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インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

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第80話 ナイフ

 B2にて。


 ニトラは迷いなく、スズメへと引き金を引いた。


 その瞬間、スズメはポケットの中のスイッチを押し込む。


バンッ!


 乾いた銃声と、ほぼ同時だった。


 ニトラの背後で、突如として爆発が起きる。


 衝撃波が空気を歪ませ、視界が揺れた。


 照準が大きく逸れ、放たれた銃弾はスズメの頬を掠めて通り過ぎる。


 皮膚が裂け、赤い線が走った


「ッ!?」


 腹部に深く突き刺さり、ニトラの身体が宙に浮いた。


「ぐッ……!」


 苦悶の声を漏らし、ニトラはよろめく。


(何が起きた……!?)


 思考が追いつく前に、スズメは走りながらナイフを投げ放っていた。


 刃は空中で粉砕され、金属の灰となって霧散する。


 柄は一直線にニトラへと飛来する。


──その瞬間。


 スズメの指が、再びスイッチを押した。


ボォンッ!


 爆発。


 ニトラの目の前で閃光が弾け、衝撃に身体が吹き飛ばされる。


 床を転がるニトラ。


(柄に……何か仕掛けがあるのかッ!?)


 だがニトラは、即座に体勢を立て直した。頭部から血を流しながらも、鋭い眼差しでスズメを睨み据える。


(普通のナイフなら、能力で刃を塵にできる……。厄介なのは、爆発するナイフ……。だが、柄さえ避ければ──


 全神経を回避に集中させる。


 その刹那。


 スズメが、何かを投げた。


 透明な──しかし、確かに“存在”する何か。


 蛍光灯の光をかすかに反射しながら、それは異常な速度でニトラへと迫ってくる。


「ッ!?」


 反射的に能力を発動しようとする。


 だが──それは、塵にならなかった。


 避ける暇もない。


 次の瞬間、鋭い衝撃が腹部を貫いた。


 透明な刃が、深々と鳩尾に突き刺さる。

 

 それは、“ガラスのナイフ”であった。


 息が詰まり、視界が白く弾ける。


 ニトラは、その場に膝をついた。

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