちとしては来ても良いけど、アレは昔の姿だから今は違うって伝えていたんだけどね」
綺麗なお姉さんになる前のエリー様か〜。
きっと、綺麗なお兄さんだったんだろうな〜。
でも、今の姿を見たらどうなっちゃうんだろう?
どう見ても女性なんだけど。
「隣国の王女様はとても美しいと評判の方で、まさか自分が振られるとは夢にも思っていないようなのよ。でも、エイドリアンはあまりにも女性に纏わり付かれるのが面倒になってあの姿をしているから、正直王女様の願いが叶うことはないと思うのよね」
なんとも面倒なことになりそうな予感。
でも、ターゲットがエリー様なら私には関係ないよね。
「しかもエイドリアンったら、『私が今興味があるのはフローラちゃんだけよ!』って陛下に言ったものだから陛下も頭抱えちゃってね」
と王妃様が笑いながら言ってますが、正直笑い話ではないですよ?
何故こちらに飛び火………。
「あの………流石に王女様にそんなこと言えないですよね? 」
むしろ言わないでおくれ、しがない子爵家を巻き込むな。
「まあ………よっぽどのことがない限りはそんなこと言わないわよ………たぶん。それに何があってもフローラちゃんには迷惑かけないから安心してちょうだい! 」
………なんだろう、不安しかないのだが?
「隣国は精霊様との関係が深いらしいの。それこそ上級精霊の契約者のフローラちゃんには何も出来ないわよ。精霊様を怒らせたら大変なことは知っているでしょうし」
モケゾウさん、なんでそんなにやる気に満ち溢れた拳シュッシュをしているのですか?
他のみんなも………。
私はとりあえず妙なヤル気を出している子達を回収してみた。




