第7話 黒髪メイドと社交界でやっておくこと
またまた1年経って6歳になったよ。
6歳になってから、勉強の時間が増えてマジで面倒・・・。
でも、社交界に出れるようになったのは嬉しかったよ。
社交界の花達に挨拶するのは、とても楽しいんだよ?
美人ばかりとは言えないけど、ときどき絶世の美女なんかも現れるし。
いろいろな利点がある。
「トール様。そろそろお着替えしてください」
眼鏡メイドさんではないメイドさんが促してきた。
このメイドさんは、18歳ぐらいで髪色は黒で三つ編みにして腰あたりまでの長さで切りそろえたスレンダーな美少女で、3歳の時から俺のお気に入りのメイドさんの一人だ。
髪色が黒で親しみが持ちやすいし、顔も可愛いからね。
初めて会ったは、人形みたいに仕事をこなすだけで笑わないから、冷たい印象を持っていたけど、それには理由があった。
この国では茶髪や金髪が主で、黒髪は珍しいらしく、それが原因でいじめを受けたりしていたらしい。
俺は、着替えを手伝われるとき、しゃがんだことで俺の目の前にきた黒髪に惹かれて、指先で一束摘んだ。
黒髪メイドさんは、王子の俺が初めて見るだろう黒髪を馬鹿にされるんだと思って不安そうにしていた。
まあ、黒髪のせいでいじめられていたらしいから、俺からも、いじめられると思ったんだろうね。
俺は無邪気な幼児を演じて、当時は肩までしかない黒髪を触るそうにメイドカチューシャをつけた頭を撫ぜて、黒髪を褒めまくった。
黒髪メイドさんは俺の反応に嬉しくなり、不安と相まって、涙を流して泣いた。
俺は、泣き出したことに大げさに驚き「どうしたの? おねえさん? どこか痛いの?」とか心配する3歳児を演じ、泣き続ける少女をなんとか泣き止ませようとし、手を大きく伸ばし彼女の頭に優しく抱きつき優しい声で、囁く。
「だいじょうぶ・・・だいじょうぶだよ・・・」
と延々と泣き止むまで優しく抱いた。
彼女が落ち着くのを見計らい腕の力を緩め、一旦離れ「だいじょうぶ?」と顔を覗き込みながら聞く。
黒髪メイドさんは、予想通り涙を拭き取り「大丈夫です・・・ありがとうございます」と言い、着替えを再開させた。
俺は、それから会うたびに時間をかけながら黒髪を褒めた。
そして、3年程褒め続けていると彼女は俺に心を許し、よく笑顔を見せてくれるようになり、コンプレックスの塊りで嫌っていた黒髪を好きになり、どんどん伸ばしていった。
それに、表情も豊かになり、年を重ねるごとに美しくなる彼女を見るのはとても楽しい。
「トール様?」
・・・おっと!? 思い出の世界にトリップしていて聞いていなかった。
確か・・・着替えだよね?
「今日は、なにするの?」
黒髪メイドさんは、服を持ってきて説明を始める。
「本日は、ターナー様の11歳のお誕生日パーティですから」
俺の家族である王族とは、食事を共にするぐらいの接点しかないから、いまいち家族って感じがしないんだよなー。
毎日来ていた両親も俺が勉強し始めたあたりから、あまり来なくなったしね。
兄弟とも遊ぶ時間もほとんどない。
まあ、皆の好感度を落さないように振舞っていたから、家族仲は良好だと言えるだろう。
「兄上の誕生日なのですね」
無邪気に喜び、黒髪メイドさんに笑顔を向ける。
「はいっ、そうなんですよ」
黒髪メイドは、俺のことを心の底から好きになっているようで、笑顔を向けるたびに飛び跳ねるように喜ぶ。
「では、早く行かないといけませんね」
「はいっ!」
さてと・・・今度のパーティにはどんな人が来るんだろうな・・・すごく楽しみだ。
黒髪メイドさんに装飾いっぱいのコスプレみたいな白いスーツに着替えさせてもらいパーティ会場に向う。
ちなみに付き人は黒髪メイドさんではなく、眼鏡メイドさんだ。
黒髪メイドさんは、諸事情により連れて行けないので、眼鏡メイドさんがいつも付き人になっている。
まあ、諸事情と言っても黒髪だからというくだらない理由だが・・・。
もちろん部屋を出るときに寂しそうにしている黒髪メイドさんにきちんとフォローを入れるのは忘れない。
眼鏡メイドさんに連れられて会場に入り、貴族達に挨拶をしていく。
「あら、トール様ではないですか?」
「トール様、お久しぶりです」
「大きくなりましたね」
俺の周りに美女が集まってくる。
パーティなど社交界に出るようになってから、女性に愛想を振舞っていたのが原因だ。
男にも嫌われない程度には愛想よくしているが、女性にはそれが霞むほど愛想を振る舞い笑顔を見せているからね。
社交界の美女という美女が集まり男を蚊帳の外に追い出し、俺に笑顔を向ける。
周りが笑顔の美女! マジで最高っ!!
