第80話 ナイフ
B2にて。
ニトラは迷いなく、スズメへと引き金を引いた。
その瞬間、スズメはポケットの中のスイッチを押し込む。
バンッ!
乾いた銃声と、ほぼ同時だった。
ニトラの背後で、突如として爆発が起きる。
衝撃波が空気を歪ませ、視界が揺れた。
照準が大きく逸れ、放たれた銃弾はスズメの頬を掠めて通り過ぎる。
皮膚が裂け、赤い線が走った
「ッ!?」
腹部に深く突き刺さり、ニトラの身体が宙に浮いた。
「ぐッ……!」
苦悶の声を漏らし、ニトラはよろめく。
(何が起きた……!?)
思考が追いつく前に、スズメは走りながらナイフを投げ放っていた。
刃は空中で粉砕され、金属の灰となって霧散する。
柄は一直線にニトラへと飛来する。
──その瞬間。
スズメの指が、再びスイッチを押した。
ボォンッ!
爆発。
ニトラの目の前で閃光が弾け、衝撃に身体が吹き飛ばされる。
床を転がるニトラ。
(柄に……何か仕掛けがあるのかッ!?)
だがニトラは、即座に体勢を立て直した。頭部から血を流しながらも、鋭い眼差しでスズメを睨み据える。
(普通のナイフなら、能力で刃を塵にできる……。厄介なのは、爆発するナイフ……。だが、柄さえ避ければ──
全神経を回避に集中させる。
その刹那。
スズメが、何かを投げた。
透明な──しかし、確かに“存在”する何か。
蛍光灯の光をかすかに反射しながら、それは異常な速度でニトラへと迫ってくる。
「ッ!?」
反射的に能力を発動しようとする。
だが──それは、塵にならなかった。
避ける暇もない。
次の瞬間、鋭い衝撃が腹部を貫いた。
透明な刃が、深々と鳩尾に突き刺さる。
それは、“ガラスのナイフ”であった。
息が詰まり、視界が白く弾ける。
ニトラは、その場に膝をついた。




