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インナーヒットマン  作者: 太田
第5章 真実と雛

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第76話 1.5階

 もう一度デバイスを確認した。


 表示されている位置情報星は、確かに僕の“目の前”にいることになっている。


 だが、現実には何もない。


 ただ、廊下が続いているだけだった。


 位置情報がズレている?それとも、別の階にいるのか?


 頭の中で、これまでの動きを必死に整理する。


 B4はセッカさんが向かった。

 B2にはスズメさん。

 B3、B1、1階、そこは僕たち自身で確認した。

 どこにも、星はいなかった。


 ───じゃあ、どこだ?


 考えれば考えるほど、答えは見えない。


「ノアちゃん…何かこれまで通った道で変な所は、なかった?」


「変なところ……?」


 ノアちゃんは少し考え込み、はっとしたように顔を上げた。


「あ」


「あった?」


「B1から1階に上がる階段。あそこだけ、妙に段数が多かった」


 その言葉で、記憶が繋がる。確かにやけに長かった。感覚の問題じゃない。物理的に長いのだ


 僕たちは急いで階段へ引き返し、下る。


 確かにB1から1階へ向かう、その階段だけ一階分、余計に空間がある。


 まるで、そこに“存在しない階”が挟まっているみたいだった。


 だが、あるのは無機質な壁だけ。ノアちゃんが壁に耳を当て、軽くノックする。


コンッ、コンッ。


 音が、妙に反響した。


「……この中、何かある」


「え?」


「あなたも、耳を当ててみて」


 僕も壁に耳を押し当てる。風の抜けるような音。


 確実に、この先に“空間”がある。この壁の先何かがあった。しかし、コンクリートの壁が行く手を塞いでいた。


「ノアちゃんの能力でこの壁どうにかできない?」


「無理。わたしの能力は、見たものを“固定する”能力。壁を破壊なんてできないわ」


「…」


 僕は、ふとある考えに行き着く。


「ノアちゃん。もしこの壁を“階段ごと”爆破したら……一時的に、階段を“固定”できる?」


 ノアちゃんは、少し考えてから答えた。


「……できる。でも、せいぜい二秒よ」


「それでいい」


 僕たちは、少しだけ階段を上がる。


 さっき兵士の死体から拝借した手榴弾を、強く握った。


「ノアちゃん、しっかり掴まって」


 彼女を背負う。


 その瞬間


バタンッ!


 上の階で、扉が開く音。心臓が跳ね上がる。


「突入!!」


 どどどっ、と足音が近づいてくる。


 僕は、急いで手榴弾のピンを抜き、壁に向かって投げる。


ドォォン!!


 当たりは、爆音と共に凄まじく揺れる。


 黒煙が階段を包み込む。


 しかし、階段は、壊れない。視界は、真っ黒だ。


「行って!」


 ノアちゃんの声が響いた。


 僕は、走り出す。手榴弾を投げた壁に向かって。


 爆破された壁には大きな穴が空き、その先に“横へ続く通路”が見えた。


 飛び込む。


 直後


ガラガラガラッ!!


 凄まじい音とともに、背後の階段が一気に崩落した。


「うわぁぁぁぁ!」


 兵士たちの悲鳴が、下へ下へと消えていく。


「ノアちゃん……大丈夫?」


「ゴホッ、ゴホッ……だ、大丈夫よ」


 ノアちゃんは胸を押さえ、深く咳き込んだ。


 能力の反動だ。分かっていたはずなのに、胸の奥がちくりと痛む。


 ゆっくり立ち上がる。


 そこは、暗い廊下だった。


 鉄パイプ。むき出しのコード。不規則に張り巡らされた配線。


 空気は重く、異様な気配が肌にまとわりつく。


 僕は銃を構え、ノアちゃんと慎重に進む。


 やがて、左手に一つのガラス製の扉が見えた。


 近づくと、自動で開く。


 その中を見た瞬間、息が止まった。


 星がいた。


 落ち着きなく動き回り、薬品を手当たり次第にカバンへ詰め込みながら、片手でパソコンを操作している。


 そして、そのすぐ前。


 セラさんが虚ろな目で、ただ立ち尽くしていた。まるで、魂を抜き取られた人形のように。

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