「これより、ターナー様の11歳の誕生日会を始めます!!」
国王の執事をしている初老の男が会場に声を響かせ注目を集める。
それに伴い、会場からは話し声が消え、視線が会場の奥にある壇上に向う。
11歳になった兄上がゆっくりと壇上に上がり挨拶を行う。
「本日は、僕の誕生日を祝いに来てくれてありがとう」
短い挨拶だったが11歳なら仕方が無いだろうな。
次に父上が壇上に上り、祝いに来てくれた貴族などに礼を述べて立食が行われるはずだったが、父上は挨拶が終わった後も放し続けた。
「本日はもう一つ報告がある・・・! 我が息子のターナーの婚約者を決めた!! 五大貴族のアリーエル家の第一子のナナリー・アリーエルだ!!」
兄上の隣に同い年ぐらいの栗色の髪をした美少女が立つ。
俺は、彼女を見たときにやっぱりこの娘かと思った。
彼女は、兄上の幼なじみで、パーティの時いつも一緒にいて仲がよかったから、婚約者に選ばれても不思議ではなかった。
「トール。お前の義姉さんになるナナリーだよ」
いつの間にか、兄上が婚約者を連れて俺の元へ紹介しに着ていた。
「ナナリー・アリーエルです」
照れくさいのか二人とも少し顔が赤い。
「トールです。よろしくお願いします」
とありきたりな挨拶をかわす。
「じゃあ、トール。僕はまだ挨拶があるから行くよ」
そう言って、兄上は大人たちのところへ言ってしまった。
そして俺は、ナナリーの後姿を見ながら切に思う・・・手を出さなくてよかった・・・と!!
「「トール様ー!」」
後から俺を呼ぶ子供の声がする。
振り返ると貴族や他国の王族の姫君などが集まっていた。
美女達にきちんと別れを告げて、彼女達の方に駆け寄る。
「やあ、みんな。今日は兄様の誕生日会にきてくれてありがとう」
「はいっ! トール様の兄上なんですから当然ですっ!!」
みんな俺に笑顔を向けながら、擦り寄ってくる。
これが、俺がパーティや社交界を楽しむようになった理由だ。
貴族や姫たちは、いろいろな習い事や教育を受けているので、みんな美少女だ。
俺は、彼女達に気を配り、優しくして好かれるように頑張った。
パーティが初めての子には、手を引いて安心させたり、高飛車で我侭な子にも、ある程度のことでは怒ることなどはせずに、優しく笑いかける。
面倒そうに思えるが、彼女達が美人に成長したときのためなので、俺には楽しく思えた。
彼女達が美人になったときのことを考えると・・・えへへへっとマズイマズイ。
ナナリーも可愛かったが、兄上と不仲になるのは嫌だし、二人はすごく仲がよかったから、手を出すまねはしていない。
ただ遠めに観察していたぐらいだ。
パーティを終えて、俺はいつものように彼女達に別れを告げて部屋に戻り、部屋の中で待っていた黒髪メイドさんに寝巻きに着替えさせてもらい眠った。
このまま行けば、彼女達が大人になったときに誘惑しやすくなる。
女性を惹きつけるような能力や権力や容姿があっても、心の底から惚れさせたいのなら時間をかけるべきだよな?
まさか、俺が思惑があって優しくしているとは思うまい・・・。
6/23日誤字直しました
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