第二十五話 ほら、ちゃんと上級だよ!
「モケゾウ! お願い! 」
私がモケゾウに呼びかけると
『モケモケモケ〜〜。僕が主の契約している上級精霊のモケゾウだモケ〜』
なんとも力の抜ける挨拶だけど、モケゾウらしい。
さて、例のアホっぽい精霊はモケゾウを見てどう感じたのかしら?
私は新人君の精霊がいた方を見たけど、見当たらない。
どこに行ったのかな? とよく見てみたら…………
!! ど、土下座しているだとぉーーーーー!
何やらさっきまでの威勢の良さはどこにいったのかわからない程の変わり身だ。
しかも、小刻みに震えている。
一体何が起きたのかな?
まだモケゾウは何もしてないはずなんだけど。
「モケゾウ? もう、何かしたの? 」
『モケ? 何にもしてないモケよ〜〜』
だよね〜〜。
なのに何であの精霊ビビってるんだ?
私はモケゾウと一緒に新人君の精霊に近づいた。
するとそれに気付いたのか、ますます震えが大きくなっている。
え? 本当に何もしてないんだよね? モケゾウさん。
「えーっと、どうして土下座しているのかな? ほら、見て? これが私の精霊のモケゾウだよ。わかるかな? モケゾウはちゃんと上級だよ」
私の言葉にようやく新人君の精霊が応えてくれた。
『は、は、は、はい! わかっています! 上級です! 絶対間違いなく上級です! 本当にすんません、調子に乗ってすんませんでしたーーーーー! 』
うわ〜〜、泣きながら謝ってるよ〜〜。
何故にこんな反応?
一目でモケゾウが上級ってわかったってこと? でも、同じ上級ならそこまで卑屈にならないよな〜。
「まあ、上級ってわかってもらったのは良いんだけど………どうして土下座で謝っているのかな? 」
別に普通に謝罪いただければ良いんですけど。
『ま、ま、まさか、モケゾウ先輩の契約者様だとは思わなくて、本当にすんませんでしたーーー!! 』
「モケゾウ………先輩? 」
『モケ〜〜。なんか見たことあるような気がしてたモケど、そいつ、精霊昇級試験の時にいたやつモケね〜。確か、会場で調子に乗ってたから僕がボコっておいたモケ』
おいおい、さらっとボコったって言ったよ。
そして、そんな試験会場で調子に乗ってたって、成長してないじゃないか。
「は、はい………モケゾウ先輩が上級試験受ける時に俺の他に十人精霊がいたんすけど、そいつらみんなモケゾウ先輩の実力も知らずに舐めた態度とってて………モケゾウ先輩は気にしていない風だったんすけど、そのうちの一人がモケゾウ先輩の契約者の人について何か言ったみたいで………んで、そこにモケゾウ先輩が反応したことに調子に乗った奴らが、というか俺も含めてなんすけど、全員ボコられました。俺たちが束になっても全く歯が立たなくて………その時の合格者モケゾウ先輩だけでした」
お、思ってたよりモケゾウがはっちゃけてた〜〜。
しかも全員ボコるって。
チラッとモケゾウを見ると………拳の調子を確かめるように拳を高速で打ち出している。
それを見た新人君の精霊が蒼褪めて、震えているよ。
さすがに土下座している子にそんな攻撃………しないよね?
そういえば、この精霊のことしか見てなかったけど、周りの皆さんはどうしたかしら?
私が周りを見渡せば………
皆さん、そんなに口を全開で開けていると虫とか入っちゃいますよ?
もう! エリー様まで………ってさすがに大口は開けてないけど、かわりに目が限界まで見開いている。
まあ、そうだよね、問題起こしてばかりの上級精霊が土下座しちゃってるんだものね。
心中お察しします。
ちなみに新人君はといえば、最初の火柱ドバーッに魔力取られててフラフラしているところに、自分の自慢の上級精霊が幼女の契約する精霊に土下座の事態に失神した模様。
近くの人に抱えられている。
「なんというか………さすがモケゾウ君って感じかしら。もしかしたら他の契約している精霊の中にも、モケゾウ君のこと知っている子いるのかしら? 」
エリー様の言葉に、姿を現していた精霊の中の何人かが反応した。
おや? もしかしてモケゾウは結構有名だったりするのかな?
「ねえ、モケゾウって結構有名なの? 」
『モケモケ〜、有名というか、僕、精霊王に頼まれて悪さしている精霊がいたら指導していたモケよ。だから、昔からいる精霊の中では結構僕を知っているやつはいるモケね〜』
精霊王………なんかすごく強そうな言葉がきたんですけど?
上級でも珍しいって言ってるのに、特級すっ飛ばして精霊王って。
モケゾウも私がいない間にいろいろあったんだね。
でも、ほら、エリー様も、他の魔術師も完全に固まっちゃったよ。
「えーっと、エリー様? 大丈夫ですか? ほら、でもこれで解決したじゃないですか、良かったです」
私はこれで終わらせようと、満面の笑みでエリー様に微笑んだ。
どうかこれで誤魔化されて下さい!




