第三十五話 演技頑張るよ!
………で、この後はどうすればいいの?
今、残った私たちはひとまず席に着きお茶を飲んでいる。
そうでもしないとまた泣いたり、吼えたりと大変なことになるからだ。
「あの………それで、ベルンハルト様いつ抱きしめても良いですか? 」
相変わらず空気を読まずにアンガス辺境伯令嬢がぶち込んでくる。
こら、令嬢なんだからそのように手をニギニギするのはやめなさい!
その隣のナターシャ様は令嬢に有るまじき特大のため息ついちゃってるじゃん。
そして、殿下も安定の
「そのような許可出せるわけないだろう。帰らず残っていると思ったら、やはりそれが目的だったか。他の令嬢のように手をちょっと握ってもらって、満足して帰れば良いだろう? 」
殿下の言葉にアンガス辺境伯令嬢は
「なんてことを………。こんな近くで会える機会がそう何度もあるわけないではないですか! 殿下は婚約者の地位を使って、ベルンハルト様にお会い出来るからそんなことが言えるのでしょうが………もう、この際不敬などと気にせず言わせていただきますが、ベルンハルト様を独り占めしようとされていることは、高位貴族に不満の種を埋めまくっていることと同義ですからね! 」
おおぅ、アンガス辺境伯令嬢がまた吼えた。
黒豹と熊が威嚇しあっているよ。
これってもしかしてだけど私が止めなきゃいけない案件ですか?
ナターシャ様は………あ、ダメだ、なんか私のことを憎らしいと思いつつ、気を抜くとヘニャっとした弛んだ顔で見てきている。
ここは、アレだ、私の演技力で乗り越えよう………果たして通じるだろうか?
「あの………殿下、アンガス辺境伯令嬢、あ、あまり喧嘩なさらないで下さい。その理由が私であるのなら、私は………もう、皆さまにお会いすることはしない方が良いと思います………」
っく、は、恥ずかしい!
こんなあざといことを言うなんて!
もう、自分で言っているけど何様なんだ?
やってしまった後だけど恥ずかしすぎて涙目になってきたよぅ。
私は自分の恥ずかしすぎる演技のために真っ赤になっているであろう顔が見えないように手で隠した。
ガタガタッ!!
なんか凄い音がした。
たぶん椅子から誰かが立ち上がった音かな?
ん? 何やら近くに気配を感じるのだが………。
私は赤くなった顔が見えないように、押さえていた手から目だけ出してみた。
「ひょえ! 」
あまりにもビックリし過ぎて令嬢にあるまじき声が漏れてしまった………。
だ、だって、御三方が椅子から立ち上がり私の足元に勢ぞろいしていたんだもん。
そりゃ、よくわからない声も出るってもんでしょう!
しかも、三人とも顔が青ざめている。
ど、ど、どうしたの? 急に具合が悪くなったの?
なら、そんなところにいないで誰か呼ぼう?
今の私はか弱い? ただの令嬢ですよ?
「ふ、ふ、ふ、フローラ嬢…………そ、そ、そんな恐ろしい事を言わないでくれ…………想像しただけで心臓が止まりそうだ………」
殿下が青通り過ぎて、若干白くなった顔でそんなことを言ってきた。
そして、令嬢のお二人も
「め、め、めっそうもない! ベルンハルト様にもう会えなくなるなんて…………。あ、安心して下さい! 殿下と喧嘩などしておりません! アレは………そ、そう! ただのじゃれ合いです! ちょっとヒートアップしてしまいましたが何の問題もありません! 」
「べ、ベルンハルト様は何も悪いところなどありませんわ。これは元はと言えば私が悪いのですから………だ、だから、もう会わない方がいいなんて言わないで下さいまし! 殿下のことはもちろんお慕いしてはおりますが、ベルンハルト様にお会いしてしまった今、私はベルンハルト様を失うなんて絶対に無理です! 」
三人ともかなり必死な表情でそう訴えかけてくる。
殿下にいたっては小刻みに震えているし。
『モケ〜、さすが主だモケ〜。確実に仕留めにいってるモケね〜』
『そうでありますね! 的確に弱点を狙い撃ちであります! スナイパーってやつでありますね? 』
そこの精霊ズ、私にそんな意図はなかったわよ?
ただ、不毛な争いを止めようとしただけなんだから。
「あ、あの、皆さま落ち着いて下さい。私はただ争いを止めたくて………変なことを言ってしまって申し訳ありません!」
勢いよく謝った私に
「フローラ嬢はまったく、これっぽっちも悪いところなどない! 私もムキになってしまって、困らせてしまってすまなかった」
「わ、私も感情のままに行動してしまいまして本当に申し訳ありませんでした! 」
「私も………年下のベルンハルト様にあのような態度をとってしまい、お恥ずかしい限りですわ。………ごめんなさい」
お互いに謝りながらなんとかこの場はおさまってくれたようだ。
いろいろありましたが、なんだかんだでナターシャ様とアンガス辺境伯令嬢………(お名前はビビ様と言うらしい)のお二人は私とお友達になってくれることになった。
………まあ、友情の証?に抱っこされたのは謎だったけどね。
しかも殿下が尻尾をビタンビタンと叩きつけるぐらいには不機嫌だったんだけど、ちょっと帰りに手を繋いでみたらすぐにご機嫌な尻尾に早変わり………殿下、将来悪女に騙されないか心配です。




