第二十三話 またお城だよ!
私の目の前を嬉しそうなモケゾウが、マントをヒラヒラとたなびかせながら駆けていく。
飛んだり跳ねたり、カワイイな〜
ハンカチを装備したモケゾウは明らかに拳のスピードが上がっている。
付与した術式がイイ仕事しているらしい。
『モケ〜モケモケ〜』
鼻歌? 混じりでご機嫌のモケゾウだ。
時々ハンカチを触っては頬ずりしている………っく、カワイイな、おい。
「え、エリー様からのお呼び出しですか? 」
今日も今日とて、王族関連での呼び出しの為か父の表情が冴えない。
「ああ、魔術師長がモケゾウ様にお願いがあるとかで………しかもだ、余計な気遣いな気がするのだが、フローラとモケゾウ様の二人で来て大丈夫だと言ってきている。いくらフローラがしっかりしているとはいえ、まだ六歳だぞ………心配過ぎる。やはり私もついて行けるように魔術師長に願い出るか………」
うーん、心配してくれる父の気持ちは嬉しいけど、お城に行くなら父はあまりついて来ない方が良いんだろうな〜。
どうしても高位貴族に接する機会が増えちゃうから、いくらハンカチで心労を軽減してるとはいえ負担が大きいと思う。
そんな私の気持ちがわかったのかモケゾウが口を開いた。
『モケモケ〜、主の父上、主のことは絶対に僕が守るから大丈夫モケ! もしもの時は僕が大きくなって主を抱えて逃走するモケよ〜』
………モケゾウの今の実力で逃走ってありえるのかな?
「おお〜! モケゾウ様ありがとうございます! 本当は私がついていってあげたいですが、実際何かあった時に守りきれる保障がなかったので、その言葉は有り難いです。父として情けないですが、モケゾウ様が頼りです、よろしくお願いします」
ひとまず父もモケゾウの言葉に安心したようだ。
さすが上級精霊の言葉は絶大だ。
「それではフローラ、三日後迎えの馬車が来るようだから心の準備をしておいておくれ」
「はい、わかりました。モケゾウと二人で行ってきますね」
ところでモケゾウにお願いって何だろう?
もしかしてまた、態度の悪い精霊の更生だったりして………。
なんて変なことを考えたからだろうか………こんなことになるのは。
「ごめんなさいね〜、呼び出したりして」
エリー様が相変わらずのドレス姿で出迎えてくれた。
この姿って、隠しているわけじゃなくていつもなのね。
しかもエリー様の後ろに隠れるようにキャロラインもいる。
「いえ、大丈夫です。ところでモケゾウにお願いがあるとのことでしたが………」
「そうなのよ〜、ちょっと面倒なことが起きてね………」
面倒なこと………すでに帰りたいけど、モケゾウに頼みたいってことは上級精霊を頼りたいってことか。
「それは、モケゾウじゃないとダメ何ですか? 」
「そうなの、一度キャロラインで試したんだけどダメでね〜」
その言葉を聞いたキャロラインがエリー様の後ろから出て来て
『言っておくけど俺は止めることは出来たぞ。ただ、奴らは意地が悪い。俺の話なんて全く聞きやしない。とっとと放り出せばいいんだ』
キャロラインから意地が悪いって言われるなんてよっぽどだ。
「まあ、実際無理やり押さえ込んで言うこと聞かせることは出来ると思うわ。でも、たぶんモケゾウ君なら大丈夫だと思うのよ。それからこれはいい機会になると思ってね」
「いい機会………ですか? 」
「ええ。ほら、フローラちゃんリースの仮の婚約者じゃない? でも、まだモケゾウ君のこととかお披露目してないから浸透してないのよね〜。で、今回魔術師連中にだけでもモケゾウ君の実力を見せつけようかと思って。それがちょうど今起こってる問題にいいな〜って」
「そう……ですか。それで、問題というのはどのようなことなんですか? 」
「それがね………この間、うちの新人魔術師が急に上級精霊と契約を結ぶことに成功したの。まあ、そこまでは戦力も増えるし喜ばしいことだったんだけど………その新人君と上級精霊がすごーーーーーく調子に乗っちゃったの。先輩魔術師とその相棒の精霊を馬鹿にしたり、命令違反したりとか………キャロラインが力づくで止めたんだけど、アレは反省はしてないわね。しかも面倒なことにそれが高位貴族の中でも高位の子息だったから、数少ない下位貴族の魔術師が萎縮しちゃって大変なの」
うわ〜面倒くさい。
変に力を持った、権力持ちの貴族なんて関わりたくない案件トップだよ。
でもな〜、一応仮とはいえ婚約者になったからには役に立つところ見せないと………まあ、モケゾウに頼ることになっちゃうんだけどね。
「モケゾウ、そういうことみたいなんだけど………大丈夫かな? 」
『モケモケ〜、何の問題もないモケよ〜。今の僕はこの主にもらったハンカチもあるモケ。そんなぽっと出の精霊なんてポポイのポイモケよ〜』
そっか〜、ポポイのポイか〜。
新人魔術師君、早めの降参をオススメします。




