第二十七話 止めるよ!
私とモケゾウが戯れている間に、殿下とエリー様もさらにヒートアップしていらっしゃった。
「だから、フローラ嬢は私の婚約者なんです! そんなにホイホイ近寄らないで下さい! 」
「はあ〜〜? な〜に、一丁前に婚約者ヅラしているのかしら? この間も言われていたでしょう? 仮よ、か〜り〜、私だって王族よ? いつだって代われるんですからね! 」
「叔父上は今まで結婚に全く興味持っていなかったじゃないですか! 」
「それは、今まで私の興味を引く子がいなかったからよ! フローラちゃんはもっと知りたいって初めて思えた特別な子よ! 」
「政略結婚が嫌なせいでそんな格好までしているのに、ここに来てフローラ嬢を求めるなんて………絶対に婚約者の座は渡しませんからね! 」
「ふん! この格好は趣味よ! それに別にこんな格好しているからって、恋愛対象は女性ですぅ〜〜。あと、わざわざ政略結婚しなくても結果は出しているわよ! 」
………なんか王族とは思えない非常にレベルの低い言い争いが繰り広げられているんですが。
これって誰が止めるの?
『モケモケ〜、主しかいないと思うモケよ? 』
やっぱりか〜〜。
だって、周りの魔術師さんや出てきている精霊達も、殿下とエリー様のやり取りを呆然と見つめているだけなんだもん。
誰かあの中に突っ込めるツワモノはいないのかね。
まあ、いつまでも不毛な争いをさせるのも可哀想なので、そろそろ………ね?
「殿下、エリー様」
私は自分でも引くぐらい、可愛さを前面に押し出し、あざとく二人を呼んでみた。
すると二人が………
うおっ! 首がぐるんってスゴい勢いでコッチ振り向いたよ!
「どうしたんですか? フローラ嬢」
殿下がキラキラ笑顔で私を見つめてきた。
っく、眩しいですぅ〜〜。
「あら、フローラちゃん! ふふ、そんなに可愛い顔してどうしたの? 寂しくなっちゃったかしら? 」
おふっ、エリー様も美人さんだから、そんな麗しい笑顔を向けられるとワタシ溶けます。
うう〜〜、自分で仕掛けたのに反撃を受けたよ〜〜。
何なんだよ、王族ってヤツはみんなもれなく美形なのかよ。
私は心の中で悪態をつきながらも笑顔を二人に向けて頑張った。
「あの、新人君と、その精霊も大丈夫そうなので、私はそろそろお暇させていただきたいと思うのですが………」
「では、この後私と二人でお茶でもどうだろうか? 」
「あら? 今日は私がお願いして来てもらっているんだから、私と一緒に精霊についてお話ししましょう? 」
………どうしてこうなった。
なんか二人がますます対抗意識を燃やしてバチバチしているのだが。
どうしたらいいんだ、この状況。
いくら前世英雄でもこんな状況に直面したことないよ。
イケメン二人が私を挟んで争うなんて………まあ、幼女だけど。
どうにもならない状態のこの場に、救世主の声が響いた。
「二人とも、そこまでにしておきなさい。フローラちゃんが困っているのがわからないの? 」
おお〜〜、王妃様!
と一緒に姫様もいる。
私より年下なのに、私よりも大きい、だけどやっぱり可愛らしい!
黒豹の獣人だけど、姫様はまるで可愛い黒猫ちゃんみたいだ。
王妃様や殿下はしっかり黒豹しているけど。
「母上………」
「義姉上………」
二人とも勢いが急になくなった。
さすが王妃様って感じだ。
「では、二人は仲良く出来なさそうだから………フローラちゃんこちらへいらっしゃい、今からミランダとお茶をと思っていたの。そこの二人はしっかり反省しなさい。こんな小さく可愛いフローラちゃんの前で言い争いなんてして恥ずかしくないのかしら? しかも、フローラちゃんを困らせるようなことまで言って………少しは女の子の気持ちを考えなさい! 」
王妃様の言葉に二人はぐうの音も出ない。
王妃様が二人を叱っていると、姫様が私の方へトコトコやって来た。
「フローラちゃん、一緒に行こう? 」
そう言って姫様が私の手を握ってきた。
くぅ〜〜、可愛いな〜、小首を傾げお耳がピクピクしている。
そんなの断れるわけがないじゃん。
「はい、喜んで! 」
私は笑顔で姫様の手を握り返した。
すると姫様がニッコリ笑顔で手を引いて王妃様のところへ連れて来てくれた。
「あら、ミランダ、フローラちゃんを連れてきてくれたのね。フローラちゃん、突然で申し訳ないんだけど私とミランダに付き合ってくれるかしら? 今、帰りの馬車も手配しておくからその間ちょっとだけ、ね? こんなところで男どもに囲まれて大変だったでしょう? 美味しいお菓子もあるの、きっとフローラちゃんも気にいるわ」
王妃様がニッコリ笑って提案してくれた。
帰りの馬車も用意してくれているなら、ちょっとだけお付き合いさせてもらおう。
「では、少しだけお邪魔させていただいてよろしいですか? 」
「もちろん! ふふ、嬉しいわ〜、じゃあ、あちらに用意しているから行きましょう。………あら、二人は付いてきちゃダメよ。フローラちゃんの前で言い争うようなお子ちゃまには用事はないの」
そう言うと王妃様は、姫様と反対の私の手を握り歩き始めた。
後ろで二人がどんな顔をしていたかを知らないで。




